「あ!お帰り裕太!!」



「?!」



「呼び捨てですか。裕太君も隅に置けないですね。」



「観月さん、どうしてここにが?!」



「寮の前で困っていたので僕が案内してあげたのですよ、裕太君」















『思ひ出ララバイ』














・ ・・・どこから説明したらいいのか。



何せ俺がこの状況を説明して欲しいくらいだから。



一時間前、ロードワークに出かけて戻ってきた俺。



とりあえずここは聖ルドルフの寮で、俺の部屋で同室の観月さんがいて、俺がいて。



そしてなぜか俺の目の前に



にこにこと笑うが座っていて。





「・・・・・・・・・なんでがここにいるんだよ」


「だって裕太が心配になったんだもん。周兄もおば様もみんな裕太のこと心配してるのよ」


「・・・観月さん。確かこの寮女性禁制ですよね。」


「君を探して困っている女性が、女性禁制の男子寮の前でうろうろしていることがどれほど危険かと判断したまでのことです。」


「・・・・・・・・・・・・・・・・」





寮の部屋の中心に置かれた足の短い小さな机。



その上に置かれた観月さんが淹れてくれたばかりの3つの紅茶のカップ。



それを目の前に座る俺と観月さん、それから



・・・・・・・・どんな光景だ?



確かに観月さんの言ってることは一理ある。



でもいくら俺を探してるを見つけたからって俺がいない間に部屋まで入れて。



いや、観月さんのことだからに丁寧に説明してちゃんとここまで案内してくれたんだろうけど。



でもだ。



見知らぬ人に案内されてやすやすとここまでついて来たってわけかよ。





「あの、観月さん・・・・でいいですか?」


「はい、なんですか?さん。」


「あの、私裕太と話したぃことがあって、その・・・・」


「・・・・ああ。いいですよ。僕もお邪魔でしたね。席を外します。」





(?!)





