白いワンピース




見慣れた笑顔




風が触れた髪













「探してくれて、見つけてくれてありがとう」












想いを募らせる声




お前からの言葉






「っ・・・・!!・・・・・・」



「やっと会えたね、ジローちゃん。」






白いワンピース




見慣れた笑顔




風が触れた髪




俺たちの目の前にいたのはまぎれもなく、

















だった。



















『クローバー19』


















<だっ>





ジローが駆け出す。



俺たちの元からの元へと。








「(?!)っ・・・・・」


「「「「「!!」」」」」








ジローはに抱きつこうとした。



だがジローはを通り抜ける。



の体は透き通ったようになり、ジローはに触れることが出来なかった。






「・・・・・っ・・・・」


「・・・・ジローちゃん」


・・・。お前、幽霊・・・・なのか?」


「・・・・・・・・・・・・幽霊でも、幻覚でも、夢でも。なんとでも言えるよ、景吾。」






は俺たちを見つめてそう言った。



をはさんで俺たちと反対側に行ってしまったジローは、



今にも泣き出しそうな顔でを見ていた。



俺も、跡部も、鳳も宍戸も岳人もみんな複雑な表情を顔に浮かべていた。






「・・・・・・・ジローちゃん。」





今度は俺たちではなく、ジローにだけ視線を変えるた



ジローの元へと手を差し出した。





「・・・・・・・・・・」


「大丈夫」


「・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・ジローちゃん」





ジローが一歩一歩、に近づく。



恐る恐る手を伸ばすジロー。



その手をの差し出してくれた手へ。





「(!!)」


「ね?大丈夫でしょう?」


「っ・・・・・・・・俺・・・・・・・」


「・・・ジローちゃん。ジローちゃんがクローバー探そうって言い出してくれたんだよね。」


「うんっ・・・・うん!・・・・」


「・・・ありがとう」


「・・・・・・・・・・うっ・・・・」





ジローの手はの手に触れることが出来た。



がそっとジローの手を両手で包む。



ジローの頬には涙が伝い。



それを見ている俺たちも、



今にも泣いてしまいそうだった。





「なんでや・・・・・さっきジローはさわれんかったのに。」


「あたしから触れようとしたからだよ、忍足。」


「なんで・・・・・」


「そういうものなの」





は一度振り返って俺の問いに答えるともう一度ジローを見た。



ジローの頬に触れ、



その涙を拭った。





「ジローちゃん」


「・・・・・・・ごめんね、・・・・。」


「どうして謝るの?」


「・・・・わかんない」


「・・・・変な、ジローちゃん」


「・・・・へへっ・・・・」





悪戯っぽく笑ったジローがとそっと手を離した。



が俺たちのほうを見るとジローが俺たちの元へ歩き出す。





「・・・・も行こうよ、みんなのところ。」





はそこで立ったまま。



動くことはなかった。



ジローの言葉に首を横に振る。





?」


「部室で会ったとき、景吾、私の声聞けた?」


「・・・・・・」


「長太郎、私があの時なんて言ったか、聞こえた?」


「・・・・・先輩っ・・・・」





鳳は今にも泣き出しそうだった。



俺たちのもとへ来たジロー。



その場から動こうとしない





「あたし、話せなかった。本当はみんなの前に姿を現すことだってしちゃいけなかった。」


?」


「でも、会いたかったの。そしたら会えた。みんなが私と同じくらい会いたいと思ってくれたから。」


「・・・そういうものなんか?」


「・・・・・そうだよ、忍足」





が瞼を閉じた。



俺たちはそれを見つめて、



の話を待つ。





「・・・・全部、見てた。あたしが死んでからのこと。・・・話がしたかった。」





風が、吹く。



跡部の手のひらにのる四葉が揺れる。



が俺たちを真っ直ぐ見つめた。





「あたしが探していたもの、みんなが見つけてくれたらそれができた。そういう風になってた。だから、見つけて欲しかった。」





笑う。



小さな風に吹かれて、



が俺たちに笑いかける。

































「・・・・・・・・・お別れが、言いたかった。」









































白いワンピース




見慣れた笑顔




風が触れた髪




・ ・・・・なんで?






