一晩中降り続いた雪は、コートを埋め尽くしてしまった。
「着替え終えた奴から時間一杯校外ランニングだ!!」
一面の銀世界。
寒さは体に染み付き、乾いた空気に通る俺の声。
「跡部ー!!またがいないー!!」
「あん?ジローさっさと走れ!!」
「はー?」
「・・・・さっさと走れって言ってんだろ?」
耳が痛くなるようなギャラリーの悲鳴は、コートが使えなくても変わらない。
ジローがギャラリーを見渡して、肩を落としながら走り出す。
雪を踏みしめる靴音。
「・・・・・・・・・バーカ。」
吐き出す息は、変わらず白い。
「・・・・もう、来ねえよ。」
『未完成な時計9』
思い出すことは、なぜこんなにもたやすいのか。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
校舎の中は、外と打って変わって暖房で暖められていた。
部活が終わっていつものようにHR。
授業が始まり、休み時間になれば生徒会室で生徒会長としての仕事をする。
今は、授業中。
別段意味もなく見ようとした窓の外は、
教室内と外との気温差で曇った窓ガラスで見えなかった。
・ ・・・見えなくてよかったのか。
本当は、見たかったのか。
終わりを告げに来た白い冬。
一晩中止まなかった雪は、今朝には止んでいた。
雪雲は去り、いつの間にかの青空。
「景吾」
ふいに、呼ばれた気がした。
がいつものように俺を呼んで、いつものように笑った気がした。
シャーペンを握る手に思わず力が入る。
(・・・もう、来ねえよ。)
もう来ない。
コートに練習を見に来ることも。
生徒会室に来て、俺の隣に座ることも。
俺の教室に来ることもない。
が俺のところに来ることはもうない。
ゲームは、終わったのだから。
「・・・・・・・・・・・・」
もう一度見る窓の外。
見たかったのか、見たくなかったのか。
それともただ、
ゲームの終わりを、確認したかったのか。
曇った窓からは、その白がぼんやりと見えるだけだった。
<キーンコーン・・・>
今日何度目のチャイムだろうか。
生徒会室に行くために、廊下に出る。
教室の暖まった空気で少し体に重たさを感じていた俺を、
廊下の少し冷えた空気が緩和してくれた。
・ ・・・思い出す。
初めて触れたの体温。
冷たかった。
あいつは、冷たくて、白くて。
「・・・・・・・あ。」
「・・・・・・・・・・・・・」
その声に、目が合った。
俺が歩く廊下の向こう側から歩いてくる姿。
すれ違う生徒が振り返っては確認しようとするその端整な顔つき。
「・・・・・・・おはよう、景吾。」
その笑顔は何一つ変わっていなかった。
いつも見ていたの笑み。
綺麗過ぎる作り物。
変わっていなかった。
「・・・・・・・・・・・ああ。」
変わっていないはずが、ないのに。
俺とは顔を合わせ、不敵な笑みを交わす。
そして、お互いにただ隣を通り過ぎていく。
ただ、通り過ぎていく。
「・・・・・・・・・・・」
振り返ることもせず。
歩みを止めることなく。
「景吾。」
「・・・・・・・・・・・・」
お前が。
が、いつものように俺を呼んだような気がするが。
そんなものは錯覚。
ただの錯覚。
(・・・・・もう、来ねえよ。)
もう、俺の隣をが歩くことはない。
妙なゲームを提案したものだ。
思いついたものだ。
負ける気など初めからないゲーム。
むしろ俺が勝つと決めていたゲーム。
それはゲームになるのか?勝負になるのか?
