けして





誰のものにもなることのない2人だった。



















「ねぇねぇ、あの2人付き合ってるって本当?!」


「最近ずっと一緒にいるよね」


「うっそ!跡部様ー!!」


先パーイ!!」





























『未完成な時計1』































秋の涼しさはどこかへ逃げつつあった。



人も空気もすべてのものが



涼しさから寒さを増す冬へと少しずつ準備を始めだす



今はそんな秋の終わり。





「今朝の部活。いつもより女子が少なかったんは跡部とが付き合い始めたからなんやろな」


「・・・あれで少なかったの?跡部」


「ギャラリーのことだろ?知らねえよ」


「いや、減ってたんやて。女子が。跡部信者が。」





話題は今朝の部活。



と同じクラスの忍足が自分の席に座りながら話す。



忍足とは隣の席らしく



2人は隣の席に座り



俺はの前の机に体を預けるようにして浅く腰掛けていた。





「で?跡部。なんでクラス違うお前がここにおんねん」


「あん?そんなものに会いに来てやったに決まってんだろ?」


「よく言うよ。ただの男よけさん?」


「そのただの男よけがただの女よけにわざわざ会いに来てやってるんだぜ?」


「・・・何の話やねん」





俺が口角をあげるだけの笑みをにむける。



でただ作り物のように愛想のいい笑みを浮かべて俺を見ていた。



聞こえてきた耳が痛くなるほどの周囲の悲鳴にはお互いが無視。



教室の窓の外は少し高い青の空。



俺の目の端に映った忍足は



あきれたような目で俺とを見ている。






。今から生徒会室に行く。お前も来いよ」






俺が足を一歩進め教室のドアの外へと向かい始めると



深い溜め息のあと



俺の後ろで誰かが席を立つ音が聞こえ



それが妙におかしくて小さく笑う。



教室のドアのところまで来て振りかえると



予想通りが俺のあとを付いて来ていることを確認する。





「男よけとか女よけとか言ってるわりにはいつも一緒におるやん」


「バーカ。傍においとかねぇと女よけの意味ねぇだろ」


「・・・跡部。そっくりそのまま返してあげる」





あきれ顔のままの忍足に返した返事は



どうやらの機嫌を損ねたらしい。



は俺より先に生徒会室に向かって歩き始めた。








































































































































































































それは3日前のこと。





「あのっ跡部先輩。・・・ずっと好きでした!!」


「・・・・・」





俺は毎日のように呼び出され



好きだのなんだの一方的に聞かされては



応えることなく終わる時間。





「あのっ先輩。・・・ずっと好きでした!」





呼び出された体育館裏。



俺を呼び出した女子生徒が去ったあとで聞こえてきたのは



俺と同じような立場にある奴の声。





「ごめん。・・・あたし君のこと知らないし」


「あのっ・・・でも好きな人とかいないんですよね?だったら・・・」


「興味がない。あなたに」





少なくとも俺と同じだと思った。



その言葉がその声がそう思わせた。




































別に何か部活で注目されているわけではない。



生徒会に入って目立つ存在になっているわけでもない。



ただその容姿は人目を引いた。



すれ違えば誰もが振り返った。





「意外に冷たい女だな、


「・・・覗きなんて趣味悪いね、跡部。」





に告白した男が去ったあと、



俺はに声をかけた。



忍足と同じクラスの



話したことは何度かあった。





「・・・なんでこんなところにいるの?」


「お前と同じ理由だ」


「・・・そう」





男からも女からも人気のある



いつも愛想笑いを浮かべ



話しかけられれば気さくに返す。



どこか他人と距離をおいて。



どこか他人から一歩引いて。



それが俺から見ただった。



だから、



今目の前にいる



明らかにいつもと違う。



陰る横顔。



うつむいているのはなぜなのか。



愛想など見せない。



これが本当のなのかもしれないと。





「跡部は彼女作らないの?」


「あ?」


「どうせ告白されてばかりなんでしょ?」





が顔をあげる



あわさった視線。






「そのまま返してやるよ、。その冷たさで毎回断ってんのか?」






嫌味にのせて浮かべるだけの嘲笑。



あわさった視線の先にあるの瞳がかすかに揺らいだ気がした。






「別に。・・・誰にも興味がないだけ」






その容姿は人目を引いた。



すれ違えば誰もが振り返った。



誰のものにもならない俺。



誰のものにもならない






「・・・


「・・・何?」






それは俺の気まぐれが起こした思い付き。





















































































