誰も、何も




口にはできなくて。




ただ、ジローが懸命に涙を腕で拭うかすかな物音だけが




部室内に響いていた。


















『クローバー7』














‘あいつがいなくなってから誰一人としてまともに練習できていない’






跡部の残していった言葉が頭に響いていた。



宍戸はうつむき何かを考え



鳳もまた拳を握り締め何かに耐えている。



岳人はロッカーにもたれてジローを見つめ



ジローは目をこするばかり。









が死んでからだ。’








・・・跡部。



お前はがいなくなってから



ずっと何を考えてたん?



見つめた部室内にある開かれた窓の外



部活が終わる時間になっても、まだ暗くはなりきれない空が見えた。






「・・・・・・・・・・・・もうじき、夏やんなぁ」


「・・・忍足?」


「見てみぃ宍戸。空がまだ明るいで。」






俺の声にこの場の誰もが窓の外に目をやる。






「・・・ホントだ。青だ」


「・・・ぐすっ・・・・うん。・・・・青。」






岳人の言った空の色に



ジローが涙ながらに同意した。






「・・・・・(もうじきやな、)」






日が沈むのが遅くなって



暑くて、



風と影が恋しくて



それが妙にうれしい。



と一緒に巡るはずだった3度目の夏















はそんなこと望んでねぇよ!’













・・・せやな、跡部。



もう、







































































悲しみにとらわれてばかりは、いられない。











































































































「・・・・・跡部の言う通りやな。」


「・・・侑士」


「泣きやまなあかん。」


「っ・・・忍足!」


「っ・・・・」






潜めた声



必死に涙を耐えようとしているジローの嗚咽が大きくなり



宍戸がジローに駆け寄った。







「忍足先輩!忍足先輩も先輩を忘れろなんて言うんですか!?」







鳳の目に涙がにじむ。



俺を見ていないのは涙を腕で隠すジローだけ。





「・・・俺にもできないことを言うわけないわ」





跡部も、忘れることなんてできはしない。



でもあいつは振り向かないから。



忘れない。



何があっても何をしても。



どこにいても、何を見ても。



悲しみは、への想いだ。



でも






「でも跡部の言うとおりやん。が死んでから俺らまともに練習できたことなんてあったか?」


「・・・・・」


「・・・・・・・・宍戸。お前の夢って何?」


「夢?」


「夢や」






宍戸は腕を組んで考え、俺を見る。



鳳もまた宍戸と同様



俺の真意をなんとかわかろうと俺を見る。






「・・・・俺の夢はジローと一緒や。氷帝が全国優勝すること。が全国1位のマネージャーになること」


「「「「!!」」」」


「お前らは?お前らの夢は?」


「っ・・・・・・」






ジローが部室の床に泣き崩れる。



腕で目をこすり、うつむいては床に涙を落として。



宍戸がジローの元へしゃがむと同時に、



俺もジローの元へ歩み寄る。






「なあ、ジロー。もう泣きやまなあかんねん。忘れろなんて言わん。だからせめて悲しみに潰されないようにせな。」


「・・・・・・・・どうして?・・・・なんで?なんで?なんで忍足は・・・・・」


「ん?」


「なんで泣かずにいられるの?」


「ジロー。」





宍戸がジローの背中をぽんと叩く。



俺がジローの元へしゃがむとジローは瞳に涙をためて俺を見た。






「跡部も、忍足も・・・・。悲しいのを隠してる。だから俺が忍足たちの分まで泣かなくちゃ。」


「・・・ジロー」


に、伝えなくちゃダメだって・・・思って・・・・。」






俺は、確かに隠してた。



ジロー、お前。



俺たちのためにも泣いてたん?






「・・・・・・・・・・・俺かて泣いたわ。」


「・・・忍足」






宍戸が俺を呼んだが、俺はそれには応えずに立ち上がって、



部室の机の上にある部誌を手に取った。



ぺらぺらとめくって、あるページでとまる。






「俺、ちょっと怒ってたんや。に。勝手にいなくなったくせにって。」


「忍足先輩。・・・先輩だってっ・・・自分がいなくなるなんて知らなかったはずです!」


「・・・・せやな。・・・・・でもな。結局泣いてのはの前やった。怒ってたはずやのに。の前でしか泣けへんかった。」


「(!!)侑士、それ・・・・」


「なあ、ジロー。はどんな奴やった?」







泣きやもう。



やらなければならないことがある。





「・・・・・?」





再びジローの前にしゃがんで差し出したのは、



部誌の間に挟まれていたが映った写真。



俺が涙を落としたもの。






「岳人。これいつ現像してたん?見つけたときもらってしまおうか迷ったんやで?」


「それ・・・撮った次の日ににあげたんだ。あいつ、はさんで忘れて行っちゃったんだな・・・」


「・・・・・・なあ、ジロー。俺たちが悲しにとらわれてを足かせにしてその場にとどまってたらが、嫌がる。」


「・・・・・・・」


「跡部が進もうとしてる。俺たちは?振り向いて泣いてるばかりでええの?」





の死を足枷にしては俺たち以上にきっとを悲しませるから。



約束なんかしなくても見ている場所は同じだっただからこそ



誰よりも俺たちの夢が叶うのを待っている。



だから、泣き止もう。



















































































































やらなければならないことがある。











































































「・・・・進もうや。」


「・・・忍足先輩。」


「・・・・・・」





立ち上がる俺。



みんなと目を合わせてはうなずく。



忘れない。



でも、振り向かない。







もうじき夏やな。







「でも・・・忍足。俺やっぱり・・・」


「ジロー。とまらないんやったら、止まるまで拭うんや。」


「っ・・・・・」





俺たちの想いは今手にしている写真のようだった。



焼きついてはがれない。



でもせめて、表面上だけでも取り繕って、



あのつらいコートの上でこそ悲しみを見せてはならない。



悲しみにとらわれていては進めない。



俺の夢。俺たちの夢。



の、夢。






「泣きやまな。・・・・・俺たちのために。のために。」


「っ・・・・・・・」


「芥川先輩っ・・・」


「・・・・・・」


「宍戸。お前・・・・」


「バカ向日。お前もだ。」






誰もの頬に、雫。



泣いてもいい。今だけは。



だから、泣くだけ泣いたら

























が側にいた頃の俺たちに戻ろう。





















と同じ場所をみつめよう。



今は振り返ってもはいないから。



前だけを見つめて。






「・・・・・なあ宍戸。・・・・・俺もな。俺も、が好きやった。」


「・・・・・忍足」


「好きやった・・・・」


「・・・・ああ・・・・」






一滴の涙でどれだけ悲しみは外へとでていくのか。



写真のように色あせても、決して消えてはくれないのに。



まただ。



いつだって俺が泣けるのは、の前だけ。



一枚の写真を、そっと机の上においた。



大切な人が映った写真を。





































泣きやもう。































































































が側にいた頃の俺たちに戻ろう。





























































End.                           気に入っていただけましたらポチッと。