思い返すには、あまりに滑稽。
たどり着いた生徒会室。
ドアを開けると生徒会役員が書類の整理をしていた。
それは、俺も以前から進めていた仕事。
「・・・・お前ら。もういい。」
「え?でも跡部先輩だけじゃ大変ですし・・・。」
「いい。俺がやる。」
「えっ・・・でも・・・・」
俺が生徒会室に入ってきたことに気付いた生徒会役員。
後輩や同級生が混ざっていた。
俺に頭を下げる奴やあいさつをしようとして躊躇した姿を見ると、
俺はすぐさま声にした。
「俺が1人でやる。お前らはでてけ。」
反論は聴きたくはなかった。
させるつもりはなかった。
戸惑いを見せる生徒会室にいるメンツに、俺は何も言わせぬよう睨みつける。
もう一度、俺が声にする気もなかった。
・・・・俺の気が立っていることを感じてなのか。
いっせいに生徒会室から姿を消し始めた。
<バタンっ>
最後に出て行った奴がドアを閉める音。
それを聞いて、俺はいつもの俺が座るべきイスに腰掛ける。
目の前にある書類。
目にするだけで、なかなか手を延ばそうとしなかった。
(・・・・1人でやる、か。)
孤独なんて気取るなと、そう言ったのは誰だった?
思い出すことが、こんなにもたやすいのはなぜ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
の冷たい体温。
白い肌。長いまつげ。
俺を呼ぶ声。
俺を落とすための言葉。
の本当の言葉。
あわせた唇。
偽りの笑顔。
・ ・・さんざんバカにしておいて、本当はあの端整すぎる笑顔、
気にいっていたなんて言ったら。
またあの笑顔で笑うんだろうか。
今さらだと、笑うんだろうか。
「・・・・・・・・・笑うよな、お前は。」
言葉を交わしたいとか。
触れたいとか。
本当は。
お前がいなきゃダメだとか。
滑稽で、愚かで。
思わず自分でも笑ってしまう。
今更負けを認めても、終わってしまったゲーム。
「・・・なあ、。どうしたん?」
「・・・・忍足。・・・・どうしたって、何が?」
「さっき廊下で見てたで?跡部とお前いつもと様子ちゃうやん。」
まして、プライドなんてものがこばみ。
「・・・ゲームが、終わっちゃっただけ。」
「ゲーム?」
「・・・そう、ゲーム。」
「・・・・・お前ら、別れた言うんか?」
「・・・・・・・・そんな綺麗な言い方、できないよ。」
「・・・・・。」
「(あなたじゃなきゃダメなんて。)」
お前がいなきゃダメだとか。
「・・・・自信はあったのにな。」
自信はあったはずだった。
「好きになるつもりはなかったのに・・・・。」
好きになんて、なるつもりはなかった。
「・・・ゲーム、終わってしまったん?」
「え?」
「どんなゲームか知らんけどな、。」
「・・・忍足。」
今、何してる?
どこにいる?
誰と話してる?
「終わったなら、また始めてしまえばええやん。」
何をしていても。
どこにいても。
誰といても。
俺のこと考えてろよ。
愚かだと、笑ってくれるならそれもいい。
生徒会室の窓。
座っていた席から立ち上がり、
曇ったそれを絵の具の筆をベタっとおくように手を置き、拭きとる。
力なく下がった腕。
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
見えたのは真白な世界。
白銀の窓の外。
何度見ても溶けない雪は、確かな時を告げていた。
時間切れ。
・ ・・・ゲームオーバー。
ゲームの、終わり。
を想うこの時間さえ、雪の元では無意味に染まり。
巻き戻したい時を戻す術など、知っているはずもなかった。
巻き戻しても、繰り返すだけなのはわかっていたが。
それでも、もう一度に触れたかった。
あいつの冷たい体温に触れたかった。
(・・・・・。)
思い出すことは、なぜ容易い。
風邪をひいた俺の額に触れる。
近づいてもなかなか触れなかった唇。
の見せる笑顔。
その偽者の理由。
俺の手が包む頬。
伏せる瞼。
初めて触れた唇。
交わせなかった最後のキス。
俺の唇で溶けた雪。
を思い出すことはたやすいのに。
を想うことは、無意味だった。
生徒会室の壁にかけられていた時計を、俺は確認する。
そろそろ授業に向かわなくては。
未処理の書類。
それを片付ける。
最後に見る窓の外。
今更負けを認めても、終わってしまったゲーム。
まして。
プライドなんてバカバカしいものが拒み。
放課後の部活前。
最後の授業がもうすぐ終わる。
雪が降り積もったコート。
放課後はまた今朝のように校外を走る予定だ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
もう、は来ない。
ジローの今朝の声が、なぜか頭でよみがえる。
会っても、すれ違う。
そのうち、あいさつを交わすこともなくなるだろう。
<キーンコーン・・・・・・>
授業の終礼。教室は、教卓から教師が去れば、一気に騒がしさを増した。
俺は教科書をしまい、さっさと部活へ向かう用意をする。
今集中すべきことを考えろ。
きっと、すぐに思い出に変わる。
もともと慣れ始めていた苦手な感情。
孤独を気取るのもいいかもしれない。
忘れることなど。
きっと。
(・・・・・きっとたやすい。)
思い出すことよりも。
ふと、の笑顔が頭に浮かんだ。
<ピンポンパンポーン・・・・・>
『えー・・・男子硬式テニス部、全部員に連絡します。』
(・・・忍足・・・?)
