「あれ?」
「岳人、どうかしたん?」
「いや・・・・なぁ、ここにドリンク持ってきてくれたのって侑士?」
「さあ。・・・一年の誰かちゃう?」
「・・・そうだっけ?」
『クローバー9』
卑怯だと思ってた。
「よっしゃ!行くぜ、侑士!!」
「・・・・・」
「・・・侑士?」
「ん?ああ、堪忍岳人。練習しよか。」
「・・・・・」
部活の練習中。
たまにぼうっとする侑士。
のこと考えてたくせに。
そうやって何もなかったかのように笑う。
「すみません、宍戸さん!」
「長太郎もう一本行くぜ!」
「はい!!」
どういつもこいつも、上辺だけ装って
わざと平気なフリをしてる。
「ぐー」
「ジロー!起きろよ!!」
「ん?あ。跡部ー」
「・・・・・そんなに俺を怒らせてぇのか?ジロー。」
「え?違うよ!!わかったって!!起きますー!!」
卑怯だ。
余裕の笑み
いつもみたいに寝たフリ
偽りに嘘を重ねて
忘れろとまで言った跡部。
「(・・・卑怯じゃね?)」
「岳人?行くで」
「・・・ああ。」
悲しみに勝つことと、の死をなかったことのようにするのとではまったく違う。
俺には、
俺にはレギュラー達の振る舞いが
後者に思えて仕方がなかった。
「またケガ?岳人」
「・・・うるせー」
「・・・・侑士。押さえてて。」
「了解」
「ちょっと待てー!!染みてる!染みてんだよ!!いってー!!!」
「自業自得ですー」
と俺との関係?
部員とマネージャー。
同級生。
ケンカ仲間。
友達・・・・って呼ぶのはなんか違う。
そうだな、例えば
悪友とか。
「岳人―。」
「なんだよ、ケガしてねえよ!」
「そんな嫌がらないでよ。間違って欲しかったジュースじゃないやつ買っちゃったから岳人にあげようと思ったのに」
「マジ?が俺に?珍しいこともあるんだな。」
「・・・・そういうこと言うんだ。」
「あ!悪かったって!それよりジュース!」
と俺との関係?
「それより?」
部員とマネージャー。
「悪かったって!」
同級生。
「まっいいや。はい、岳人」
ケンカ仲間。
「サンキュー。・・・・ってこれなんだよ!」
友達・・・・って呼ぶのはなんか違う。
「ゴーヤコーヒー。ちゃんと飲んでね。」
「・・・・無理」
そうだな、例えば
悪友とか。
「・・・岳人。大丈夫?」
「・・・・ああ。」
「あと少し。がんばれ!」
「!!」
負けそうになっている練習試合。
バテてる俺の頬にが冷えたドリンクの入った容器をあてる。
俺の悪友は
「大丈夫、岳人。あたしがいるよ。」
俺のケガに一番に駆け寄ってくる。
俺がへばってるときに一番に駆け寄ってくる。
俺が辛いときに一番に気付く。
「・・・・なんだ、それ。」
「だからがんばってこいって言ってんの。わかった?岳人」
俺の、悪友は。
「バカ。言われなくても俺はがんばるんだよ!」
誰よりも側にいて、誰よりも俺たちのことを分かってた。
なのに、跡部は言った。
‘忘れろ’
そんなことできもしない俺たちは決めた。
泣くのはやめよう。
前に、進め。
でも、涙を止めたあいつらを見て俺が思うのは、
あいつらはがいない現実から逃げ始めているということ。
・ ・・そんなの、卑怯だ。
あんなに俺たちのことを見ててくれて、
あんなに俺たちのことをわかっててくれて、
そんなを思い出すまいとしている。
あいつのこと考えても、それさえなかったことにして
悲しくなんかないと装う。
思い出さないってことは、忘れたも同じだろ?
こんな、
こんな上っ面だけの忘却がとても癪に障った。
あいつらと同じようにしかできない俺にも。
青空が目に染みて。
日向ぼっこをたくらむ俺。
誰にも邪魔されたくなくて、人の寄り付かない小さな学校の裏庭を選んだ。
寄り付かないと言うよりはその裏庭の存在を知っている奴が少ない。
だから人が来ない。
も、お気に入りだった場所。
「(・・・あ。)」
座り込み、うずくまって顔を隠す。
小さく震える肩。
裏庭の先客。
「(鳳)」
鳳は、俺には気付かない。
泣いているのかと思ったけど、
鳳は泣いていなかった。
顔を上げて空を見た鳳の顔は、とても悲しく。
泣くのを耐えているような、そんな顔。
「(・・・・・・・・・・・・・・・・)」
卑怯だなんて思っても、
卑怯だなんて言えなかった。
鳳に、気付かれないように、走り出した俺。
と俺との関係?
部員とマネージャー。
同級生。
ケンカ仲間。
友達・・・・って呼ぶのはなんか違う。
そうだな、例えば
「・・・おい、。」
誰もいないはずの授業中のコート。
踏み込んだ足はコートの中央へと進む。
卑怯だなんて思っても、
卑怯だなんて言えなかった。
「・・・あいつら、必死なんだ。コートに真っ直ぐ立っていようとして」
みんながみんな、無理をして。
悲しみを隠しても、悲しそうにしか見えないのに。
想いも、思い出も閉じ込めて。
「でも・・・・お前なら許してくれんのかな。」
卑怯にも、悪友。
俺たちのことを分かってくれてるお前だからと、
俺はまだ言わなくてもいい?
コートに真っ直ぐ立っていようとしているあいつらに
卑怯だなんて。
なあ、でも。いつまで続けられるんだろうな。
こんな、上っ面だけの忘却。
「あれ?・・・・俺のタオル?」
コートを囲む石の階段。
一箇所に綺麗にたたまれた洗い立てのタオル。
「俺タオル洗ったっけ?っていうかこんなふうにたたまないし、ここに置きっぱなしにした記憶もないし。・・・ん?」
ひらひらと。
持ち上げて、広げたタオルからコートの上に何かが落ちた。
3枚の葉。
綺麗な、緑の。
「・・・・・・クローバー?」
<たったったっ>
誰かがコートを走り抜ける音がして
俺は後ろを振り返る。
妙な違和感。
確かに聞こえた足音。
でもそこには誰もいなかった。
コートに立っていたのは、俺だけ。
落ちたクローバーをしゃがんで手に取った。
3枚の葉。
・ ・・・・そう言えば。
探してるって言ってたっけ。
3枚じゃなくて4枚の葉
<ザァッ>
強い風に思わず目を閉じた。
クローバーが飛ばされないように両手で包んで。
次に目を開けたとき、俺は驚くことになる。
「・・・・・・・・・・・・・・・・?」
コートを囲む石の階段。
その一番上に、
がいたから。
「?・・・・・・だよな?!」
紛れもないその姿。
俺を見て笑った。
「!」
<ザァッ>
「あっ!!」
再びの突風。
手にあったクローバーが風にさらわれて俺の頭上へのぼる。
俺はそれを目で追うが、クローバーはいきなり消えてしまう。
すぐに止んだ風。
俺ははっとして石の階段の一番上を見たが、
もうそこに
の姿はなかった。
と俺との関係?
部員とマネージャー。
同級生。
ケンカ仲間。
友達・・・・って呼ぶのはなんか違う。
そうだな、例えば
悪友とか。
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