「・・・俺の勝ちだな」




「・・・・負けた」





















『未完成な時計2』



















ざわざわと騒がしい廊下。



2年の奴らが群がるのは



少し前に終わった定期試験の結果が張り出された紙。






1位 跡部景吾


2位 





「・・・お前、ずっとその顔してたらそれ自体が男よけになるぜ?」


「うるさい、跡部。」





周囲の生徒の反応がさまざまな中



俺の隣で順位を見つけるは怪訝な顔。



整った顔は俺の下に名前があることが不服らしい。



張り出された紙に抗議の目を向ける





「・・・・でも3回に1回はあたしが勝つでしょ?」


「ああ、そうだな。3回に2回は俺が勝つな」


「・・・跡部」


「あん?」





の深いため息。



そんなに小さく声を漏らして笑えば



の抗議の視線は俺に向けられる。





「・・・・その顔やめろ」


「・・・・すみませんね、変な顔で」


「そんなこと言ってねぇだろ?似合わない顔するなって言ってんだよ」





こうしてと並んで試験の結果を見るのは初めてだった。



3回に2回は俺の名前がの上。



3回に1回はの名前が俺の上。







「次は勝つからいい」






もう一度試験の結果に目をむけたの横顔。



もう怪訝な顔はやめたらしい。



最近気付いたことがある。



との言葉遊びはおもしろい。



つまりとの会話のやり取りはおもいろい。



それから、もう一つ。






。お前・・・・」






が俺の声に俺のほうを見た瞬間だった。






































ー!!」


「「!!」」






















































揺れる金髪。



人もまばらになってきた廊下をそいつはに向かって走ってきた。






(・・・またかよ)





3・・・・・



2・・・・・



1・・・・・





ー!おはようー!!」


「きゃっ・・・・」





<ぐいっ>





俺はの腕を引っ張って俺のほうへ引き寄せ抱きとめる。



に向かって飛びついてきた金髪はさっきまでがいたところへ見事によろけた。





「もう〜・・・・!跡部!!」


に触るんじゃねえよ、ジロー。俺のだ。」


「・・・・芥川くん・・・・」





今まで何が起こったのかわからなかったであろう



現状を把握したらしい。



俺に抱き寄せられたままジローを見ていた。





「・・・・・跡部」


「あん?」


「はなして」





腕の力をゆっくりと抜くとが俺から離れる。



はジローの前まで行くと



あの愛想のいい笑顔をジローに向けた。





「おはよう、芥川くん」


!かわいいー!!」


「・・・に触ったらただじゃすまないぜ?ジロー」


「・・・・・・・・・・わかったCー。」





ジローがに伸ばした手をしぶしぶ下ろす。



はジローににこっと笑いかけジローはそれに顔を紅潮させる。



朝も放課後も俺が部活に連れてきていた



どうやらジローはひとめぼれしたらしい。









(・・・・・・・・・・・・・・にしても)









まるで、人形。



俺の視線の先にあるのは



あまりに精巧な笑顔。



仮面を貼り付けたように綺麗に笑う。





愛想笑い。





覚えたのは、違和感。







何を考えている?



その笑み。



自分に会いに来た者には必ず柔らかく接し、



来るものは拒まず



そんな印象を受ける。



だが、想いを告げられれば興味がないと冷たく突き放す。



ジローに笑う



そうして話す2人。






(・・・・・何を、考えている)






・・・だが、その前に。






「おい、。お前がそれじゃあ俺が男よけになった意味がねえだろ?」


「え?」


「行くぞ」


「あっ!・・・・っまたね!!!」


「ちょっと・・・跡部!」






の手をとって俺が先を歩き始める。



の声に言葉を返さず、



ただ足早に



ジローに笑顔を向ける



その場からさらった。









































































































































































































































































あまりに精巧で



あまりに綺麗過ぎる笑顔。



覚えたのは、違和感。





「跡部!痛いよ!」


「・・・・・何を考えてる?」


「・・・え?」


「お前。なんでそんなに無愛想なんだよ」


「・・・・・・無愛想?あたしが?」





行き着いたのは生徒会室。



手を離すこともせず、俺はを壁へとおいやる。



別段。



今まで気になったことなど一度もなかった。





「嘘の愛想ばかり振りまく女のどこが愛想がいいんだよ」


「嘘の・・・・・愛想?」





その容姿。



視線に入ればいつでも笑っていて。



愛想笑い。



来るものは拒まず。



別にお前が何を考えていようと、何を思っていようと関係などなかった。



だが、



あの日少しだけ垣間見た本当の







、本当のお前が見えない。」


「・・・ホントのあたし?」


「何を考えている?他人に作り物の笑いだけ向けて、想いを告げられれば突き放す」







の手を握る力が強まる。



目を合わせて、俺は見ようとした。



俺の目で。



の本当を探ってやろうと。





「・・・・・・本当のあたし?」


「・・・・・・・・・・」





ふっとあきれたように笑った



それさえも愛想笑い。



別段。



今まで気になったことなど一度もなかった。



お前が何を考えていようと、何を思っていようと関係などなかった。



だが、忘れるな



今お前は




















































































































































































俺のゲームの相手。

































































































































































































































「探してみれば?ホントのあたし。」


「・・・・・」


「見つかるものならね」







見つめたの瞳が



揺らいだ気がした。



ゆっくりと力を抜いた手から



するりと抜けたの手。



細く、白く、冷たい。





「・・・一つ」


「何?」


「お前に関して気付いたことだ」


「気付いたこと?」






から距離をとった俺は



いつも書類の整理をする時に座る席へと腰を下ろし



と再び目を合わせる。








「負ケズ嫌イ」


「・・・誰が?」


「お前だよ、







追い詰められていた壁際に立ったままの



俺の言葉に目を見開いて驚く。



そのに驚かされるのは俺だった。





「・・・気付いてなかったのか?」


「・・・自覚、ない」





‘負けないよ?跡部’




‘次は勝つからいい’






。お前・・・」


「何?」


「くくっ・・・そうか・・・」


「・・・・何よ」






が俺を睨む。



それさえも初めて見た表情。






「お前自身、お前のことよくわかってないんだな」


「・・・・・・」






不敵に笑うのは



今度は俺。



なかなかの強敵を



俺は相手に選んだらしい。

















立ち上がり、歩く俺の靴音が



やけに生徒会室に響く。










































































































































「俺がお前にお前を教えてやるよ」



























































































































































































に近付いてもう一度握った手。



細く、白く、冷たい。



見つめあえば



間近にの顔。






「・・・跡部、あたしが言ったこと覚えてる?」


「・・・・俺のこと好きにはならない、だったか?」


「そうよ」







細く、白く、冷たい。



が愛想笑いを浮かべ



俺の手を握り返した。






「もう一つ忘れないでね。これは跡部の一方的なゲームじゃないわ」






今までないほど近づいた2人の距離。



不覚にも



その整った顔が浮かべた愛想笑いに



目を奪われ。






「・・・・・くくっ・・・・・・」






気付いたのは、



という女の無愛想さ。



作り物のこいつ自身。



覚えた違和感。



このゲーム、



予想以上に楽しくなりそうだ。



どうやら俺は











































































































































































強敵を相手に、選んだのだから。

















































end.