突然の放送に、自分の席に座ったままだった俺の動きが止まる。
独特の関西なまりの丁寧語。
その無駄に低い声は間違いなく忍足。
『放課後はコートが雪で埋もれているため。急遽除雪作業を行うことに決まりました。』
「・・・・・・・・・・監督か?」
この決断は。
忍足が伝言役を買ったのだろうか。
除雪作業と言うことは部員全員で雪かきといったところだろうか。
・ ・・まぁ、正レギュラーは別メニューになるだろうが。
そんな俺の予想を、放送を続ける忍足は大きく裏切った。
『てなわけで準レギュラー、正レギュラー問わず部員は全員コートに集合。サボったらあかんで。』
「・・・・・あん?」
『第1回氷帝男子テニス部雪合戦をします。防寒備しっかりしてきいや。もちろん勝敗あり。景品あり。はりきれ。以上。』
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
・・・・・・・・聞いてねえよ。
放送が聞こえてきたスピーカーを見つめ、怪訝な顔をする俺。
この提案は、明らかに監督じゃない。
・・・・・・・・考えたくもないが忍足だ。
これだけ大々的な放送なら榊監督に了解をとっていないわけがない。
そうは思うが。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
進み始めた足。
行き先はもちろんコートだ。
あのアホ関西人、サボるなとまで付け加えた。
明らかに俺への挑戦状だ。
(くだらなかったら、即やめさせる。)
そんな決意を念頭に置いて。
「お前らぁ!!ニューヨークに行きたいかぁああぁ!!!!!!」
「「「「「「「「「「うをぉぉー!!!!!!!」」」」」」」」」」
「・・・・岳人。趣旨ちゃうで。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
コートに集まる200人を超す部員。
コートを囲むコンクリートを朝礼台代わりにし、
そこに集まるレギュラー陣。
向日がマイクを手に、まったく意味不明なことを叫んでいた。
なぜかは知らないが盛り上がっている様子の部員たち。
俺はコンクリートの階段一番上からその姿を確認し、すぐに帰ることを決めた。
俺が来たときにはすでにそろいに揃っている部員たち。
・・・何をあんなに盛り上がっているのか。
(バカバカしい。)
「・・・あー。岳人。マイク貸し。」
「ほい。」
忍足は、コートを後にしようとする俺に気付きやがった。
「勝負から逃げるような奴が氷帝テニス部におるやろか。・・・いるわけないなぁ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「まずはルールから説明しよか。」
「ちっ・・・・」
俺の背中を向けたコートから忍足の声を聞き。
忍足が俺に気付いていることに気付いた。
マイクを使ってエコーの響く忍足の声。
俺はコンクリートの階段を一歩一歩降り始めた。
徐々に近づく、レギュラー陣のいる場所。
「この雪合戦は正レギュラーVSお前ら200人の部員。」
「(・・・・・あ?)」
「俺たちレギュラーの投げる玉が当たった奴から失格。もちろん他の部員が投げた流れダメが当たっても失格。」
「・・・・・・・・・・」
「ただし、俺たちは人数が少ないからな。一人10球当たったら失格や。」
「・・・・・・・・・・・・・」
「俺らが守る。お前らが当てる。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・守る?」
