目が合えば、それが合図だった。
俺もも誰もいない教室に2人で入り
俺は左手で向き合うの右手を握って
そしてただ
キスをした。
『left』
おかしな関係だった。
きっかけも理由も覚えてない。
記憶に残っていない。
ただ目が合えばそれが合図。
「leaveの変化はleave‐left‐left。leftは‘左’って意味もあるけどこの場合は‘残された’って訳せよー」
・・・なめてんのか。
頬杖付いて聞く英語の授業。
英文の長文を教師が訳していく。
快晴の空がちらちらと視線にはいる中
教師の注意に突っ込む。
(誰が間違えるかっての。・・・あ。赤也ならやるか)
left
俺は自分の左手の手のひらを見た。
の手を掴むのはいつも左手
右手は・・・
どうしてるっけ?
左手
left hand
残された手
最後にと目を合わせたのは昨日のこと。
左手の体温はもう俺のもの
の感触は忘れてる
(・・・手を)
手をつなぎたい。
「えー違うよ!。」
「えっだってほらっ」
目を合わせたらそれが合図。
「?」
「ごめんね。ちょっと・・・」
たとえ友達と話をしていてもは
俺と目を合わせると
必ず俺のあとを付いて来た。
誰もいない教室。
2人で入っては
俺は左手で向き合うの右手を握って
「ブン太・・・ん・・・」
「・・・・・」
「・・・ふ・・ん・・・」
まるで何かの中毒のように。
おかしな
おかしな関係。
好きと言ったわけでもなく
好きと言われたわけでもない
もちろん付き合ってるなんて論外
ただ目が合えば手を握る。
目が合えばキスをする。
きっかけ、理由
そんなものさえ覚えていない。
〈キーンコーン・・・〉
「・・・ん・・ブン・・太・・」
「(予鈴・・・)」
「・・・・・・んん・・・・・」
「(まだ、もう少し)」
もう少しだけ。
の温度で、感触で
左手が痺れるまで。
〈キーンコーン・・・〉
「はぁ・・・ブン太、・・・・・・・本鈴」
「ああ。・・・・・・・・・・・じゃあな。」
俺の左手とお前の右手が
離れる。
がいなくなった教室で
痺れた左手はすぐに俺の体温に戻って
の感触を忘れて
離れればまた恋しくなる
(・・・手を)
手を繋ぎたい。
見つめたのは
左手
left hand
残された手
残された手
「ブン太さん、ブン太さん!」
「なんだ、赤也か。」
「ひどいっすね!かわいい後輩が訪ねて来てあげたのに。」
「かわいい後輩じゃないからひどいんだろぃ。」
珍しい後輩の登場
休み時間に俺のところに赤也が来るなんて滅多になかった。
「ブン太さん、先輩と知り合い?」
「・・・・・・なんでそんなこと・・」
「友達が言ってたんすけど、ブン太さんと先輩が2人で歩いてんの何度か見たって」
「・・・ふーん」
赤也の考えてることなんてすぐにわかった。
挑発的な視線
挑戦的な態度
「俺先輩狙ってるんで。手ださないで下さいよ」
それは、困る。
手ならもう出してしまった。
「・・・・赤也。言っとくけど。はやんないぜ?」
「・・・・まだブン太さんのものじゃないでしょ?」
好きと言ったわけでもなく
好きと言われたわけでもない
もちろん付き合ってるなんて論外
でも、が赤也のものになったら俺の左手は本当に取り残されたままだ。
この左手は、
「でも、お前にはやんねえよ。」
と手をつなぐためにだけにあるのに。
左手
left hand
残された手
確かにおかしな関係だが、言葉にはできる。
俺の、単なる片思いだと。
なんとも美しい日本語で。
(・・・・手を。)
手を繋ぎたい。
きっかけなんて、理由なんて覚えてない。
気付けば何かの中毒のように、手を握り、キスを繰り返し。
もしかしたらきっかけや理由なんてものは初めからなかったのかもしれない。
いつを好きになったかさえ、分からない。
でも、どんなにこの世界がかすんでも、
がいる景色だけは、
と手を繋ぐその時だけは、
色鮮やかで。
ただ、触れていたい。
他のことがどうでもよくなるくらい。
に、触れていたい。
「ブン太・・・・」
目が合えば、それが合図だった。
俺もも誰もいない教室に2人で入り
俺は左手で向き合うの右手を握って
そしてただ
キスをした。
「・・・・ん・・・・」
キスをした。
休み時間。
授業中。
こうして部活に行く前。
このおかしな関係を継続したくて。
「ブ・・・・ブン太・・・部活は・・・?」
「・・・そろそろ行かなきゃな・・・」
「・・・・ん・・・・・・」
「(あと少し)」
もう少しだけ。
左手を、置いていくな。
が苦しくなるまで。
喉が渇くまで。
左手がしびれるまで。
触れさせて。
left hand
左手、残された手。
残される手。
‘・・・・まだブン太さんのものじゃないでしょ?’
うっせぇよ。
俺だって必死。
ただ、この世界を色鮮やかにお前が染め上げるから。
「・・・・・・・俺、行くわ」
「はぁはぁ・・・・・」
息が上がったのは二人とも。
苦しいと思ったのは、
の声がかすれたからだ。
左手はまたすぐにの温度も感触も忘れるんだ。
なのに、離さなくてはならない。
「・・・じゃあな。」
「あっ・・・・・・・・ブン太!!」
の声はかすれて、
おさまらない息切れ
苦しそうに俺の名前を呼んだ。
「きょっ今日・・・・は、ブン太が部活終わるの待っててもいい?いっ一緒に・・・・帰・・・・ろ」
苦しそうに、はそう言った。
顔を赤くして、
息を切らして。
だから、もう一度。
何かの中毒のように衝動に駆られ
俺は、左手を伸ばした。
「・・・・・・・・キスしていい?」
「え?」
「してもいいかって聞いてんだろぃ?。」
「そっそんなの今まで聞いたこと・・・ないくせに。」
「・・・していい?」
やばい。
急がないと。
部活だ。
けど。
「(もう少し)」
「・・・・・・・・・・ん・・・・」
「(もう少しだけ。)」
初めて承諾を得たキスだから。
目を合わせて、手を繋いで。
真田達に怒られる覚悟で何度も、繰り返した。
この左手はと手を繋ぐためだけに残された手。
left hand
他のことがどうでもよくなるくらい
お前に、触れていたい。
End.