俺に見えたのは




鳳のてのひらで涙に揺れる




淡い緑のクローバーだけだった。






















『クローバー14』





















少しずつ目覚めていく意識



まぶしい太陽が俺の目に飛び込んで来た。






「・・・・う゛ー・・・ダメだった・・・」


「・・・何がだよ」


「(!!)」






屋上であお向けに寝そべる俺



隣から聞こえてきた声は





「いつからいたの?跡部」


「お前が起きる2、3分前だよ、ジロー。」


「起こしてくれてもよかったCー」


「別に。今は昼休みだろ?部活前じゃねえんだからお前を起こす必要はねぇよ」





俺の隣で座る跡部の横顔。



少し、疲れているように見えた。



お昼休みって言っても始まってどれくらい経ったんだろう。



生徒は俺達の他は数人しかいなかった。






「・・・跡部、今朝部活来なかったよね。どうしたの?」





あお向けに寝たまま、俺は顔だけを跡部の方に向けて聞いた。



俺は跡部に話したいことがあったのに。



跡部が朝、コートに姿を見せることはなかった。






「・・・今朝の職員会に出させてもらったんだ。」


「・・・宍戸のこと?」


「ああ。」


「宍戸、謹慎処分になっちゃうの?停学・・・とか?」





跡部が軽く瞼を伏せた。



宍戸は、今日は学校を休んでいた。



処分が決まってないうえにクラスメイトとの間に起こった問題。



宍戸は自首的に学校を休んだんだ。



もちろん朝の部活にも来なかった。



俺が宍戸が学校を休んでることに気付いて送ったメールに



‘大丈夫’と‘悪い’だけで返信してきた宍戸。



・・・今は一体何を考えているんだろう。






「謹慎になんてさせねぇって言ったろ?停学にもだ」





跡部は俺を見て口端をあげるだけの笑みを見せた。



俺は跡部を見て少し驚いた。





「言いくるめたの?女子のほうは。」


「言いくるめた?人聞きの悪いこと言うなよ。優しく脅してやっただけだ。あとは教師。今日の様子じゃもう一回職員会にでればどうにか落とせる。」


「・・・・・・・・・・」





・ ・・・・・人聞きの悪いのはどっちだろう。



でも、うれしかった。



跡部が宍戸のために動いていること。



宍戸が謹慎にならずにすみそうなこと。






「・・・・へへっ・・・・よかった。」





空は、晴れてた。



みんなの心もあの空みたいならいいのに。



再び瞑った瞼の裏に、昨日のみんなの涙が見えた。



・ ・・泣かないで。



泣かないで、泣かないで。






「おい、ジロー。二度寝する時間はねえぞ」


「・・・・・・・・・・跡部。これで最後にするから。だから・・・・・」


「あん?」


「・・・・一緒にサボって。」






いつの間にか屋上から俺たち以外の生徒はいなくなっていた。



タイミングがいいのか、悪いのか。



予鈴が鳴る。



跡部が俺の目をじっと見る。



俺も跡部を見返した。



聞いて。



聞いて、跡部。



昨日の話。



まだ誰からも聞いてないよね。






「・・・今朝の練習ね。みんなぎこちなかったんだ。」


「・・・・・・・・・」


「みんないろいろ思ってたんだ。宍戸のこと。のこと。跡部、昨日はいろいろありすぎたんだよ」


「・・・・・・宍戸の話を聞いた後、か。」





待ってた。



あの後、無言のうちに



1人、また1人と部室を後にしていって。



それでも俺は跡部が部室に戻ってくるのを待ってた。



跡部と話がしたくて。



でも、どんなに待っても跡部は部室に戻ってこなくて。





<キーンコーン・・・・・>





聞こえてきたのは本鈴。



それでも跡部が俺の目を見続け、この場を動こうとしなかったから、



俺は跡部に話したかったことを話し始めた。



昨日のこと。



それから。









「泣いてたんだ。鳳。」


「・・・・・・・・・・・・・」


「部活が終わって、部室に引っ込んで。その後。」








泣いてたんだ。



会いたいって。



進めないって。






「・・・・しょうがないよね。が死んでもよかったなんて言ってる奴らがいたんだから。」


「ジロー・・・」


「鳳きっと、悲しくて。悲しくて、悲しくて。それで今までの想いがあふれちゃったんだ。」







俺は跡部から視線を外して空を見た。



雲がまばらに泳ぐ空は、とても



なんだかとても切なかった。



みんなの気持ちとは反対に見えたから。





「会いたいって、言ったんだ。鳳が。そしたらね本当にが部室に現れたんだって。」


「・・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・現れたんだって。・・・・・・・・でもね。でもね、跡部。」