俺は宍戸が立っているあたりまでコンクリートの階段を下りた。
宍戸は俺に振り向き。
やっと来たのかと笑ってつぶやいた。
気付けば、忍足が俺に振り向き、笑い。
そしてまた200人の部員たちに視線を戻す。
「(・・・なんだよ。)」
「さて、ここで景品の紹介や!!俺たちが守るもん。お前らが当てるもん。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「こいつに最初に雪あてた奴が、こいつと付き合えるで!!」
・ ・・・・・・・・・まさか。
俺からはジローが死角になっていて見えなかったジローの隣。
そこで静かに動いた人影が忍足の隣まで歩いて来た。
「っ・・・・・・・・」
「どうや?はりきれそうやない?」
「「「「「「「「「「うをぉー!!!!」」」」」」」」」」
忍足の声に200人の部員が一気に盛り上がる。
すれ違えば誰もが振り返る容姿。
が女子からも男子からも、後輩からも同級生からも
人気があり、モテているのは確かだった。
そのが勝者のものになる。
俺の位置からではの後姿しか見えない。
・・・なんで。
なんだよ、このふざけたゲームは。
「よく聞けや!!部員の誰にでもをものにするチャンスはある!!」
・・・・・・・なんで。
が、ここに。
こんなゲームに。
忍足が、一瞬だったが確かに俺に振り向いた。
俺はそれに気付いたが、ただ苛立つだけだった。
「ほないくで!!第1回氷帝男子テニス部雪合戦開始ー!!!」
(・・・・・・・なんだよ、これ。)
なんのゲームだよ。
飛び交う雪球。
200人の殺気。
だがさすがレギュラーというべきか。
を背中にかばいながら、うまく雪球を交わし、そして雪球を着実に部員に当てていく。
俺は立ち尽くし。
ただ、レギュラーに囲まれて見えないの姿を見る。
俺とのゲームの話は誰にもしていない。
まして、部員たちには付き合っていることになっていた。
が、忍足に話したとでも言うのだろうか。
ゲームのことか。それとも表面上だった恋人の関係が終わったことか。
なんだよ、このゲーム。
なんで、こんなことしてるんだよ。
の姿が見えない。
次々に失格になっていく平部員。
レギュラーのほうはまだ誰も失格になっていない。
俺はすっかり傍観者と化していた。
レギュラーに守られているの姿を探していた。
(・・・・・・・・・・触れたい。)
白熱する雪合戦のコート。
それでも息が白いほど寒い。
の手も頬も冷え切っているだろう。
・ ・・話がしたかった。
お前の名前を呼びたかった。
声が聞きたかった。
あの笑顔が見たかった。
(・・・・・・・・・・。)
聞いたら、笑うだろうか。
の姿を追う。
レギュラーに囲まれ、表情が見えない。
だがわかっていた。は俺のほうを見ていた。
ジローが雪球を10球受けたのか。
失格になり、を守っていた集団から抜けた拍子に、と目が合う。
は、笑っていた。
見たこともないような、綺麗な笑顔で。
「・・・・・・・・・・・・・・」
抱きしめたかった。
お前は聞いたら、笑うだろうか。
お前がいないとダメだとか。
「跡部!跡部!」
「・・・ジロー。」
「俺失格だC−!!跡部がんばんないと危ないよ!」
「・・・・・・・・・・・・」
ジローが俺のところまで駆けてきた。
雪まみれで、頬を赤くしながら。
笑い。
「に雪当てなくていいのー?」
「(!!)」
「よく聞けや!!部員の誰にでも
をものにするチャンスはある!!」
部員の、誰にでも。
ジローがへへっと笑い、視線を俺からたちに向ける。
・ ・・・なんだよ、このゲーム。