「まずは、長太郎。」


先ぱっ・・・・・」


「長太郎は弱くなんかないよ。もっと自信持って!」





側に、いた。





「次、ジローちゃん。」


「待ってよ・・・・待って、・・・・・・」


「あんまり寝てばかりいないで、練習しっかりね!」





・・・・・・・・嫌だ。





「次、岳人」


!待てよ!!何でだよ!」


「岳人はケガに気をつけること。テニスできなくなったら意味ないよ!」





勝手に、話をすすめるな。





「次、忍足」


「やめえや!!!」


「・・・・・・・」


「・・・なんで?なんでなん?」





折角こうして会えたのに。



こうして言葉を交わせるのに。



なぜ。



なぜ、別れの言葉なんか。




















































「・・・・・あたしが死んでるからだよ、忍足」

































































「・・・・全部、見てた。あたしが死んでからのこと。」





「みんなが泣いてくれてる。想ってくれてる。でもあたしはいない。何もできない、してあげられない。」


・・・・・俺たちはっ・・・」


「もう、何もしてあげられないのに・・・・・」


「(!!)っ・・・・・」













































の頬に、涙が流れた。


































































































「忘れてくれていいよ!泣かないでっ・・・・・あたし何もしてあげられないんだ!!」


・・・・」


「っ・・・ごめん。・・・ごめんね。・・・・・何もできなくて。な・・・にもっ・・・・・」





突然の別れに、



一番戸惑ったのは自身だったんだろうか。



その涙はあまりに切なくて。



別れを哀しんでくれる。



離ればなれを寂しいと思ってくれる。









・・・・・・堪忍っ・・・・ごめんっ・・・・・・」


先輩・・・・・」


「・・・っ・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・。」


。」












側にいたいと泣いてくれる。











「・・・・・だからっ・・・お別れしようよ。・・・ちゃんと、・・さよならも出来なかったから・・・・」


「・・・・・・・・・・。お前そこから動けないのか?」


「・・・・・景吾」


「だったら、俺から行く。」


「けいっ・・・・・」






四葉のクローバーを握り締めて、に駆け寄った跡部。



から触れようとしたわけではないのに、



跡部にはを抱きしめることができた。



跡部の胸に顔をうずめては泣き続けていた。



俺たちは誰からともなく2人に近づく。



あれだけ泣いていた俺たちは不思議と、以外誰も泣いてはいなかった。



ジローの目からは既に涙は消え、



ただ、みんな



いたたまれないほど寂しく切ない表情をして。



跡部とを囲むようにして、俺たちは立っていた。



跡部の腕の中にいるの細い肩が震えていて



俺は、そっとその肩に触れる。





「・・・・・。」





跡部同様、俺もに触れることができた。



は温かくて、生きてるみたいだった。



生きてる、みたいだった。





































































「・・・・・・今までどおり、側にいろ」


「(!)景吾っ・・・・・・」





















































































それは、



けして叶うことのない



跡部のわがままだった。



最後で、最大級の、に対するわがままだった。



なあ、神様。



いるんやろ?



あんたが俺たちにを会わせてくれたんやろ?



せやったらこの男のわがままでいいから聞いてくれへん?



無理やったらせめて、






















このまま時間を止めて。





















「・・・・・・・・・・ありがとう、景吾、みんな。」





生きてる、みたいだった。



このままずっとは側にいてくれるんじゃないかと



そんな気さえした。



でも。






「・・・・・・私、行くね。」






が跡部の体から顔を上げた。



は、軽く涙を腕で拭うと



俺たちを見渡した。





・・・・・・」


「・・・・行くね。」





俺たちに笑ってくれる、その強さが愛しくて。



は少しだけ歩いて、



俺たちと距離をとった。






(行くな)





声は喉を貫いている。



言葉は口を侵食させている。



・・・・・・・・・行くな。



言いたいのに、言えない。









「・・・・・・・!」


「・・・・・景吾?」


「何度死んで何度生まれ変わっても、俺たちは何度も会う」


「っ・・・・・」


「どんな姿形になっても俺たちは必ずお前を選ぶ。」


「・・・・・・みんな・・・・・」


「・・・お前を、選ぶ。」








が俺たちを見渡す。



俺たちは跡部の言葉にうなずく。



うなずいて、



今できる精一杯の笑顔を必死に顔に浮かべる。





(行くな)





が、



俺たちに笑顔を見せた。





















































「みんな、大好きです。」






































































・・・・・・・・・好きだよ。



好きだ。



俺だって。



誰もが、この場にいる全員が。



お前のことが。



なあ、

















































































































































































































こんなにも切ない、別れの言葉があるものか。




































































































































































































































は生きてるみたいだった。



神様が跡部のわがままを叶えてくれる、そんな奇跡さえ起こる気がしていた。



行くな。



行くな、行くな。



どこにも行くな。



、側にいて。



言いたかったのに、言えなかった。



またが泣き出してしまうんじゃないかと。



(行くなや)



叫びたかった。






「景吾、忍足、、ジローちゃん、岳人、宍戸、長太郎。」





(行くなや、どこにも)



笑っていて。


側で。


側で。













































「私が、いるよ」




















































































































































































































































































は、透けるようにして俺たちの前から消えた。





「・・・っ・・・・・・・・・・・・」


先輩・・・・」


「・・・ウソツキ」





‘私がいるよ’





