頭が重い。




気分が悪い。





「・・・なんなんだ、これは」





・・・なんなんだ。






























『未完成な時計4』






































「・・・景吾?・・・景吾ー」





ひらひらと目の前でに手を振られる。





「・・・なんだよ」


「(?)どうしたの景吾。反応遅い」





寒い日が続き秋の終わりを告げ



そして同時に冬の始まりを告げる。



朝の部活が終わってコートから校舎へと向かう俺の隣には



朝テニス部の練習を見に来るのが日課になった





「・・・・」


「・・・景吾?」


「・・・さみぃ」


「うん。今日も寒いね」





妙な寒気。



最近の朝は冷え込むが



今朝は特に寒い。



体が自然と震えていた。





「・・・ねぇ景吾」


「・・・あ?」





俺の前にが駆けでて回り込む。





「・・・今朝の部活ぼーっとしてたよね」


「・・・・」


「今寒いって言うより寒気がしない?」


「・・・それがなんだよ」


「頭ぼーっとして頭痛がしませんか」


「・・・・」





が俺を見て笑っていた。



困ったように。



あきれたように。



俺はに言い当てられる自分の体調に疑問を持ち始める。



なんでにそんなことがわかるんだよ。





「景吾。それって・・・」





が俺の顔に手を伸ばそうとしたその時だった。
















「跡部先輩!」


「・・・鳳か」













俺に駆け寄って来たのは鳳だった。



鳳は俺と向かい合って立っているに気付くと頭をさげる



はそれに微笑んで返した。





「引き止めてしまってすみません。放課後の部活なんですが日直で遅れます」


「ああ。監督にも伝えておけ。」


「はい」


「鳳くん・・・だよね」





俺からに視線を映す鳳。



俺もまたいきなり鳳の名前を呼んだを見た。





「正レギュラーだよね。すごいね。」


「ありがとうございます。・・・でも補欠ですし・・・・」


「それでもすごいよ。」





にっこりと笑ったに鳳が頬をそめる。



張り付いた作り物の笑みに騙される。






「・・・はぁ」


「・・・ちょっと景吾。何の溜め息なのよ」


「お二人は付き合ってるんですよね。」


「・・・ああ、まあな」


「すごくお似合いです!」






そう言って笑った鳳にの動きがとまった。



いや、その言葉に止められたんだろう。



鳳は俺とに頭をさげると校舎へと向かって行った。





「・・・お似合いだって、景吾」


「嫌なのかよ」


「・・・別に」





が俺から目をそらす。



ぼーっとする頭。



寒気が増した。





「・・っ・・・相変わらず無愛想だな。」


「・・・あたしはちゃんと笑ってるよ」


「嘘の愛想笑いでな・・・っ・・」


「景吾?」





・・・さみぃ。





「やっぱり風邪ひいたんだね」


「か・・・ぜ・・・?」





立ち暗みがして



俺はその場に片膝をつく。





「大丈夫?景吾。保健室行こ」





が俺の顔を覗き込む。



目の前がかすんでがぼやけて見えた。





「景吾、立てる?」


「・・・・本当のお前」


「え?」





頭が重い。



気分が悪い。



なんなんだ、これは。






「笑えよ、






俺は今なんて言った?



思考がうまく追いつかない・・・














「・・・景吾?・・・景吾!」












俺は、意識を手放した。





















































































































































































































































































ゆっくりと開いた瞼。



目の前に見えたのは



白だった。





「気付いた?」


・・・」


「もしかして風邪ひいたの初めて?」





くすくすと笑う



俺の側でイスに座っていた。



俺はベッドの上に寝かされていて。



さっき目に飛び込んで来た白は



保健室の天井。



笑うをぼーっとする意識の中で見ていると



が俺と視線を合わせて



今度はあきれた顔をした。





「無理はするものじゃないって言ったでしょう?」


「・・・してねえって言ったろ?」


「・・・ふーん」





が立ち上がり俺へと近付く。



ギシッとなるベッド。



の片手が鳴らす。



もう片方の手が俺の額に触れた。





「無理してないんだ」


「・・・うつすぞ」


「うつせば?」





俺の額に触れるの手は冷たい。



近付いたお互いの顔に



俺もも口角をほんの少しあげるだけ。



そのまま俺はへと顔を近付けていく。



唇が唇に触れようとした時だった。



















「じゃああたしは授業に行くから。景吾はもう少し休んだほうがいいよ。微熱みたいだし」


「・・・は?」

















唇は触れる前に遠ざかる。



が俺から離れ



保健室の出口へと向かった。





「待てよ、。ここにいろ」


「景吾より授業。」


「・・・つめてー女」





があきれたように俺を見た。



俺はを見つめたが



最後に困ったように俺に笑うと



は何も言わずに保健室を去って行った。





「・・・・・・・・・」





もう一度



視線を戻せば



白い天井。



俺以外誰の姿も見えない保健室。



うつろな意識の中。





(・・・笑顔だけ)





