「…おいっ。んなとこにいると無理やりつっこむぞ」





「…何を何にとかは聞かないであげる。」
































『溺れるが故に』



























俺の部屋のベッドの上でそいつは布団もかけずに寝ていた。






「ダメだろー仁。女の子に。ましてや彼女にそういうこと言っちゃ。」



「テメーが勝手に部屋に入って勝手に寝てっからだろが」






俺はベッド近くの床に腰を下ろす。






いつもならすぐにそいつから言葉が返ってくるばずだった。
















































「…なんだその面…」
















そいつは驚いた顔をしていて。






今にも泣きそうな目だった。














「だって、仁。彼女って部分は、否定しないんだ?」



「・・・・・」



「・・・うれしい。」















なんだその面。





なにがそんなにうれしいんだ、バカじゃねえの?



















「そういえば仁、伴爺にテニス部入らないかって言われてるんでしょ?」















仰向けだった体をうつぶせにして





顔をあげて話しかけてくるそいつは笑っていた。












「テメーに関係ねぇだろ」



「やりなよ、仁!テニスうまいんでしょ?」



「・・・・・」



「じーん!」












うるせえよ。





なんだその面。





今度は真剣な顔しやがって。








「・・・もう入ることになったんだよ」



「え?」



「遊びでな」



「本当?!」













なんだよその面。





何がそんなにうれしいんだよ





バカじゃねえの?














「仁、試合でるんだよね!楽しみ!!」



「・・・・・」




































すぐに変わる表情。





喜怒哀楽の分かりやすい奴。















何がそんなにうれしいんだよ





バカじゃねえのか。


























「・・・・・」



「ね、仁。練習見に行ってもいい?」

















































こいつがバカなら





俺も相当なバカだ。





















こんなすぐに表情が変わるような面倒くさい女のどこがいいんだか。




















「ね、仁!」



「・・・・・」







近付くベッドに





煙草じゃない甘い香り。
























呼んだ名前にこいつの肩が跳ね上がった。





また表情が変わったんだろうが





そんなものを確認する前に





こいつと唇を合わせていた。































煙草とは違う甘い香りをこの手にしたような





そんな錯覚だった。

























end.