流れ星が流れたら




流れ星が消えるまでに願いごとを3回唱える。




もしも3回、唱え終わることができたなら




流れ星が願いを叶えてくれるって






















『涙星』


















〈キーンコーン・・・〉




このチャイムは何のチャイムだろう。





・・・





確かさっき最後の授業が終わって





!」





終わって・・・?



ガバッと勢いよく起こした上体は



さっきまで机にうつぶせていた。





「ずっと寝てたの?」


「長太郎。・・・もしかして」


「部活終わったよ。帰ろう、





あたしの目の前には



優しく柔らかい笑顔を見せる長太郎が立っていた。



放課後。



クラスの教室でいつものように長太郎の部活が終わるのを待っていた。



この教室からはテニスコートが見えるから



いつもここからテニス部の練習を見てるあたし。



さっきのチャイムは部活の終わりを知らせていたものだった。





「あたし寝てた?」


「今日は授業中も寝てたね。」


「・・・・・バレてた?」


「俺はの後ろの席だしね」





こらあたし。赤くなってる場合じゃない。



女としてどうなの?



彼女としてどうなの?



授業中ずっと寝てましたって。





は寝顔かわいいよね」


「・・・・・長太郎」


「ん?」


「・・・・・なんでもない」





さらっと笑顔でそんなこと言わないで欲しい。



心臓が危うい。





「寝不足?」


「ん?誰が?」


だよ。大丈夫?」





教室をでて長太郎と並んで歩き始める



いきなりの話題は



長太郎があたしを心配してくれたものだった。





「・・・流れ星をね、一週間くらい前に見たの」


「流れ星を?」


「流れ星が流れたら、流れ星が消えるまでに願いごとを3回唱える。もしも3回、唱え終わることができたなら」


「流れ星が願いを叶えてくれるんだっけ」


「そう!それでね、最近毎日探してるんだけど」


「それで寝不足なんだ?」





長太郎がくすっと笑う。



優しくあたしに問い掛ける。





「・・・見つけてもすぐ消えちゃうんだもん。見つけられない日もあるし」


「そんなに見つからないものなんだ」


「うん。」





見つけたときには



飛び上がるくらいうれしいのに



願いごとを言い終える前に消えてしまう流れ星。






(・・・言い終わる前に)






昇降口で靴を履き替えると



先に靴を履き替えてあたしを待ってる長太郎が口元に手を当てて何か考え事をしているように見えた。





「・・・長太郎?」


「・・・。夜家から出てこれたりする?8:00くらいとか」





長太郎が歩きだしたからあたしも長太郎の隣を歩き出す。





「たぶん。大丈夫だけど?」


「じゃあ迎えに行くから8:00に家の前に出て来てくれない?」


「いいけど・・・何で?」


「もしかしたらいつもより流れ星を見つけやすいかもしれないよ?」





長太郎の笑顔と



優しい物言いに



あたしはそれ以上何も聞かなかった。



流れ星が流れたら



流れ星が消えるまでに願いごとを3回唱える。



もしも3回、唱え終わることができたなら



流れ星が願いを叶えてくれるって



叶えてくれるって。













































































































































































夜8:00





〈ガチャッ〉





。」


「長太郎。待っててくれたの?」


「行こうか、





あたしの問いに笑顔で返す長太郎



玄関を開けて外に出ると



あたしの家の前に立ってあたしを待っていてくれた長太郎がすぐに目に飛び込んで来た。



長太郎が差し出してくれた手にあたしは手を重ねる。



季節は夏。



夜の空気は蒸し暑い。





「長太郎どこに行くの?」


「まだ秘密」





(・・・あれ?)





手を引かれて歩き始めた道は



いつもの学校から一緒に辿る帰り道を逆に辿って。




(・・・・まさか)




まさか、だった。
















「ちょっ長太郎!まずくないの?」


「しー。静かに。」


「・・・・はい」













・・・・じゃなくて!!!



長太郎があたしを連れて来てたのは氷帝学園。





「あっここだ。」


「え?」





学校の裏門から入って



校舎のある所まで来ると



長太郎は一つ一つ近くの窓を調べ始める。





〈ガラっ〉





窓の一つが、開いた。





「嘘?!氷帝ってこんなに警備甘いの?」


「ここの校舎からだと鍵がないかぎり職員室のある棟にはいけないから」


「職員室に入られなければ大丈夫なの?」


「じゃないかな。・・・・よっと」


「長太郎?!」





長太郎が開いた窓から腕の力で校舎の中に入った。



校舎の中は覗いただけで暗い。





「・・・・長太郎?」


!ほら!!」





ほらって・・・・。



校舎の中から身を乗り出してあたしに手を差し出す長太郎。



いけないことだと、思うし



長太郎も分かってるはずなのに。



長太郎が名前を呼ぶから、



笑顔で手を差し出してくれるから。



あたしは長太郎の手をとった。





「きゃっ・・・・」




長太郎があたしの手を引っ張って



あたしの体を浮き上がらせたかと思うと



あたしはいつの間にか長太郎に抱きかかえられ



開けられた窓から



校舎の中へと入っていた。





「大丈夫、?」


「っ・・・大丈夫」





長太郎があたしを床におろす。



そこは廊下に面した窓だった。



本当は、大丈夫じゃない。



心臓が危うい。



恥ずかしくて長太郎から目を背けたけど



すぐに校舎中が暗いことに気付いて長太郎に引っ付いた。





。怖い?」


「怖くないって言ったら長太郎はあたしを尊敬すべきだと思う!!」





くすっと長太郎の笑い。



あたしの手をとると長太郎は歩き始めた。





「・・・長太郎どこ行くの?」


「星が見えるところだよ」



(・・・それって)