あきれた顔も、機嫌を損ねた顔も



最近知ったの表情はどれも



自然なそのもの。



笑顔・・・・・・だけ。



笑顔だけが



あいつを人形のように思わせる。






(・・・・・・・笑えば、いい。)






作り物の笑み。



張り付いた愛想笑い。



それだけでも、綺麗だった。



の笑顔は精巧に綺麗だった。



なら、本当の笑みならば?






きっと、綺麗だ。






本当に笑えば・・・・。









「・・・・・・って俺は何を考えてるんだ。」








無意識のうちの思考。



朦朧としてきた頭。



・・・・・・熱のせいだ。



・・・・・・だから、








―浮かぶ笑顔。あきれた表情。冷たい手。その声。近づく唇。―







だから、



のことばかり考える。



瞼を閉じれば徐々に薄れていく意識。



この気だるさを手放したくて。



俺は眠りについた。




























































































































































































































































<カサッ>




「・・・・・・・」




かすかな物音。



再びの白。



長いまつげが肌にかかるのは



うつむいて本を読んでいるから。



聞こえてきたそのかすかな物音は



が読んでいる本をめくる音。





「授業は・・・・?」


「景吾。・・・・起こしちゃった?」





持っていた本を閉じると俺に目を向ける



俺は上半身を起こすと、



保健室の壁にかかっている時計を確認する。



そして、笑う。





。授業はどうした?」


「・・・・・側にいないと女よけの意味がないんでしょ?」


「俺より授業じゃなかったのかよ」


「・・・・・・あたしがいたらきっと景吾休めないから」





時計の針は今のこの時間が授業の途中であることを指していた。



の言葉に俺は喉をならして笑った。



そう言いながらもここにいるに。





「もう俺の勝ちか?」


「・・・冗談でしょ。本当はもうあたしが勝ってるんじゃないの?」





その不敵な笑みさえも



作り物。



俺はすぐにに向ける笑みを消した。





「・・・・・・・・・・」


「・・・・・景吾?」


「・・・宍戸が言ってたぜ?」


「え?」


はそんな風に笑わないらしい。」





あわせたの瞳が揺らいだ気がした。



はっとさせられたのは



その後うつむいたの表情。



瞼を伏せ、



何かを考えるように。






「・・・・・・・」


「・・・景吾。もう体調はいいの?」


「あ?ああ、だいぶな。」


「もう少し休んだら?どうせ放課後の部活出る気なんでしょう?」






顔をあげた



いつものように張り付いた笑みを俺に向ける。



なぜか



歩いて帰ったあの寒い日。



泣いているように見えたと重なる。





「ね?景吾。」





俺は再び体を横にした。



を見つめるとが座っていたイスから立ち上がり



俺に近づく。



ギシッとなるベッド。



の片手が鳴らす。



もう片方の手が俺の額に触れた。





「・・・変な人。風邪ひいたことないなんて。」


「・・・・・つめてぇ女。」





心地いいくらい。





「景吾はもっと冷たい人だと思ってたのに」


「あ?」


「・・・体温の話よ。」





の手は冷たかった。



俺の額に心地よく染みていく



そんな冷たさ。



が俺に向けた笑みに



俺は顔を近づける。



の唇に唇を近づけ、だが触れない。



触れないぎりぎりの距離で話し始める。








































































































「早く俺のものになっちまえばいいのに」



























































































































































































驚いた表情を一瞬にして不敵な笑みに変えた






「景吾が負けてくれればいいじゃない。」





触れなかった唇は離れることさえない。



その距離でしばらく見詰め合う。



俺が瞼を伏せ、横になると



の手は俺の額に再び置かれた。



その体温に俺は眠りに落ちていく。



朦朧とする意識の中で



の顔を見ながら。



そして、はっきりとしない意識の中。





「・・・ねえ、景吾。」





聞き取ることのできないの声を聞いていた。





















































































































































































「あたしはちゃんと・・・・笑ってるつもりだよ?」










































End.