自分にとって唯一無二のものは、





もう、心が決めてた。
















『道端エチュード』
















「そんなとこにいないで中入って聞けばいいのに。」



「・・・うるせーよ。」






廊下で腕を組んで音楽室のドアによりかかっている俺に



お前が言った。






「ま、聞きにきてくれるだけうれしいけど。」






俺は、



この女が嫌いだ。



芯の強い瞳。



向けられる綺麗過ぎる笑顔。



全部見透かされてる気がして



負けているようで悔しい。












「・・・・」










けれど、










こいつの弾くピアノは


好きだった。








「・・・・・」








通り過ぎる無数の雑踏の中。



たった一つだけ。



気付けば、音は



俺の心の底に。



落ちて、沈んで、染みて。











「・・・なんかあったの?」



「・・・よく弾きながらしゃべれんな。」



「慣れ」



「そうかよ。」



「・・・・・」









落ちて、沈んで、染みて。









「宍戸が下を見なければ、道って見えてるものでしょう?」







自分にとって唯一無二のものは、



もう、心が決めてた。



だから、



分かっている。



自分の想いも、



やりたいことも。



テニスが好きだという気持ちも。







だけど。








「・・・誰も歩いたことのない道にいるんだよ。・・・草だらけでどこが道かわかんねえ。」



「じゃあ草取りしながら行けよ。道は自分で見つけろ。」










俺は、



この女が嫌いだ。












「お前はそうなのか?・・・ピアノ、弾き続けるんだろ?」












全部見透かされているようで



悔しいから。







「そうなの。毎日草取り。」







でも、



こいつのピアノは好きだから。












「いつでも聞きに来てよ。」











音は、



落ちて、沈んで、染みて。



俺の不安でさえも飲み込んで。



通り過ぎる無数の雑踏の中



見つけた。





(・・・心地いい)





コートに吹く風のような



そんな、





「俺は、お前のピアノが嫌いじゃないだけだ。」



「・・・もっと素直に言ってよ。でも・・・ありがと。」





ひどく切ない音に



魅かれた。








(ホントはお前のことも、嫌いじゃないのかもな。)










end.