一つしかない。



季節は夏。



夜の空気は蒸し暑い。



校舎の中はなぜか冷たい感じがしたけど



それはあたしが抱いている恐怖心からだったんだろうか、



長太郎がドアノブを回して開いたドア。



そこを通り抜けると



さっきまで外にいた時と変わらない体感温度。





「ここなら、周りの高い建物に邪魔されて家から見る空よりも、ずっと広い星空だと思って」





あたし達が足を進めているのは



氷帝の屋上だった。



ただし、いつものように昼間の屋上ではなく、



夜の。





「・・・本当だ」


「見つかるかな?流れ星」


「長太郎も探してくれるの?」


「もちろん」





空は、真っ暗にはならない。



都心の光で



目を凝らさないと星は見えない。



長太郎の表情も真っ暗ではないのでぼんやりとわかるくらいだ。



流れ星だって、



ずっと空を見つめていないと見逃してしまうくらいの弱弱しい光。





「・・・前にテニス部の先輩と夜の学校に忍び込もうって話になって」


「跡部先輩とか、宍戸先輩とか?」


「・・・まあ。それで昼間のうちにあの窓の鍵を開けておけば学校に入れるって知ったんだ。」


「・・・それで、あの窓から入れたんだ」





・・・・って言うかいつ窓の鍵開けたの?



あたしは空を見上げていた。



長太郎はどうなんだろう。



流れ星を探しているのかな。





「・・・学校に忍び込むって悪いことだと思うけど」


「ん?」


の願い事、流れ星に言えたらいいと思ったんだ」





あたしは思わず空ではなく長太郎を見た。



長太郎はあたしを見てた。



流れ星、本当に願いが叶うなら





(叶えてほしい)





何度星が流れても



言いそびれる願い3回。





(叶えて欲しい)





「空、見てないと見逃しちゃう」


「・・・うん、そうだね」





合った目はあたしからそらした。



長太郎の笑顔が優しい。



この人はあたしの心臓をいつだって危うくさせる。



手を差し出してくれるのはいつだって長太郎から



優しさをもらうたびに



あたしは長太郎を好きになっていく。











だから、願った。










「あっ!」


長太郎とずっと一緒にいられますように





流れ星が流れた。



あたしが願い事を言えたのはたった一度。





「・・・?言えた?」


「・・・またダメだった!流れ星早すぎるよね!!」


?」





流れ星を見た瞬間、



小さい声で出来るだけ早く唱えた願いごと。



言いそびれたのは何度目?






叶わないのかな。






?どうしたの?」


「っ・・・なんでもないよ・・・・」


「なんでもなくないだろ?」






少しの暗闇。



お互いの表情はぼんやりと分かる程度。



でも、



長太郎にはわかったんだ。



あたしが泣いてしまっていること。



あたしの願い事は叶うことはないのかな。



流れ星がはやすぎて



3回唱え切れなくて、



流れ星が流れ終えてしまうたびに



叶うことのない願いだと思い知らされるよう。


















叶えてください。
















ほかに何も望まない。



唯一つを願うから。



叶えてください。





?どうしたの?」


「っ・・・流れ星がはやすぎるの!」


「え?」





長太郎があたしの肩に手を置いてあたしをなだめる。



あたしは半ば自暴自棄になって応えた。



きっと長太郎はあきれた顔をしてる。



あたしはわざと長太郎のほうを見なかった。





「・・・俺が一回唱えてが唱えて二回であとはどっちかががんばって二回分唱えるとか」


「え?」


「ずるいかな。そしたら3回以上唱えられると思うんだけど。」


「長太郎があたしの願いこと唱えるの?」


「やっぱりずるかな?」





空が、もう少しだけ明るければいいのに。



そしたら長太郎がどんな顔をしてそう言ってくれているのか



はっきり見えたのに。



あたしを泣き止ませようと



きっと必死なんだと思った。






の願いごと、聞いてもいい?」






優しさをもらうたびに



あたしは長太郎を好きになっていく。








































































































































































「長太郎とずっと一緒にいられますように」
























































































































































































































































































流れ星が流れたら



流れ星が消えるまでに願いごとを3回唱える。



もしも3回、唱え終わることができたなら



流れ星が願いを叶えてくれる。





「・・・・・


「・・・・・・・・」





恥ずかしさにうつむく。



あきれられたらどうしよう。



そんなことを星に頼みたかったのかって、



笑われたら



どうしよう







「・・・・その願いは流れ星にじゃなくて俺にすればいいよ」


「・・・え?」







叶えてください。



他には何も望まない。



ただ一つを願うから。



ずっと一緒にいたいんです。




















































































































「流れ星じゃなくて俺が叶えてあげる」

























































































涙がにじんだ目に星が映り、



涙と一緒に、



星が流れた。
















「っ・・・大好き、長太郎。」













引き寄せられて抱きしめられて。



星空の下で、キスをした。





。泣かないで。」


「・・・うん」


「これからも側にいるから」





離さないでと



離さないと



離れないと



キスを、した。



叶えてください。



他には何も望まない。



ただ一つを願うから。













あなたと一緒にいたいんです。











。好きだよ」










なんて綺麗な夜だろう



なんて綺麗な星だろう。



こんなことを思うのは、











































































































































あなたが側に、いるからだ。








































End.