「?」
「あれ?ジローちゃん起きたの?」
「・・・・・・・。もう部活始まるよ」
「え?・・・・・・・あ!もうこんな時間!!」
その日学校の裏庭で寝てた俺。
気付くとがそこにいて何か草むらをごそごそ。
いつものようにが俺を起こそうとしなかったので、
俺は珍しく自分で起きたんだ。
君が俺たちの側にいてくれた時の
俺の記憶。
『クローバー15』
晴天。
春先の学校が始まったばかりのころ。
「遅れた理由を10秒で言ってみろ。」
「遅れてない!景吾が一番にコートに来てたのは、景吾のクラスの授業が早めに終わったからでしょ!」
「すごいなぁ、。10秒内や。なあ、岳人。」
「いいじゃん跡部。、ちゃんと俺たちがそろう前に部活の準備終わらせてたぜ?」
「どうしよう!岳人にまでフォローされてる!!」
「あ?文句あんのかよ、。」
「準備もぎりぎりだったけどな。ぎりぎり。」
「何よ、景吾!遅れてないでしょ!」
いつものようににぎやかなコートの上は風が心地よかった。
心地いいんだけど
少しだけむすっとしてた俺。
そんな俺にが気付いて近づいてきた。
「あれ?ジローちゃん。機嫌悪いの?」
「・・・・・・別にー。」
「ジロー。そんな風に頬膨らましてたら説得力ねえよ。」
「そうですね」
「宍戸も鳳もうるさいなぁ!!」
「・・・・・・ジローちゃん?」
が俺の顔を覗き込む。
(・・・・・魔法使い)
が心配そうに俺の顔を見つめるから。
俺はに見とれて、
が笑ってくれるように、心配いらないよって。
素直に理由を話してしまう。
「だって・・・・・」
「ん?」
「だって今日、俺のこと起こしてくれなかった」
「え?」
聞こえたでしょう?
聞き返さないで。
さすがに少し恥ずかしいから。
「えっと・・・ジローちゃん。つまり?」
「・・・・・・・・・・俺はに起こして欲しかったの!」
驚いたの表情。
きょとんとして。
宍戸も、鳳も。
「・・・ぷっ・・・・・ははっ・・・・」
「ジロー・・・・・お前なぁ・・・・ははっ・・・・」
笑い出したのは鳳と宍戸。
そんなことかって笑わないで。
くだらないって思わないで。
俺にとっては大事なことなんだ。
が俺を起こしてくれる時間。
起きた俺とと、一緒に部活に向かう間。
俺にとっては大事なんだ。
とっても。とっても。
「ジローちゃん。」
なのに。
今日は急いで一人で部活に先に行っちゃったんだもん。
先に行くねって。
俺がもう起きてたから。
俺を起こさずに先に行っちゃった。
「ごめんね」
は優しく俺に笑ってくれた。
そんなことかって笑わないで。
くだらないって思わないで。
そうやって優しく、
俺に笑いかけていて。
「明日はちゃんと起こすからね!」
「ジローはに起こしてもらわないとダメだもんな」
「・・・・・・・芥川先輩ばかりずるいです。」
「あら長太郎。長太郎も起こして欲しいの?」
「ダメー!」
「・・・・・芥川先輩にしかられたくはないですね。」
思わずふき出す周り。
も笑ってた。
俺も楽しくなって笑って。
みんな、みんなが好きだった。
毎日が楽しくて、
ずっと続け、この時間。
俺にとって大事な、大切な
君といられる時間。
続け、終わりなんかなくていい。
「10分間休憩!」
「はい、タオルとドリンク!」
跡部の合図で始まる休憩。
マネージャーのが一番忙しい時間だ。
みんなにタオルとドリンクを配ってコートを整理してボールを拾って。
はたくさん、たくさん俺たちのことを考えてる。
たくさんたくさん俺たちに注意を配ってる。
「ホントよく働くな、。」
「岳人もとケンカばっかりはよくないで。あんなにがんばってくれてるんやから」
「別にケンカなんかしてねえよ!」
春先の学校が始まったばかりの頃。
はその時にはすでに俺たちにとってはなくてはならない存在。
ううん、本当はもっと。
ずっとずっと前から。
きっと俺たちみんなが出会う、そんな前から
俺たちにとってかけがえのない存在だったんじゃないかって。
コートの上を走りまわるを見て、
笑うを見てそう思ってしまうほど、
俺はが好きで。好きで。
「ジローちゃん?休憩終わりだよ!」
「へ?うわぁ!」
ぼうっとベンチに座ってるのは俺だけだった。
さっきまで隣で話していた忍足と向日はもうコートに戻ってたし、他のレギュラー達も。
「(くすっ)ほら、ジローちゃんも!」
は優しく俺に笑ってくれた。
・・・・・・どう言ったらいいのかな。
「・・・うん!いってきまーす!!」
心が奪われてる感じ。
魔法にかかってる感じ
君が好きでしょうがないこの感じ。
そうだな、俺は
君のとりこ。
(うわっ恥ずかしC−!!)
