長太郎はその日、1人で帰りたいと言った。






「なんや、宍戸。今日は鳳にフラれたん?」



「バーカ。・・・・あいつも1人で考えたいことでもあるんだろ。」



「・・・・・せやな。いろいろたまってたんやろな。あんなに泣いて。」



「・・・・・・・・・忍足」



「ん?」






コートを染める夕日が沈めば



もう少しで1日が終わる。























「・・・・・が死んだって本当にそう思うか?」





























『クローバー3』



























俺とは同じクラスだった。





「宍戸!ヤバイ!!次の英語あたしが当たる番だった!」


「俺に頼ってもしょうがねえだろ?の方が俺より成績いいんだし。」


「でもあたし、景吾より頭良くない」


「・・・・・今比べてんのは俺だろ?」


「宍戸、あたしが当てられたら俺が答えますって言って!好感度アップ!!」


・・・・俺のことバカにしてんだろ?」


「バレた?」


「お前なぁ!!!」






クラスでも部活でも、にぎやかな中心にはいつもがいた。



がクラスに来なくなった日から



教室はどこか静かで。



教室のの机に置かれた花瓶と花は不自然でしかなく、



俺は



が生きてる気がしてならなかった。



お前が死んだなんてそんなはずない。



どこかでいきなりあの声で



また俺の名前を呼ぶんじゃないかと。











「宍戸!!」










呼ぶんじゃ、ないかと。



























「・・・・・・・・・・・・・・・・向日かよ。」


「なんだその言い方。くそくそ宍戸!」


「って、あ?ここ・・・・」






俺がいたのは屋上だった。






「宍戸もサボりかよ。」


「いや、俺は・・・・ってかなんで俺ここにいんだよ」


「は?知らねぇし。俺に聞くなよ」






俺は確かにさっきまで教室にいた。



屋上に来た記憶はなかった。



どさっと俺の背後で音がする。



振り向くと向日が両手をのばして仰向けになっていた。






「お前はサボりなのかよ」


「・・・・・昨日の鳳見て俺にもいろいろ思うことがあったんだよ」


「長太郎?」


ってさ・・・・・・・・結構でかい存在だったよな」







向日が目を閉じた。







「死んでから気付いた。」


「・・・・・・・・・(・・・死んでない)」






は死んでない。



・ ・・思い出した。



俺は屋上にを探しに来たんだ。



屋上中を見渡す。






(いない)






「(?)宍戸?どこ行くんだよ。」


「授業にでる。ここにはいねぇみてえだしな」


「いない?誰がだよ。あっ・・・宍戸!」






俺は屋上を後にして自分の教室へと戻る廊下を辿った。



が死んだ?



人ってそんなに簡単にいなくなるものかよ。



あいつが死ぬわけがない。



どこかに。



きっとどこかにいる。



返事のない骸。



真っ白な血色のない顔。



冷たい手。



俺の名前を呼ばない



俺たちがの家で見せられたのは、世界が俺たちについた嘘。



お前が、死ぬはずがない。






「・・・・であるから、ここは・・・」






授業の途中で教室に入ってきた俺を、教師はさめた目で見たが、



すぐに黒板に手を戻し再び授業を進めた。



自分の席についた俺に隣の席の奴が今はここをやっているのだと教科書のページを教えてくれた。



ちらっと目に入ってきたの机。



俺の斜め後ろの席。



相変わらずの少しくすんでしまった花びらのついた花。

























どこかに。



きっとどこかにいる。





















長太郎は言った。



忘れることが怖いと。



俺は言った。



忘れるわけがないと。






(長太郎。は生きてる。・・・死んでない。)






死ぬわけがない。



だからそんな心配しなくていい。



これからだっては俺たちの側にいる。










この学校のどこを探せばいい。










俺の覚えてる景色はがいて、テニス部の奴らがいて。



氷帝の校舎内を頭に浮かべれば



そこにはいつもお前とあいつらがいる。



どこから探せばいい。



どこにでもはいそうだった。






(なぁ、。)













































どこにいる?











































































































