「長太郎!」



「宍戸さっ・・・」



「お前何まじめに授業うけてんだよ」



「え?あのっ・・・宍戸さん?!」






授業の始まる2分前。



宍戸さんは俺の腕を引っ張って



俺はひきずられるようにして屋上に続く階段を上って行った。

















『クローバー18』

















「忍足。向日。長太郎。手伝え」


「「「・・・・・・」」」





宍戸さんに拉致された屋上にはすでに忍足先輩、向日先輩、芥川先輩がいた。



唐突すぎるうえにまったく状況のわからない宍戸さんの言葉に



芥川先輩以外は無言で宍戸さんを見るしかなかった。





「探すんだよ。四つ葉のクローバー」


「宍戸・・・お前は何を急に言い出すねんな」


「四つ葉の、クローバー・・・」





忍足先輩が片手で髪をかき上げ、あきれた声で宍戸さんに返したのと対照的に



向日先輩は何か思い当たるふしでもあるのか



つぶやき、そして側にいる芥川先輩へと視線を向けた。





「・・・ジロー」


「俺じゃないよ。宍戸が探すならみんながいいって言い出すから俺は忍足と向日を呼びに・・・・・」


「そうじゃなくて。なんでお前ら四つ葉のこと・・・」


「・・・・・向日も知ってたの?」


「・・・・が探してたのはな」


「・・・・が?」





耳に入ってくる会話を



俺はただ聞くだけだった。



先輩の名前を聞いても



問うこともせず相づちもせずにただ聞くだけ。





「・・・なんでが」


は四つ葉にお願いがあったんだよ、忍足。」


「・・・・・・」





忍足先輩は芥川先輩から宍戸さんに目を向けた。





「・・・で?そんなもの探してなんになんねん」


「ジローから聞いたんだけどよ。跡部がに会ったらしい。俺達が部室でに会ったみたいに。」


「(!)・・・跡部が・・・」


「跡部は幻だって言ってたけどね。はクローバーを残して‘探して’って言って消えたんだ。」





(・・・クローバー)





ぼんやりと俺は空を仰いだ。



先輩が俺にくれたクローバーはいつの間にか俺の手から消えていた。



消えてなくなってしまっていた。



今は空の色さえかすむ。



涙を通して見る空は涙の色でしかないから。





「忍足もこのままでいいなんて思ってるわけじゃねぇだろ?・・・コートに戻るべきだって」


「クローバー探してどうなるわけでもないやろ?」


「・・・・俺。・・・・・・俺は探す」


「・・・岳人」





かすかに涙がにじんだこの目に



向日先輩の何かを決心したようなそんな表情が映った。





「たとえもう一度コートに立っても俺達はまた繰り返すだけだ」


「・・・・・」


「俺達は大切なものを忘れてる。」





大切な、もの?





「どうせなら辿りたい。辿ってみてから戻りたい。俺達の側にいてくれたの想いを。」


「宍戸・・・」


「お前もだ。長太郎。四つ葉のクローバー、探すぞ」





大切な、もの?



大切なものってなんですか?



忘れてる?



忘れてなんかない。





「・・・俺は」


「ちょうたろっ・・・・」


「大切なものならもう、失ってしまいました。」





かすむ空の色



分かるのは頬を流れる涙の冷たい感触



失った。



消えてしまったんです。





「鳳!それは違うよ!思い出した?鳳はちゃんとのこと思い出した?」


「ジロー・・・」


「思い出してよ!今の鳳はのことさえ忘れてる!哀しみばかり思い出してる!」





俺を見つめる宍戸さん、芥川先輩、忍足先輩、向日先輩。







































「・・・名前を呼んでくれる声。労いの言葉。」


「長太郎・・・・・?」





日溜の下の優しさ



木陰の下の笑顔





「小さい背中。芯の強い瞳。コートをかける足。細い肩」


「鳳・・・」


「差し出してくれる手。明るい温もり。」





‘私がいるよ’