「・・・意地悪やな、神様って」


「バカ野郎・・・嘘じゃねえよ」


「・・・・・・・・四葉が消えてる・・・」


「え・・・・」





跡部の手には四葉のクローバーの姿はどこにも見当たらない。



沈もうとする夕焼けがひどく恨めしい。



しばらくは誰も口を開くことが出来ず、



俺たちは風に吹かれ、



俺は神様とやらの奇跡をただただ待っていた。



学校に戻ろうと言い出したのは一体誰だったか、思い出せない。





































































































































































































































「荷物みんな部室だよね。」


「俺教室に置いてある教科書持ちにいかねえと。」


「あっ俺もだ。」


「宍戸と行ってきいや、岳人」


「その前に部室よるけどな。」






四葉のクローバーを見つけた川原から



学校へ歩く俺たちは終始無言だった。



誰が何を思っていたか知らない。



ただ俺は、



もうを泣かせたくないと思っていた。



もう一度、コートに戻って。



夢を、叶えようと決意していた。



・・・もしかしたら、他の奴らも俺とおんなじやったかもしれんな。



俺たちは氷帝学園の敷地内に入ると真っ直ぐ部室へと向かった。



俺たちの一番前を歩いていた跡部。



進むその背中が、いきなり止まる。






「跡部?なんや、どないしたん?」


「・・・・・・


「え?」


「すげ・・・・・・」






岳人が跡部の視線の先を見て声を漏らした。






「・・・・・・・が・・・」






部室はコート脇のすぐ側にある。



部室に入るときも部室から出るときも自然とコートは目に入るものだ。



今、俺たちが見つめるコートの周りに茂る、



クローバーの大群。



コートを囲むようにその鮮やかな緑が目に映る。






「跡部―!全部四葉だよ」






今までコートの周りにクローバーの群れなどあっただろうか。



見たこともない。



まして四葉のクローバーの大群なんて。



氷帝では、探しても見つけることは出来なかったのに。





「すげー・・・・・」


「ほんまに・・・・・」









‘私が、いるよ’














「ほんまに、いてくれるんやね。・・・・側に」













自然と涙がこぼれた。



俺の目から。岳人も。宍戸も、鳳も。



ジローの目からも、跡部の目からも。



誰もそれを拭おうとはせず、ただクローバーの緑に見入る。












ずっと、怖かった。












怖かったんだ、俺たちみんな。



を置き去りにして進んでいく明日が。



いつだって弱く、願うならもう一度






に、会いたい。






立ち止まって、泣きじゃくって、



お前がいるはずだった夢にお前がいない。



それがただ悲しかった。



いつからか振り返ることさえ恐れて



本当は、



いなくなってしまったんじゃなくて俺たちが見えなくなってしまっただけなのに。



誰の隣にもいつだって、



はいてくれた。



側にいてくれた。



今も。



・ ・・・・今も。




















「・・・・・・・笑わないでね、跡部。」


「あん?」


「俺ね、俺たちはずっと前から出会う約束をしていた気がするんだ。」


















胸にあるのはへの想い。



駆け巡るとの記憶。

















「ずっと前からお互いに知っていて。だから絶対また会えるんだって・・・・・そう思うんだ。」



「・・・・・・・・・・笑わねえよ、ジロー」














ここにいたお前の全て。














「笑うわけがない」













想うだけで、頬を伝う涙がこんなにも温かい





かけがえのない人、側にいることが支えだった。





忘れたくない人、ずっと好きだった。





帰らぬ人、笑っていて欲しかった。





勝手な人、守りたかった。





わかって欲しい人、君の為に。





誰にも代わることの出来ない人。


















































大切だった。































































































泣いて、もがいて苦しんでは



迷い、戸惑い。



それでもたどり着いた。









また、会えた。









今は亡きお前に誓うよ。



空も風もコートもクローバーも



世界中が、証人。



夢は必ず叶えると。











「・・・・帰るぞ、お前ら。そろそろ校舎も閉まる時間だ。」










跡部の声が全員の足を動かした。



誰もが一度だけ



帰るため背を向けたコートに振り返る。



四葉のクローバーを見つめ、つぶやく。










































誓うよ。



また会えるその日まで



お前を忘れはしないと。






‘私がいるよ’






忘れるはずもないけれど。










「侑士―!」


「・・・・・・今行くわ」
















































































































































『俺たちはずっと前から出会う約束をしていた気がするんだ』







誰も笑わへんで、ジロー。





































































































































































































































































誰もが、そう思っているのだから。
























































































































































end.                    気に入っていただけましたらポチッと。