「俺の女になれよ」




































































































































けして



誰のものにもなることのない2人だった。





「・・・何言ってるの?」


「俺の女よけになれって言ってんだよ」


「・・・それってあたしが跡部を男よけにしてもいいってこと?」





は頭の回転も早いらしい。



成績がいいのは知っていたが。



俺の言葉に皮肉で返す。



初めの困惑した表情は消え、俺を小馬鹿にしたような笑みを見せる。





「ああ。そうだ」


「・・・・・」


「だが、ただの女よけじゃつまらねぇ」





思い付きは果てなく広がり。





「ちょうど退屈していたところだ。。俺と勝負しろ」


「・・・勝負?」


「ゲームだ。」


「・・・・」





顔をしかめたが首をかしげ



俺を見続けていた。



俺はそんなに近付くと



の髪をすくい、それに口付ける。














「誰のものにもならない俺がのものになるか。誰のものにもならないが俺のものになるか。」












視線はさっきとは比べ物にならないほど近く。



は困惑した表情を見せ



俺はただ



そんなから目を離すことだけはしなかった。





「・・・負けたら?」


「・・・相手の言うことを聞くってのはどうだ?」


「・・・・・」


「悪くねぇだろ?この俺を好きにできるんだぜ?」


「・・・跡部はあたしを好きにできるのね」





負けたほうがどうなるかなど、どうでもよかった。



勝つのは、俺。



どんなものでも簡単に手に入らないものほど面白い。



はそれに該当した。



それは



出来心と言うにはあまりにたちの悪い












「・・・・いいわ。」












ただの、遊び。





「決まりだな」


「でも跡部。ゲームには制限時間があるものよ?」





手から離したの髪



さらさらと元の位置に戻り



そして



見たこともないような不敵な笑みで



俺を見た。






「跡部が決めて。」


「・・・・(タイムリミット・・・)」






誰のものにもならない俺がのものになるか。



誰のものにもならないが俺のものになるか。



これはゲームだ。



はまったほうが負け。





「なら・・・」





少し高い青の空。



秋の終わりに気付き。



































































































「雪が、降るまで」




































































































































































































それは



出来心と言うにはあまりにたちの悪い



ただの遊び。





「・・・いつまですねてんだよ」


「跡部は言い方がひどい。本当に冷たいのは跡部のほうじゃないの?」


「(くくっ)おいおい。もう俺のものになっちまったのかよ」


「・・・・笑えない冗談はやめたら?」





俺は生徒会長になったばかりで



毎日のように書類の整理のために



生徒会室に足を運び



その度にを連れてきた。





「・・・手伝う?跡部」





机に置かれた山積みの書類。



その書類に目を通し分けていく俺の隣で



は毎回大人しく座っていたが



今日は違うらしい。





「手伝わせるためにお前を連れて来てんじゃねぇよ」


「・・・・」


「傍においておきたいから連れてきてんだよ」


「(くすっくすっ)跡部はそうやって女の子くどくんだ?」





少しだけ寒い生徒会室。



がそうやって愛想笑いを俺にむける。



からかうように



ただ表情にだしただけの笑みを。






「・・・ああ、そうだ。」


「あとっ・・・」






に近付き髪をすくいそれに口付け。



さっきまでとは比べ物にならないくらい視線を合わせ。



は驚いた表情を見せるが



それはすぐにあの不敵な笑みへと変わり。














「ねえ、跡部景吾。いいこと教えてあげよっか?」












俺の手からするすると落ちていくの髪は



さらさらと元の位置に戻り。



近すぎる視線の中。

















「あたしはあなたを好きにはならないよ。」















これは、ゲームだ。



はまったほうが負け。





「・・・・へえ。上等じゃねえか」


「・・・あたしも退屈だったんだ。」


「・・・・・・・・・・・・・」





けして





「負けないよ?跡部。」





誰のものにもなることのない2人。
















































































































































































それは、




秋の終わりに始まったゲーム。


















































End.