朝のあいさつ



あなたが座る部室のイス



部活の連絡



廊下を歩いては姿を探し。



風がさらう髪



「長太郎」



ボールを拾う手



スコアをつける手



タオルを渡してくれる手



夕方のあなたの影



春の桜



夏の日差し



秋の落ち葉



冬の雪



あなたと見たもの



あなたといた時間






「時々しかられて、励まされて。背中を押して支えてくれた。」






一日の終わりの名残惜しさ



さよならを告げるコートとあなた。



早く。



早く、明日。



早くあなたに会いたいから。





「夢も強さも勇気も、先輩が俺にくれました。」


「長太郎」


「・・・ねぇ、宍戸さん」





でも今は。



来るな。



来るな明日。



あなたに会えない明日なら



来るな明日。
















「これが、俺の失ったすべてです。」














あなたが、記憶になってしまう。



当然のように側にあったもの



あると信じていたもの。



何の前触れもなく消えたもの。



何の前触れもなく訪れたあなたの死。





「・・・どうすればいいんですか?俺に・・・・どうしろと・・・」


「長太郎っ・・・」


「っ・・・消えてしまった・・・大切なものはすべて・・・」





なす術もなく



何一つできたこともなく



守ることもできず



残ったのは哀しみと伝えられなかった想い。



残ったのは後悔と、あなたが信じてくれた弱いだけの俺。





「・・・消えてないよ。」


「芥川先輩・・・」


「消えてない。消えるもんか。・・・失ったりしてない。」


「・・・・・・」


「夢も強さも勇気もなくならないよ!!もし手元にないなら消えたんじゃない、失ったんじゃない。鳳がなくしちゃったんだよ!」





なくした?



俺が?



違う。



消えてしまった。



気付くこともできずに



失ってしまった。





「どうしろと・・・?忘れてなんかないのに・・・」


「鳳・・・」





冷たい涙



頬が凍える



どうしろと言うんですか?