「・・・・・・・・・・・・・・・・」





この晴れ渡った空は、



俺と正反対に見えたから。


























































「俺は、に会えなかったんだ。」








































跡部はずっと俺の話に耳を傾けていてくれた。



・・・・見えなかった。



俺に見えたのは



鳳のてのひらで涙に揺れる



淡い緑のクローバーだけ。



みんながに会えたのに。



俺だけが。



俺だけがに会えなかった。



会えなかったんだ。





「ジロー・・・」


「・・・・・・・ん。平気。」





少し目ににじんだ涙。



頬に流れる前に拭った。



今はもう泣かないよ。



泣かないよ、泣かない。



のために。みんなのために。俺の為に。



決めたんだ。



悲しみさえも糧にして。



夢にはまだまだ、ずっと先があって終わりそうもないから。





「・・・・・・俺ね。たくさん泣いてた頃。夢ではいつもに会えたんだ。」


「・・・・・・・・・・」


「丘の上にがいて。・・・・・・・会えたんだ。会えたんだ、に。」





涙を携えるのは忍足、鳳。



涙目の宍戸。向日。



泣かないで、泣かないで。



悲しみさえも糧にして。



無言のうちに1人、また1人といなくなる部室。



声に出来る言葉なんてなかったんだ。



みんな、みんな



ただただを想ってた。





「でもね。泣かなくなってから夢が消えちゃった。それから俺、に会えなくて・・・・・。」


「・・・・・・・夢・・・・。」


「さっきも会いたくて。会えるかなって思って寝てたのに会えなくて・・・。」





















‘死んでよかった’


















「・・・・・・・・・・・・・・・・・ねえ、跡部。が死んじゃった理由って、確か。」


「脳梗塞。」





俺は床に手をついて上体を起こした。



目に映ったのは今度は屋上を囲むフェンス。









「・・・・・、苦しくなかったかなぁ」


「・・・・・・・・・・」








・ ・・ごめん。



ごめんね、



助けに行けなくて。






‘死んでよかった’






心無い一言に、動揺を隠せず、



死んでよかった?



会えないのに?



会いたくても



どんなに会いたくても会えないのに?






が・・・死んでいいはずなんかなかったんだ・・・・・」


「・・・・・・・・・・」


「会いたくても会えないんだから!!」






拭った。



拭った。



目ににじむ涙が頬にこぼれないうちに。



今まできっと誰よりも泣いてた俺。



もう泣かないよ。



泣いちゃいけないんだ。



のために。みんなのために。俺の為に。






「・・・・ジローは・・・・」


「・・・・・・・・」


「ジローはが死んだってことを、俺たちの中で一番しっかり受け止めているのかも知れないな。」


「・・・・・・跡部?」


「だから会えない。」






跡部の顔を再び見た俺。



跡部はまつげがちょうど目にかかって見えるくらいに、軽く瞼を伏せていた。






「たくさん泣いた分。悲しみに打ち勝ってるんだよ、ジローは。俺には他の誰よりもそう見える。」


「跡部。・・・・・・・・・・まさか、跡部。跡部もに会ったの?」


「・・・・・・・・・・・・ああ。」


「(!!)」


「・・・・・・・幻覚だと思ったがな。」






・ ・・ずるいよ。



ずるいよ、そんなの。






「・・・・・・」


「ジロー・・・」


「ずるい。・・・・跡部」


「・・・・ジロー。幻覚なんだよ、俺たちが見たのは。おかしいじゃねえか。今更になって俺たちの前にが姿を現すなんて。」


「でもっ・・・・幻覚でも会いたいよ!!」














どうして?



どうして俺には見えないの?



跡部の言った通りなの?



だって夢では会えたじゃないか。



君はすぐに消えてしまうけど、それでも会えたじゃないか。



なのに、なのに。



どうして?



どうして俺だけが。



記憶の中では、会えるのに。






























































































































君を想う気持ちなら、誰にも負けてはいないのに。













































































































































「・・・・探して、って言ったんだ。」


「・・・・・え?」


「あの時、が俺に。」






跡部が思い出したように、そう口にした。



俺に見えたのは



鳳のてのひらで涙に揺れる



淡い緑のクローバーだけだった。



クローバーだけ。













‘・・・ジ・・・ローちゃん・・・’


‘行っちゃダメだよ!’


‘見・・・つからない’


‘え?’


















































‘探して’
















































「・・・・・クローバー・・・・・」


「ジロー?」


「・・・・鳳が持ってたクローバー・・・・。鳳、どうしたんだろう」


「ジロー?」



































?何してるの?」


「探し物だよ、ジローちゃん。」


「探し物?」

























































































俺、どうして。



どうして夢を見てすぐに思い出せなかったんだろう。






「クローバーだ。・・・・・・・クローバーだよ、跡部!」


「クローバー?部室の机に俺が置いておいた奴か?」


「え?」


に部室で会ったとき、いつの間にかそこに落ちてたから拾ったんだよ。」


「・・・・・・知らない。なかったよ?」






なかった?



・・・・・・・消えた?






「・・・・・・・・・・跡部!それってもしかして三つ葉?」


「・・・・ああ。」


は本当は四つ葉をあげたかったんだよ!」


「おい、ジロー・・・・」


「探してるんだ!跡部だって聞いたことあるはずだよ!が四葉のクローバーを探してるって!!」


「・・・・・確かにある・・・・でも、ジロー・・・・」


「俺、探すよ!!が探してって言ったんだよね?」






思い出した。



思い出した、クローバーのこと。



探してた。



探してたんだ、は。



掘り起こした会話、頭をめぐった記憶。



跡部の話。



クローバーと



一瞬にしてたどり着いた答えと漠然とした思いだけが、俺の頭にはあったんだ。




































































































































の探し物、見つけたら





きっとに会えるんだって。





その為に俺は、あの夢で君に会えたんだって。








































































































































































































俺が探すよ、四葉のクローバー。
























































End.                              気に入っていただけましたらポチッと。