「おい、ジロー。」
「うわっ跡部」
「うわとはなんだ。顔赤くさせて何考えてたんだ?」
「・・・・・・俺その跡部の笑顔が嫌いー」
「あん?」
そんなことかって笑わないで。
くだらないって思わないで。
のことを考えてた。
それって俺にとってとっても大事な時間。
のことを考えてた。
それってとても
愛しい時間。
「部活終わり!片付け!!」
その日の部活が終わって着替えが済んで。
みんなぞろぞろと部室から出て行った。
「お疲れ様!」
「じゃあなー」
「あっ岳人。今日の膝の怪我、化膿したらすぐ言ってね」
「わかってるって。」
「じゃあな、。」
「うん。バイバイ宍戸。」
「お疲れ様です。」
「お疲れ、長太郎。」
「。今日一緒に帰らへん?」
「あっ忍足ずるいC−!」
「だからあたしの家は学校のすぐ前だって。一緒に帰るって距離がないのよ」
「何言ってやがんだ、忍足。は俺と帰る約束を・・・・」
「してません。景吾、話聞いてた?」
最後の最後までと話す俺たち。
みんな、みんなが好きで、大切だから。
「バイバイ、みんな。お疲れ様!」
戸締りとかの仕事を終えるまで帰らないは最後まで部室にいた。
名残惜しい一日が終わって、
俺は夕日に変わっていく太陽に早く!ってお願いするんだ。
早く明日をくださいって。
(・・・・・・・あっ)
その日の帰り道。
みんなと別れて1人になった俺は部室にタオルを置いてきたことを思い出した。
明日でもいいかと思ったけどに会えるかも知れないと思って、
俺は学校への道を引き返した。
(・・・・・・・・・・・ん?)
学校の敷地内に入ると俺はすぐにの姿を見つけることができたんだ。
コートの外にある草むらではしゃがんでごそごそと。
今日の裏庭で見たの様子によく似ていた。
の横顔が夕日に照らされて、
それが綺麗だった。
とってもとっても綺麗だった。
(・・・・・・・・・・・・俺のこの足が)
君に歩み寄る為にあればいいのに。
俺のこの声が
君の名前を呼ぶ為にあればいいのに。
俺のこの手が
君に触れる為にあればいいのに。
「あれ?ジローちゃんだ。」
世界中にあふれる言葉たちが
君に好きと伝える為だけにあればいいのに
俺に気付いてくれたに俺は近づいていった。
「?何してるの?」
「探し物だよ、ジローちゃん。」
「探し物?」
夕日に照らされてが笑った。
の足元にはよく見るとクローバーの群れ。
「探し物って?」
「四葉のクローバーだよ。」
「・・・・・四葉?見つけると幸せになれるってやつ?」
「さすがジローちゃん!景吾は知らなかったんだよ!」
そう言っては再びクローバーび群れを探り始めた。
俺も目でそのクローバーたちを見回したけどあるのは三枚の葉っぱがついたものばかりだった。
「なんで探してるの?」
「ん?お願いでもしよっかなって。ほら縁起がいいものだし」
「お願い?」
「お願い。」
「お願いって?」
ぴたっとの手が止まった。
心なしか苦笑して見えたの横顔。
んー・・・っと悩む声が聞こえて、
どうしたのかと俺はの顔を覗き込む。
はそれに気付いて俺に笑いかけた。
「じゃあ、ジローちゃんにだけ教えてあげる。」
春先の学校が始まったばかりのころ。
「氷帝が全国優勝しますように。」
夕日に照らされて、
君は照れながらそう言った。
「あたしだけじゃ頼りないでしょう?だから押し花とかにして形が残るものをって。」
「・・・・・・・・・。」
「お守りとかも考えたけど、あたしが作ったんじゃ逆に縁起が悪くなったりするんじゃないかなぁって思ってね」
「そんなことないよ!!」
は俺に向けて苦笑い。
恥ずかしいから他のレギュラーには内緒だと
口元に人差し指をあてながら俺にそう言った。
夕日に照らされて、
はたくさん、たくさん俺たちのことを考えてる。
たくさんたくさん俺たちに注意を配ってる。
誰よりも何よりも俺たちの勝利を望んでくれてる。
「・・・・。。」
「ん?」
「がんばろうね!」
一緒に。
君も一緒に。
は一度驚いた顔をしてそれから今までに見た中で一番綺麗な笑顔を見せてくれた。
夕日と同じ色をした俺は
ただただ君に見とれるばかり。
(やっぱり、とりこだ。)
でもね、好きって言えなかった。
俺たちのことを一番に考えてくれてる君にまだ俺は好きって言えなかった。
世界中にあふれる言葉たちが
君に好きと伝える為だけにあったとしても
きっと俺は言えなかった。
だって俺の足も声も手も君と一緒に夢を叶えるためにあったんだ。
「でもなかなかないんだ、四葉」
「そうなの?」
「うん、見つからなくて・・・・。」
一緒に。
君も一緒に。
俺たちの夢が叶う頃
その頃には好きといえるかも知れないし。
夕日に照らされて、君は夢の形を探してた。
不確かな明日の頼りない願いをなんとか形にして見つけたくて。
四葉のクローバーを探してくれた。
俺たちのために。
・・・・・・・・・・・・忘れていてごめん。
が死んでしまったのはそれからしばらく経って。
哀しみが記憶を頭の奥に押し込めてしまった。
今でも俺は、君のとりこだったから。
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