忘れてない。



忘れてなんか・・・






「長太郎。・・・夢ってなんだったんだ?」


「・・・宍戸さん」


「言えよ。消えた夢ってなんだったんだ?」






名前を呼んでくれる声



労いの言葉



日溜の下の優しさ



木陰の下の笑顔





「・・・先輩が全国一位のマネージャーになることです。氷帝が優勝することです。」





小さい背中



芯の強い瞳





「本当に消えたのか?その夢。本当に?」





コートをかける足



細い肩



差し出してくれる手



明るい温もり





「・・・鳳。がクローバーにしたかった願い事ってね、氷帝の全国優勝だよ」


「(!)・・・ジロー。ホンマに?それ本当なん?」


「うん、本当。忍足もまだ思い出してないの?のこと」


「・・・・・・・・・・・・・・なくしてねぇよ、長太郎。」





宍戸さんが一歩一歩、俺に歩み寄る



朝のあいさつ



あなたが座る部室のイス



部活の連絡





「俺達がコートに立っていることを一番望んでいたのは誰だ?」





廊下を歩いては姿を探し。



風がさらう髪



「長太郎」



ボールを拾う手



スコアをつける手



タオルを渡してくれる手



夕方のあなたの影



春の桜



夏の日差し



秋の落ち葉



冬の雪



あなたと見たもの



あなたといた時間
























の想いはここにある。消えてねぇよ。」



















宍戸さんが俺の胸を拳で軽く2、3回叩いた。



目が合った宍戸さんは、‘ここだ’ともう一度だけ俺の胸を軽く叩く。







































































































「・・・っ・・・・・・・・・先輩・・・・・・・・」































































































本当はあの日、部室で会えた先輩は



自分が足枷になっているからと哀しい笑顔を見せたんじゃない。



ただ、



俺が泣いていたから。



だから悲しそうだった。



本当は、それだけなんですよね。



俺がもう一度笑えるように



俺の好きな笑顔を見せてくれただけで





「探そうぜ、四つ葉のクローバー。・・・忍足はどうするよ?」


「・・・俺も探すわ。」


「・・・長太郎は?」





本当は。



本当は、想いを伝えることなどどうでもよかった。



ただ側にいてくれるだけで



あなたのいるコートの上が



俺のすべてだった。



コートの、上が。
















「・・・探します。先輩が探していたもの」















本当は



想いを伝えることなどどうでもよかった。



本当に伝えたかったのは、



たった一言。
















‘ありがとう’と。
















何の前触れもなく訪れたあなたの死に



俺は、何一つあなたに伝えられないまま。



俺は、涙をふいた。



涙をふいて空を見た。



久しぶりに空の色を見た。













































































































中庭に向かった俺達は四つ葉のクローバーを探した。



4枚の葉を



授業も受けずにひたすら探した。



先輩の想いを辿った。



あなたが探した想いの形。






「なぁ。ここにはないんちゃう?」


「うーん。でも学校にクローバーがある場所は俺大体探したんだ。・・・ないもんだね、四つ葉。」


「・・・ジロー、河原は?この近くにあるだろ?結構草が生えてるし」


「本当か?向日」











「・・・・・・・・お前ら、何やってんだよ」









「(!)跡部・・・」






気付けば時間はあっという間にすぎ



放課後の部活の時間がせまっていた。



中庭にいた俺たちを見つけたのはまぎれもなく跡部先輩。






「あっ跡部!俺達今日みんな部活に行けない!」


「あ?」


「四つ葉のクローバー!見つからないんだ」


「ジローお前本当に・・・。まさかお前ら全員・・・」







俺は跡部先輩に歩み寄った。



跡部先輩の前にでて



ただ認めて欲しいと思った。



朝部活に行かなかった俺。



誰の断りもなく。



でも今は、



今は。







「・・・・・・鳳。泣き止んだのか?」


「・・・・・・いえ。まだです、跡部先輩。」


「長太郎・・・」


「でも・・・・・・」






でも。





































































「でも俺は、コートの上に戻りたい。」





















































































































たとえ小さな葉っぱでもあなたの想いに近づけるなら。





「(!!)長太郎・・・」


「・・・・ほう・・・・」


「・・・跡部。お願い。」





俺たちは全員跡部先輩を見た。



認めて欲しくて。



分かってほしくて。



跡部先輩は瞼を閉じて深いため息をついた。






「・・・・どうせ誰もクローバーが見つかるまで部活には来ないつもりだろ?」


「(!)跡部!!」


「今日は特別に部活を休みにしてやる。今日だけだからな?ジロー」


「うん!」


「それと・・・・」


「それと?」



















































「俺も一緒に探してやる。」


















































































































































































































































くだらないと思われるかもしれない。



何をやっているんだと指を刺して笑われるかもしれない。



それでも探したい。





「うをー!向日ナイスだC−!クローバーの大群!」


「さっさと探すぞ!」


「せやな」





見つけたい。



俺たちが探していたのは、もう一度コートに立つための強さ。



見つけたい。



あなたの想いを辿りたい。



辿って知りたい。



知って、勇気に変えて。



もう一度、あの場所へ。



あなたが側にいてくれたコートの上へ。



臆病な俺を信じてくれたのも。



いつでも俺たちのことを考えていてくれたのも



あなたでした。








「・・・・・・・・なあ、ジロー。」


「ん?なに、跡部?」







俺たちが探していたのは、



想いと夢と支え。



まるで、




































































































































































あなたそのもの。





































































































































































小さな葉にさえすがってしまう






「四葉ってなんだ?」


「だから言ってるじゃん。四枚の葉っぱがついてるクローバー」






弱い俺を照らす光。



あなたでした。








「四枚の葉がありゃいいのかよ」



「いいんだよ」



「・・・・・・・・・・・・・あった」



「え?」









忘れて、いました。
























「あった!四葉!!」



「うをー!跡部天才!!すげー本当に四枚だ!」



「・・・・・ほんまや」



「なんかすげーな。他のクローバー全部三枚なのに」



「これが・・・・・」



























あなたが何よりも望んでいてくれたこと。






























「これが先輩が俺たちのために探していてくれたクローバーなんですね」





たとえ小さな葉でも、



あなたが想いをこめようとした、



俺たちの夢の形。


































































































































































































「・・・・・・・・・見つけて、くれたんだね。」




「「「「「「!!!!」」」」」」































































































































































































赤く染まりかけていた空の下でも、



跡部先輩の手に乗る四つ葉のクローバーだけは



鮮やかな緑だった。



聞きなれたその声に、俺たちはみんな後ろへ振り返る。



あまりにはっきりとした大好きなその声は、



聞いただけで



また俺の目を



涙でかすませようとした。


































end.                              気に入っていただけましたらポチッと。