「宍戸さん?・・・・・誰か探してるんですか?」






放課後の部活の時間。



俺はあたりを気にしては、きょろきょろと周りを見渡した。






「・・・・ああ、ちょっとな。」






早く、探さないと。



きっと世界がついた嘘に自身もだまされて、隠れているだけだ。



どこかに。



きっとどこかにいるはずだ。



見つけたらきっと。



いつものように部活が終われば、お疲れと言ってタオルをくれる。



見つけたらきっと。






「あの、宍戸さん!久しぶりに一対一で試合してくれませんか?」


「あ、ああ。いいぜ?」






どこかに。



きっとどこかに。

































































































































































































!審判頼む!!」



「・・・・え?・・・・」



「・・・・・・あ・・・・」




































































































コート中が静まりかえる。



跡部が、忍足が、ジローが、向日が、長太郎が。



氷帝のテニス部が俺を見ていた。






「わっ悪い・・・つい癖でっ・・・」






なんで俺、謝るんだよ。



名前を、を呼んだだけなのに。






「しっ宍戸さん。審判は一年に頼みますね!」






なんだよ、長太郎。その顔。






「・・・・・・・・・・ああ」






他の奴らも。



何こっち見てんだよ。



誰もが黙ったまま。



気付けよ、は生きてる。



俺たちは世界にだまされてる。



は、生きてる。











生きてる。











「・・・・・・・ジロー・・・」






俺と長太郎が今いるコート



そこから離れたところにいた忍足が、ジローの名前を呼んだ。



ジローは忍足の近くのベンチに座り、



昨日の部室の中にいた時と同じように泣いていた。



拭うこともせず一筋の糸涙を頬に携えて、



俺を見て泣いていた。







「・・・・・・・・・・(何だよ)」







なんで、泣くんだよ。






「っ・・・・・・・・・・・宍戸さん」






耳が声を探す。



目が姿を探す。



口が名前を呼ぶ。



けれど、は見つからない。



































































































































































































































































本当は、とっくに分かってる。


















































































































































ただ現実がうまく、呑み込めないだけ。






「宍戸・・・・」






ジローの涙。



昨日の長太郎の涙。



そして今、俺の頬を伝う涙。



俺は、その理由を知っているはずだ。



、お前は


























































































































































もうどこにも、いないんだよな。










































































































































喉に、つかえて。



ただ認めたくなかった。






「わりぃ・・・長太郎・・・・」



「(!)いえ!!悪くなんか!宍戸さんっ・・・・」



「・・・・大丈夫だ・・・。」






コートを濡らすのは汗ではない。



涙だ。



コート中が静かだった。



コート中が俺を見ていた。



ただ、泣くばかりの俺を。



少しだけ、うつむいて



何に耐えたらいいのかわからないほどの悲しみ。






「・・・・・・大丈夫だ。・・・・長太郎・・・・。」






どんなに噛み砕いても、



信じたくないことでしかないそれは、苦いばかりで。



世界が現実を嘘に変えることはなかった。



ただ、



やっと現実を呑み込んだ、それだけのこと。



本当はとっくにわかってたんだ。



どんなに探しても、



はどこにもいない。



どこにも、



いない。
























































































































































































































































俺はその日、1人で帰りたいと長太郎に言った。






「・・・・・・・・なんや、宍戸。今日はお前が鳳をフったん?」



「バーカ。・・・・そういやお前だって最近向日と帰らねぇじゃねえか。フッたのかよ」



「アホ。一緒に帰るのはいつも流れや。それに・・・・・お互い1人で考えたいこともあんねん。」






夕日に染まるコートを俺は眺めていた。



コートを囲むコンクリートの階段。



俺が座る隣に忍足が座る。






「・・・・・・・・・忍足」



「ん?」






コートを染める夕日が沈めば



また1日、の死が過去になる。








「俺・・・・・・のこと好きだったのかも知れない。」



「・・・・・・・・・愚問ちゃうん?」



「・・・・・・・・愚問、だな」




























好きだった。




























声も姿も名前も。



お疲れと言ってタオルをくれる瞬間。



コートを見つめる横顔。



授業中の咳払い。



にぎやかな中心にいる



・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・なくしてから、気付いた。







「・・・・・・・・俺、激ダサだな。」



「そうかもな」







手遅れの感情。



何もかもが遅かった。






「あー、やべ。涙腺ゆるい」


「泣いたったらええやん」


「・・・・・」


「好きやったんやろ?」







好きだった。







何もかも。



俺の覚えてるお前の全て。



俺の全てで探しても



もう見つけることは叶わない。






「っ・・・・・・・・・・・・・」






何に耐えたらいいかわからない悲しみだから、



耐えることなく涙をこぼした。



不思議だ。




































































今は世界のどこにもいないお前に








俺は恋をしていた。
















































End.                      気に入っていただけましたらポチッと。