ただ苦しかった
あなたに恋をすること
苦しかった。
叶っても
叶わなくても
『待ちぼうけ』
「お疲れー」
「お疲れ様。」
夕日の落ちていくテニスコートで1人練習を続ける君。
「宍戸。」
「あっ。わりぃな、」
フェンスの近く。
わざわざ走ってあたしのところまで来てくれる
「もう少し、な。」
「うん、待ってるよ」
いつも宍戸を待つ。
最後の最後まで
時間が許す限りテニスの練習をする毎日の放課後
お疲れ様。
たった一言の労いの言葉が言いたくて
どんなに遅くなってもあたしは宍戸を待った
「悪かったな。今日も遅くなって」
「いいよ、宍戸。お疲れ様」
「おぅ」
照れたように笑うその笑顔が好き。
日が沈んだ夕闇の2人の帰り道
「それで長太郎の奴がさ・・・」
宍戸の話はいつだってテニスのこと
「あの時俺のサーブが決まればよかったんだけどよ。練習不足だよな」
「宍戸はたくさんがんばってるじゃない」
こんなこと言ったらきっと笑われる
あたしが嫉妬するのは人じゃなくてテニス。
宍戸の大切なテニス。
「明日も晴れだよな」
「しばらくはずっと晴れだって天気予報で言ってたよ」
「じゃあテニスには支障ねえな」
夕闇を街灯が照らす
宍戸の中であたしの位置付けはどこなの?
一番はテニスでしょ?
宍戸の一番は決まってる
想いが伝わって宍戸が応えてくれて
それでもあたしは宍戸の目に映っている気がしなかった。
宍戸の一番はテニス
じゃああたしは?
(あたしは一番にはなれない)
苦しかった
あたしを宍戸の一番にして欲しいなんて
あたしのわがままにすぎない
宍戸の努力もテニスへの思いもわかってるつもり。
でもね、でも・・・
「今度の水曜日は放課後部活ないから、どっか行こうぜ」
「え?」
「どこがいい?」
「でも宍戸テニスは?」
「夜でも練習はできるし」
照れたように笑うその笑顔が好き。
「考えとけよ、どこに行くか。」
「・・・うん」
夕闇の帰り道
宍戸の一番にしてほしいってわがままは言えないまま。
いつも宍戸を待つ。
最後の最後まで
時間が許す限りテニスの練習をする毎日の放課後
どんなに遅くなってもあたしは宍戸を待った
あなたの一番にはなれなくても
わがままを言うことはできなくても
お疲れ様。
たった一言の労いの言葉が言いたくて
「もう少し、な」
「うん。待ってるよ」
苦しかった
叶っても
叶わなくても
あなたの一番になれなくても
それでも
あたしはあなたが好きだった。
end.