ただだまされてほしかった。




詐欺師と呼ばれるあなた。























『泣きたくない』




















「・・・うまくいくかな?」


「やってみなきゃわかんねぇよ」





発案者はブン太だった。





仁王を騙してみたくね?





コート上のぺてん師なんて呼ばれてるあたしの彼氏。



あたしはブン太のその話にのった。



騙すと言うよりはブン太にとっては雅治をからかう計画。





〈ガチャッ〉





「おっ来た!」





ブン太があたしを思い切り引き寄せた。





(っ・・・近いよ!ブン太!!)





テニス部の部室にいれてもらって雅治と昼をとるのは私の日課



今はちょうど昼休みであたしもブン太も雅治より早く部室に先回り。



部室のドアを開けたのが雅治なら



あたしとブン太は今















キスしているように見えるはず。














あたしの顔近くにブン太の顔



恥ずかしくて目をつむる。



部室のドアに背を向けているあたしには



誰が部室のドアを開けたかわからない。






































「・・・お邪魔、じゃったか?」



「!(雅治だ・・・)」
















































































<ばたんっ>




「え?」


「あれ?どっか行ったな仁王。」


「雅治!」






部室のドアが閉まった音にあたしはすばやくブン太から離れて後ろを振り返った。



でも、



さっき聞こえてきた声の主はそこにはいない。



ブン太とあたしがキスしてるように見せかけて



それで雅治がどうでるかって、



そういう計画だった。






「・・・・やばい?、追いかけたほうが・・・・」


「っ・・・・雅治!」


「あっ!悪かった俺の悪ふざけのせいで!!」






ブン太の声に振り返ることもせず、



あたしは一度閉まった部室のドアを開けて雅治の後を追った。



違うよ、ブン太。



謝る必要ないよ。






(悪ふざけにのったのはあたしだもん。)





あたしは雅治をだましたかった。



あなたを試したかった。













「雅治!!」












体育館の方へと進んで行く後ろ姿は



間違いなく雅治。



あたしは走り寄ったけど雅治の足が止まることはない。



お願いだよ。



振り向いて。





「あのね、雅治っ・・・・」


「・・・・・・」





見えるのは雅治の後ろ姿。



体育館の裏に差し掛かると、



雅治があたしの声に足を止めた。






「・・・・何?。」


「あのっ・・・・あのね、雅治。」






お願いだよ。



振り向いて。



こっちを、向いて。



雅治がゆっくり振り返った。



あたしが見た雅治は口端を上げて笑って、












































































「別れよ、。」























































































































一瞬で空っぽにされたのは



頭か、心か。



一瞬であたしを空っぽにしたのは



その笑みか、その声か。





「まさはっ・・・・・」


「あんなもの見せられて付き合ってるほど俺は優しくなかよ?」


「・・や・・・だよ・・・・」





だまされてほしかった。



いつもあたしはだまされてばかりで。



その度に泣きそうになって。



誰かにヤキモチを焼くことも多くて。
















たまには、あたしにだまされて。













ヤキモチだって焼いて欲しい。



そんなつまらない感情で



ブン太の話にのったんだ。





「違うの雅治!ブン太とは何もなくてっ・・・ふざけて雅治をだまそうって言ってただけで・・・・」



「触れてたじゃろ?」



「キスしてるフリしてただけでしてないよ!!」



「・・・触れてたとよ。」



「っ・・・・雅治」





雅治があたしに近づく。



あたしのすぐ前までくると



雅治はあたしの目を見つめた。






































































































































































「丸井の手が、お前の手に触れてた。」



「・・・え?」




























































































































































(あっ)



キスをしたフリをするあたしとブン太。



ブン太は確かにあたしの手を握っていた。









たまには、だまされて。









ヤキモチだって焼いて欲しい。



だまされてくれないなら嘘でもいいよ。



だまされくれないならだまして。



そう、思ってた。






「そんな顔するくらいならあんなことするんじゃなか」


「雅治っ・・・・・」


はばらすのが少し早い。」


「まさか・・・・・」






あたしのあごを雅治が持ち上げて



雅治が顔を近づける。










































































































「俺を、誰だと思ってる?」
































































































































































(・・・やられた・・・・)




結局、あたしがだまされてばかりで。



別れようと言って雅治があたしをだましていたことがわかったからなのか。



あたしの目に涙がこみ上げてきた。



雅治の顔が近い。



不敵な笑みが悔しくて。

























(泣きたくない。)
























あたしばかりがだまされて。



あたしばかりが・・・。






「で?。俺は誰?」



「・・・・・詐欺師」



「残念。違うとよ。・・・俺は」







泣きたく、ない。





























































































































































「俺はの彼氏」



「!!」










































































































































とどめの、一撃。






「・・・・・泣くくらいならあんなことするんじゃなか」



「だってっ・・・・」



「でも、まあ・・・・」






泣き出したあたしに



雅治がキスをした。









































を泣かしていいのは俺だけだしな」










































悔しい。



なんでそんなにあたしに好きにさせるの。



なんでこんなにあなたが好きなの。



仁王はあたしの目元に何度もキスをし続けた。





「あの・・雅治・・・・っ・・・」


「ん?」





ちゅっと音を立ててされるキスが恥ずかしい。



雅治がわざとそうやってるのがわかる。





「あの・・・・恥ずかし・・・・」


「触れてたくせに」


「え?」


「嫉妬?って言うんかのう、こういうの」


「!!」





やまないキス。



泣きたくないと思ったのに



泣いた涙はあなたに吸い取られていって。



思い出せば結局あたしはだまされてて。






「・・・・詐欺師」



「くくっ・・・・・よくおわかりで」





こんなこと思うなんてきっと変に決まってる。



でも。



でもね。



ずっとあなたに







































































































だまされていたい。








































End.