「ブン太、好き」
明快に聞こえる名前とは逆に
その後の
の声が
いつも小さすぎて
聞こえない。
『空白』
「今なんて言っ・・・」
「じゃあね、ブン太。明日も学校でね!」
「えっあっじゃあな!」
流されて、にごされて。
「・・・またかよ」
また聞き逃した。
たまには思い付いたように俺の名前を呼ぶ
呼んでその後
聞こえないほど小さな声で
俺に何かを言う
それは小さすぎる声だから
(いつもわかんねぇ)
聞き返せば
流されて、にごされて
‘ブン太、 ’
、
なんて言ってんの?
小さくて
聞き取れない。
「ブン太!紳士が、柳生くんがケーキのタダ券2枚くれたよ。丸井くんとどうぞだって!」
「嘘?マジ?さすが紳士!」
「いつ行こっか」
学校の廊下
に話しかけられたことも
話された内容も
俺のテンションをあげるには十二分。
「・・・おしっ!今日の帰りな」
「ブン太・・・気が早い」
「そ?」
「うん。・・・でも、じゃあ今日の帰りね!」
「決まりな!」
あがりきったテンション
とケーキのタダ券
紳士、ありがと。
「・・・・・・・・ブン太、」
「ん?」
「好き」
膨らましていた風船ガムが割れる。
「・・・、聞こえない」
「帰り楽しみにしてるね!じゃあ!」
「あっおいっ・・・・・」
流されて、にごされて。
聞こえないままの言葉なら
俺にとっては空白。
小さすぎて聞き取れない。
、お前の声なのに
俺はわからない。
「あれじゃないっすか?ブン太死ねとか殺すとか」
「赤也、殴られたいのか?」
「・・・・遠慮しときまーす」
部活が終わった部室
話すのは俺と赤也で
俺がもらしたの言葉の空白についての赤也の見解に
とりあえず俺は赤也をぐーで殴ってみた
「・・・なぁ仁王。仁王はどう思う?」
「痛い!痛いっす!!」
「お前には聞いてねぇよ」
殴られた頭を押さえこんでしゃがみこむ赤也
俺が今質問したのは仁王だっての。
「・・・知らん」
「お前そっけなさすぎだろぃ」
「にちゃんと聞けばよか」
「・・・流されんだよ」
ジャージから制服に着替えが終わった仁王が
自分が使っていたロッカーを閉める
「お前さんに聞こえないわけがない。の声じゃ」
「・・・・・・」
小さすぎる。
の声なのに
俺に聞こえない
空白の、言葉。
「ブン太、お疲れ様」
「・・・おぅ」
「(?)今日は相当疲れた?」
「いろいろ」
仁王の言葉に俺のテンションは下げられる
の声なのに
(わかんねぇなんて)
自分でも思っていたことを他人から指摘されるとダメージは膨らむらしい。
赤也の見解・・・・・は置いといて。
「おいしかったね!」
「・・・・・そうだな」
いつの間にか食べ終わっていたらしい無料のケーキは
味すら覚えていなかった。
・ ・・・・・折角タダだったのに。
ケーキより、の声が聞こえないことが
気になって、悔しくて。
「また来ようね!あのケーキ屋さん」
「もち。」
ケーキ屋をでてしばらく歩くといつもと別れる道までたどり着く。
そりゃ、となら何度でも一緒に行くけど。
「ブン太、好き」
小さすぎる。
の声なのに
俺には聞こえない
空白の、言葉。
‘ブン太、 ’
なんて言ってんの?
明快に聞こえる名前とは逆に
その後の
の声が
いつも小さすぎて
の言葉なのに聞こえない。
「」
「・・・じゃあね、ブン太。また明日ね!」
流すな、にごすなよ
、なんて言ってんの?
「ブっブン太・・・」
「・・・聞こえないんだってーの!」
俺はを腕を引き寄せて抱き締めた。
小さな声
声量は変えなくていい。
の声なのに小さいから聞こえないなんて悔しい。
・・・・・・・でも、聞こえないんだよ。
空白の言葉。
聞こえないから近寄れ
の言葉
聞きたいから
寄り添うくらい近付け
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
・・・本当は
寄り添うくらい近寄ったら
言葉なんていらないかもしれない。
分かった気がするから
聞こえなくても、空白でも伝わることがある。
「・・・・ブン太、好き」
寄り添うくらい近寄れば
わかることがある。
「・・・・・そんなもん知ってるっての」
「・・・・・・・・・しょうがないでしょ。たまに言いたくなるんだからっ・・・」
「・・・・・・・聞こえるように言えよ」
「だって恥ずかしいもん」
小さすぎて、空白。
聞こえなくて、落ち込む。
「・・・・・・・・・・・・・の声小さすぎだけど、そのままでいい」
「・・・・どうして?」
寄り添うくらい近づけば伝わるから。
「・・・・それ、言いたくなったら抱きつけ。」
「(!!)むっ無理!!」
「だってよ、聞こえなきゃ意味ないだろぃ?」
「なんて言ってるか、わかったからいいじゃない!」
「だめ。俺は悔しかったんだからな」
空白でも伝わることもある。
でもお前の声がわからない空白はいらない。
寄り添うくらい俺に近づく距離は
言葉なんていらないと思うほど近いけど。
「俺だって、が好きなんだぜぃ」
「ブン太?なんて言ったの?」
「聞こえなかったらもっと近寄ればいいだろぃ?」
「!!」
抱きしめたをさらに抱き寄せる。
「」
寄り添うくらい近づけば
の言葉は心地いいほどかすかに響く。
寄り添うくらい近づけば
言葉なんかいらないと思えたけど。
(だってそうだろぃ?)
寄り添って唇が合わされば、
言葉のない空白、
それだけで、お前の気持ちも俺の気持ちも
これ以上なく、わかりやすい。
End.