「あ。」
噛んでいたガムを銀紙に包んで
近くのゴミ箱に投げ入れた。
廊下を歩いていて、を見つけたから。
『キャラメル』
「。」
「・・・・」
「・・・おい、。」
返事がないは廊下に突っ立って
窓の外を見てた。
(あー・・・なるほど)
同じ窓の外に目を向ければ
が気を取られて返事をしない理由を発見。
「仁王。」
「(!!)」
窓の外ジャージを着た仁王
が見ていた正体
「ブッブン太!?いつからここにっ・・・」
「たった今だけどよ。・・・仁王のクラスは体育だったんだな。」
「・・・・」
の目は仁王に奪われて。
「・・・」
「ブン太。あたしに用事だったの?呼んだ?」
「・・・キャラメルくれぃ」
「また?」
「また。」
キャラメルはの好きなお菓子
いつも持ち歩いてる。
俺はからキャラメルをもらう為
を見つければ噛んでいたガムを捨てる
「あたしも好きなんだからね。あんまり取らないでよ?」
「ケチ。」
「・・・ブン太はガムくれたことないでしょー」
が取り出した小さな箱から
銀紙に包まれたキャラメルは
長方形のこれまた箱みたいだ。
「ガムくらいやるよ。いつか。」
「いつか!?」
からもらったキャラメルを口にいれた
噛むと甘い味が広がった。
「ねぇ、仁王の好きなものとか知ってる」
「・・・好きなタイプは駆け引き上手らしいぜぃ?」
「・・・駆け引き上手って何?」
「さぁ。」
は窓の外を見る
窓の外の仁王を見ている。
・・・そんな寂しそうな顔すんなよ。
キャラメルの味が口の中を支配する
仁王ものこと好きなんだよ。
俺は知ってる。
「・・・さっさとひっついちまえよ」
「え?何?ブン太。」
「なんでもねぇよ」
がくれるキャラメルは
すぐにとけてなくなって
甘い余韻だけを残して
俺の目の前をかすませる。
キャラメルをもらう以外にに話しかける理由もない。
話しかけたい理由は俺の中で確立してるけど
「・・・焼き肉。好きとか言ってた気がする。」
「仁王が?・・・焼き肉・・・・。あたしにどうしろと?」
「一緒に食いに行きゃいいだろぃ?」
「無理!!」
「そうか?」
うれしいって言葉がある。
キャラメルをもらうこと
と話すこと
俺の今の感情を表すならうれしいで十分
でも俺の想いを表す言葉なんてなかった。
世界中の言葉をかき集めても
どんなに綺麗な言葉を並べても
が俺を見てくれるようになることはないと知っているから。
キャラメルの味が、消えた。
「お前さぁ」
「ん?」
「いい加減気付けば?」
「・・・何をよ」
「仁王ものこと好きだぜぃ?」
だから、さっさとひっついちまえよ
が俺のことを見てくれるようにならないことは知ってる
だから、キャラメル一粒で許してやるよ
俺はお前を応援するよ
「なっ何言って・・・」
「本当だぜぃ?」
頬を染めたの目に一瞬俺が映った気がした
の手からキャラメルの箱をとって
一粒キャラメルを取り出す
「あっちょっブン太!」
「ほらよ」
にキャラメルの箱を返して
俺は銀紙を開ける
「まっがんばれよ!」
そんな捨て台詞を吐いてから遠ざかった。
キャラメル一粒の勇気は果てしなく大きい。
キャラメルがに話しかける理由になるならそれだけでいいんだ。
がくれるキャラメルは
すぐにとけてなくなって
甘い余韻だけを残して
俺の目の前をかすませる。
それでも
余韻でもいいから
うれしいって思う時が欲しかった。
「。」
世界中の言葉をかき集めても届かない想いの中
今日もキャラメルを一粒、君にねだる。
end.