「宍戸はもう書いた?」
「もう出した」
「早っ」
進路希望調査書。
この一枚の紙にあたしは困っていた。
『未来の話をしませんか』
屋上は暖かかった。
太陽と青空。
今日は、雲は二つの間に入れなかったみたい。
中等部三年になったばかりの春。
「は氷帝の高等部に進むんだろ?」
「宍戸もでしょ?」
「まあな。」
「進学希望先はね、書いたよ」
ばっちり。宍戸と同じ氷帝学園高等部って。
問題はその下にある項目。
‘将来の夢はなんですか。’
「宍戸は何て書いたの?将来の夢。」
「・・・言えるか。」
「どうせテニス関係でしょ?」
「・・・さあな」
屋上を囲むフェンスによりかかって
あたしと宍戸は並んで座っていた。
「漠然としてていいって担任に言われたろ?」
「・・・言われたよ。空欄はダメだとも言われたよ。」
漠然と。
漠然とって何。
漠然とした将来の夢?
「何かないのかよ。の興味があることとか。」
「・・・んー」
考えてみて、大人。
あたし達子どもが知ってる社会なんて
学校の中くらいじゃない?
漠然とでいいから将来の夢を書けなんて困るのが普通。
あたしだけかもしれないけど・・・。
「・・・あるにはあるよ、夢」
「じゃあそれ書けばいいだろ?」
「じゃあ書いちゃうよ?宍戸と結婚って。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・へ?・・・・・・・・・・」
あっ面白い。
宍戸の顔が赤くなってる。
「おまっ・・・バカじゃねえの?!」
「バカって言うなー。将来の夢でしょ?」
宍戸と結婚。
うん。
確かに将来の夢。
「・・・、他にねえのかよ。もっとマシな夢」
赤いままの宍戸の顔。
「宍戸と住む。宍戸に朝ご飯を作る。宍戸の子どもを生む。宍戸と子育て。宍戸と老後・・・」
「・・・お前なぁ」
指を一つずつ折りながらあげるあたしの将来の夢。
赤くなったままあきれないで欲しい。
‘将来の夢は何ですか。’
あたしの真面目な答えがこれ。
狭い学校の中。
あたしの知ってる小さな社会で見つけることのできる夢。
「だってずっと一緒にいたいとか思うじゃんか」
「・・・・・」
‘将来の夢はなんですか。’
彼と一緒にいることです。
ずっと一緒にいることです。
「でもさ、学校が聞きたいのってこういう夢じゃないと思うんだよ。」
「・・・だろうな。」
赤いままの宍戸の顔。
恥ずかしそうに、それでもあたしの話を聞いてくれるあたしの好きな人。
「・・・宍戸、書いてもいい?他に思いつかない。」
「・・・・・」
いつも前を見ている宍戸の目に
あたしは隅にいる程度しか映ってないかもしれない。
きっと進む道も違う。
でも、同じ道を歩けなくても
せめて一緒に歩こうよ。
同じ道を歩けなくても
あたしは、宍戸が進む道の隣に道を見つけるから。
そしたら、違う道をたどりながら二人で手を伸ばしてその手をつないで。
同じ道を歩めなくても一緒に歩こうよ。
ずっと、一緒に。
「・・・その夢書いたら呼び出されるかもな。も俺も。」
「あー・・・そうだね。」
「・・・・・・・・・・一緒に呼び出されてやるよ。」
「!!」
「書けばいいだろ?」
赤い顔の宍戸。
自分で言ったくせに。
‘将来の夢はなんですか。’
<宍戸と結婚すること。>
その日のうちに出したあたしの進路希望調査書。
担任は放課後にあたしを呼び出した。
もちろん宍戸も一緒に。
狭い学校の中で
知っている小さな社会の中で
あたしが見つけることの出来た夢は
あなたと一緒にいること。
end.