「ちょっ・・・・観月さん?!どこに行く気ですか?」


「木更津の部屋にでも行っていますよ。さん、ごゆっくり」


「ありがとうございます。」





観月さんはそう言って立ち上がるとこの部屋から出て行ってしまった。





「久しぶりだね。裕太!」


「え、ああ。」


「この学校どう?楽しい?」





観月さんがいなくなるとはさっきよりも楽しそうに笑い、



俺に話しかけてきた。





「って言うか、お前。なんでここにいるんだよ。」


「だから裕太が心配で!」


「そうじゃなくて、学校はどうしたよ。今の時間ここにいるってことは少なくとも最後まで授業でてないだろ?」


「きょっ今日は学校はお休みで!」


「嘘つけ」


「・・・・・・・・・・・・・」





聖ルドルフももさっき授業が終わって、部活が終わって。



いくら同じ都内でもがここにたどり着くまでには結構時間がかかる。



なのにこの時間にがここにいるってことは今日は青学を休んだか、さぼったか。





「・・・・・ごめんなさい。」


「・・・・・・・・・・・」





昔からそうだった。



幼馴染の



怒られて、謝るとき



必ず肩をすくめて下を向く。





「・・・・・クラスの奴らどうだ?なんか変わった?」


「あっ・・・・みんな相変わらず元気だよ!」


「ふーん。お前も相変わらずだな。」


「ねえ、裕太!青学にいた頃よりこっちのほうが楽しい?」


「・・・は?」





が唐突なのは昔から。



こうやっていきなり俺を訪ねてきたりとか。



唐突な質問をぶつけてきたの目はなぜか真剣で。





「・・・・・・・・・まあな。こっちのほうが楽しいかもな」





俺が青学から転校したのは兄貴の名前がついて回るのが嫌だったからだ。



それが聖ルドルフでは一切ない。





「・・・・・・・・・?」


「・・・・・・・・・あたしも転校しようかな。」


「・・・は?」


「だって裕太にはあたしがついてなきゃダメでしょ?また同じクラスになれるかな?」





が唐突なのは昔から。



昔から何を言い出すか分からないし、何をしでかすか分からないし。



はあまり考えて話さない。



思いつくがままを口にする。





「周兄も言ってたんだ。祐太にはがいなくちゃねって。」


「・・・・・・どっちがだよ。俺がお前についてないとダメなんだろ?」


「そうよ。私裕太がいなくちゃだめなんだもん。」


「・・・・・・・・・は?」





は俺の目の前で、真剣に俺を見つめ。





「・・・・・・・・こっちに来たら兄貴に会えなくなるだろ?」


「お休みの日に裕太と一緒に戻ればいいし。電話もメールもできるし。」


「・・・・・・・・・」


「周兄は1人でも大丈夫。でも裕太は心配。」


「・・・なんだ、それ。」





昔からは何をするにも突然で。



心配で、心配で。



昔からお前は兄貴が好きで、そう思ってた。



ただただ目が離せないばかりで。



ただただ、




















































































好きだと思ってしまうばかりに、



放って置けなくて。






























































































































「こらっ押すんじゃありません!」


「ちょっと野村!うわっ!!」


「だって見えない!」


「倒れるだーね!!」








<ばたんっ>








(!!)





勢いよく開いた俺の部屋のドア。



山積みに倒れてきた先輩達。





「・・・・・・・・・観月さん。」


「いや、君の幼馴染が訪ねてきてると言ったらみんなが見たいと言い出しましてね・・・・」


「そうだーね!覗きじゃないだーね!」


「柳沢。説得力0だよ。」


「つまりドアの隙間から覗いていたと。」


「裕太!覗きじゃないだーね!!」





呆然とする



山積みになって言い訳をする先輩達。





「・・・・・・・・・!」


「え?」




俺はの手を掴んで引っ張る。





「こら、裕太くん!僕達をこのままにするつもりですか!!」





は簡単に腰を上げ、そして俺たちは山積みに倒れている先輩達をよけ、この部屋から走り去る。





「裕太!観月さんがなんか言ってるよ!」


「聞こえないフリしとけ!」





走る。



走る。



誰にも見つからないように。



本当は誰にも見せたくないだから。



寮を出て学校の敷地内。



教会の前を通りすぎようとした。





「まって!まってよ、ゆうた!」





・・・・・・・あれ?





「もうちょっとだから、!」





なんだっけ。



なんだっけ、この風景。



繋いだ手。



足早に。



まだ同じ手の大きさの俺たち。



走って、走って。





「ゆうた!どこまでいくの?」


「もうちょっと!」






早く、早く。



幼い俺たち。



に見せたいものがあるんだ。



屋根の一番上で光る十字架。



真っ白な外観。



今まで見て知っていたどんなものより綺麗で。



見せたくて、見せたくて。



突如現れた宝石。



開いた宝箱。



だけに見せたくて。



だけに、見せたくて。
















































「裕太、大好き」

















































幼い頃のの姿と今のの姿が重なった。



聞こえてきたの声が、言葉が



あまりに俺を驚かせ、あまりに切なく、



あまりにうれしくて。



あの時もは俺に言ったんだ。





「ゆうた、だいすき。」





ちょうど今立ち止まる教会とはまた違う教会の前で。



に、見せたかった。



だけに。



・ ・・・・好きだ。



俺だって、が好きだ。



でも俺ははずっと兄貴のことが好きだと思っていたし、



昔くれたその言葉が幼馴染としての言葉だと思っていた。



それは、今も。





「・・・・・は兄貴と俺、どっちのほうが好きなんだよ」





あの時と違うのは、



俺の手がの手を隠してしまうくらいに大きくなったこと。





「・・・・・・・・・あたし、どっちも好きよ。周兄も裕太も。」


「・・・・・・・・・・・・・・」


「でも、青学じゃなくて聖ルドルフに転校したいの。青学には周兄がいても裕太がいないんだもん」





昔からは何をするにも突然で。



心配で、心配で。



昔からお前は兄貴が好きで、そう思ってた。



ただただ目が離せないばかりで。





「裕太が青学にいたときみたいに同じクラスがいいな。」


「・・・・・・おじさんにもおばさんにも許可得てないだろ?」


「・・・・うん。」





俺の手はの手を包んだまま。



は、俺がついてなくちゃダメだけど、





は青学にいろよ」


「でもっ・・・・」


「ちゃんと会いに行くから。」





休みの日には会いに行くし、



電話もメールもするし、



大丈夫。

































「俺もが好きだから。」






























ただただ、



昔も今もこの先も。





















































































































































好きだと思ってしまうばかりに、



放って置けなくて。









































































End.