コートを見つめるその瞳が本当に見つめていたのは
先にある夢なのだと信じていた。
コートを見つめるその瞳が見守っていてくれたのは
俺達なのだと信じていた。
その横顔に、何度誓ったことだろう。
夢なら、叶えてやると。
なんとも自分勝手な約束を。
『クローバー17』
学校の裏庭。
見上げた空はおだやかで、雲はなかった。
仰向けに草の上に寝そべる俺。
寝そべって目を瞑る。
「(・・・・・・・)」
支えをなくした俺たちは
かけがえのないものを失った俺たちは
再び泣き崩れた。
進もうと決めたのに。
「(・・・・・・。朝練どんな顔して行ったらいいか分からなかった。)」
コートに向かわない朝など知らなかったはずなのに。
今朝の練習を俺は避けた。
避けてしまった。
・ ・・・・本当はテニスがしたい。
コートの上に立っていたい。
なのに、なぜ・・・・・・・。
答えなら知っていた。
お前のいないコートを知らないからだ。
お前のいないコートになれないからだ。
「(・・・・。・・・本当は)」
本当は。
「うわぁ!!宍戸!ちょっとそこどいて!!」
「(?!)」
人影が仰向けに寝そべる俺の上に飛び乗ろうとしてきた。
俺はとっさに上体を起こしてその陰に体が潰されないようによける。
俺がどいた地点にその人影は軽やかに着地した。
「あー・・・ほらぁ!ちょっとつぶれちゃったじゃん!宍戸のバカー!」
「(?!)・・・・・ジロー?」
「うーん・・・・・なさそう・・・・・」
俺に飛び掛ってきた人影の正体はジローだった。
ジローは俺が寝そべっていたところでしゃがみ込み草を弄っている。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
‘違う・・・・・。違うよ、みんな。泣かないで。思い出してよ・・・・・・ちゃんと思い出してよ’
見えるのはジローの横顔。
俺にはその横顔がいつものジローに見えた。
ジローには昨日の放課後の気まずさは残っていないんだろうか。
「・・・・・・ジロー、お前木の上でも寝てたのか?」
ジローの髪に数枚の葉っぱがついている。
制服の背中は少し汚れていた。
俺はジローの近くまで行き、しゃがむとジローの汚れている背中の部分を少しはらった。
しばらくはたくと多少は汚れが落ちた気がした。
「・・・・・・違うよ。探し物してたんだ。」
「探し物?」
「宍戸サボってこんなとこで寝てたの?朝練来なかったくせに。」
「・・・・・・・・・・・」
ジローは一度止めていた手を再び動かし始めた。
手探りで俺がさっきまで寝ていた部分の草を探っている。
ジローの後ろにいる俺には、今はジローの背中しか見えない。
「・・・・・忍足も向日も鳳も来なかった。」
「・・・・・・・・・」
「俺と跡部だけ。」
「・・・・・・・・・」
‘想うばかりじゃなくて、願うばかりじゃなくて。ちゃんと思い出して、のこと’
・・・・・・・・・思い出してる。
毎日思い出してる。
勝手に、意識なんかしなくても。
勝手に、泣いてる。
思い出してる。
を思うたび。
「・・・・っ・・・・・・・・・」
振り向くなよ、ジロー。
今拭うから。
勝手に流れ出た涙を。
「・・・・・・・ちゃんと思い出した?」
「・・・・・・・のことなら毎日思い出してる」
「本当に?ちゃんと全部?」
「・・・・・・・ジロー」
ジローが俺の前で立ち上がった。
俺の目にはもう涙はない。
ジローは後ろ姿を俺に見せ続けていた。
両手を空に伸ばして背伸びをしたジロー。
「んー・・・・・・・。やっぱりない。」
「・・・・・・・・・ジロー、探し物って・・・・」
「の想いのカケラ。」
「(?!)」
「よーし!次、次!!」
の・・・・・想いのカケラ?