なんなんだよ。
なんだよ、俺たちがしてきたゲームは。
好きになるつもりなんかなかった。
好きにならない自信もあった。
・ ・・いつも心はあいまいで、不確かで。
ただ、いつの間にか傍にいて欲しかった。
愛してるとか、好きだとか、気取れず。
(・・・時間切れなんだ。)
もう、時間切れ。
ゲームは。
ゲームは・・・・・・。
行き交う雪球。
向日が失格になる。
(・・・・・ゲームは。)
「・・・・終わりになんか、できるかよ」
時間切れなどありはしない。
あいまいで、不確かで。
俺たちはいつだって
未完成な時計。
正確な時など刻めない。
突然駆け出した俺。
レギュラーの奴らに割って入る。
「跡部!遅いわ!」
「ふざけんなよてめぇ。手、つめてぇんだよ!!」
「・・・・・・・・・・・」
忍足と宍戸が俺に文句を言うが、それに俺は不敵に笑って返すだけ。
レギュラーはいまだ、平部員に雪球を当て続けていた。
200人いた部員達は半分ほどに減り。
が俺の目を見つめ。
俺はの頬に手をそえた。
「景吾・・・・」
「・・・・バーカ。変なゲーム考えやがって。」
「・・・そのままそっくり返してあげる。」
「ちょお跡部!!はよ雪当てろや!!」
・ ・・うるせぇよ。
ジローと向日以外のレギュラー陣に背中で守られ。
が静かに俺に微笑んだ。
俺もそれにつられて笑い。
「・・・やっとだな。」
「え?」
「やっと笑ったな。」
「・・景吾・・・・」
なあ、。覚えてるか?
俺の唇で溶けた雪を。
突然、今まで静かだったコート中が静かになる。
の頬を包み、は瞼を伏せ、
静かにそっと口付ける。
触れたかった冷たい体温。
なのに、妙に温かい。
おかしな矛盾。
が紡ぐ矛盾。
心地のいい矛盾。
なあ、。
(俺のこと、考えてろよ。)
「景吾・・・・」
「つめてぇな、相変わらず。」
「・・・・景吾は意外にあったかいよね。」
「あん?」
「・・・体温の話だよ。」
が笑えば、俺はもう一度口づける。
いつだったかの保健室で、交わした記憶のある会話。
・・・・お前は、笑うだろうか。
お前がいないとダメなんだどと、声にしたら。
「・・・お取り込み中悪いんやけどな、跡部。」
「あん?」
「誰がちゅう言うた?雪当てろ言うたやろが、こら。」
「あん?・・・当てたぜ?雪なら。なぁ?。」
「・・・・・・・・」
が周囲の視線に気付き、突然赤くなってうつむいた。
俺たちのゲームの終わりを告げた雪。
悪いが、変わってもらうぜ?
始まりの雪に。
終わりなんか告げさせない。
「。」
「えっ・・・・」
うつむくを抱き寄せる。
さきほどまで忍足が使っていたマイクを足元に見つけ、手にし。
「よく聞けてめぇら!!は俺のものだ!!手ぇ出してみろ?この学園にいられなくなると思え!」
呆然とするのはコート中。
あきれるのはレギュラー陣。
固まるのは。
俺が引き寄せたままに笑えば、は笑う。
そのまま俺の口をの耳元に。
愚かだと、笑ってくれるならそれもいい。
が笑うならそれもいい。
にしか聞こえないように、ささやく。
「俺を本気にさせたんだ。覚悟しとけよ?。」
‘お前がいないとダメらしいな、俺は’
最後にそう付け加え、
顔をあげればは驚く。
驚いて、次の瞬間には笑う。
静かに微笑み。嬉しそうに俺の名前を呼んだ。
呆然とするのはコート中。
あきれるのはレギュラー陣。
微笑みあうのは俺と。
あいまいで、不確かで。
俺たちの間に時間切れなんてありはしない。
あいまいで、不確かで。
俺たちはいつだって、正確なときなど刻めない、
未完成な時計。
End