ジローは歩を進め始め俺の隣を通りすぎていく。
ジローの表情は俺にはわからないまま。
「っ・・・・・・ジロー!待てよ!!」
その名前をだしておいて
通り過ぎてなんて行くな。
の名前を聞かせておいて。
「・・・・・ねえ、宍戸。宍戸は、が何を思っていたかなんて考えたことがある?」
「え・・・・・・」
「が俺たちの側にいて何を思っていたか。何を思いながら俺たちを支えていてくれたか。」
の、想い?
「探さなくちゃ。の想いの形をみんなに見せなくちゃ。このままじゃ夢が終わっちゃう。」
コートを見つめるその瞳が本当に見つめていたのは
先にある夢なのだと信じていた。
コートを見つめるその瞳が見守っていてくれたのは
俺達なのだと信じていた。
その横顔に、何度誓ったことだろう。
夢なら、叶えてやると。
なんとも自分勝手な約束を。
「・・・・・ジロー、の想いって?」
「四葉のクローバー!!」
「・・・・・・クローバー?」
さっきまでジローが探っていた部分に目をやると
そこにはクローバーの群れがあった。
俺はその上に寝ていたらしい。
「宍戸」
ジローが俺に振り向いた。
ジローは小さく微笑んで話し始める。
「俺考えたんだ。はいつも笑ってくれて、側にいてくれて、優しさも強さも俺たちにくれた。」
「・・・・・・・・・・・・・」
「でもどんなにタオルやドリンクを準備してもがんばれって言ってもはコートに立てない。」
コートを見つめるその瞳が見つめていたのは
先にある夢なのだと信じていた。
「ありがとうの言葉を伝えても不安だったんじゃないかって。」
けれど
本当は夢を見つめて途方にくれていたのかもしれない。
「俺たちの力になりたいってどんなに仕事をこなしても本当に力になれているかって悩んだんじゃないかって。」
コートを見つめるその瞳が見守っていてくれたのは
俺達なのだと信じていた。
「どれだけ、もどかしかったんだろうって・・・・・」
けれど
本当は何もできないもどかしさで不安だったのかもしれない。
「ねえ、宍戸。は何を思っていたと思う?」
知らない。
(わからない)
考えたこともなかった。
の想いなど何も知らない。
知らなくても側にいてくれたから。
不安になる必要なんてない。
は間違いなく俺たちの支えだった。
かけがえのない人だった。
その横顔に何度誓ったことだろう。
夢なら、叶えてやると。
なんとも自分勝手な約束を。
自分勝手な。
「っ・・・・・・・・・・・」
。
不安だった?
もどかしさとか、
笑っていてくれたから、側にいてくれたから
気付けなかったのかもしれない。
「・・・・・・・」
また涙。
お前がいなくなってからも自分のことばかりで
誰の為だとか、お前が望んでいるはずだとか。
そんな思い込みばかりで。
だから、
だから悲しいばかりだった。
自分のことばかりで。
俺も、長太郎もみんな、みんな忘れかけてる。
俺たちがコートの上に立ち続けることを何よりも望んでいたのは
誰だった?
「・・・・・・・っ・・・・・・」
知りたい。
お前の想いを、今。
「が俺たちのために探してたんだ。四葉のクローバー。」
「・・・・・・・・・・」
「宍戸。夢はまだ終わってないよ!はいなくなっちゃったけど、でも俺は立っていられるよ。がくれた優しさや強さまでいなくなっちゃったんじゃないから」
「・・・・・・・・ジロー。・・・・・詳しく話してくれるか?」
「ん?」
「・・・・・クローバー。俺も探したい。」
たったひとひらの小さな葉。
ゆうが探していた、俺たちへの想いをこめた形。
「(!)・・・・・・うん!!」
どんな想いでは笑っていてくれたんだろう。
どんな想いでお前は。
探す。
の想いのカケラ。
それからもう一度。
許されるならもう一度。
コートの上に戻りたい。
たとえお前が、いなくても。
知りたいんだ、。
お前が何を思っていたか。
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