朝に見かけた二人は







とても幸せそうに







笑っていた。





























『想いの彼方』

























(よかった…あの二人。)

















ちゃんとわかりあえたんだと



自分のことのように安心する



休み時間の中庭は誰もいない。







静かに静かに。







何も言うなと俺に言っているみたいだった。








「長太郎!」








静かに静かに。







さん。」


「やっぱりここにいた」


「俺を探していたんですか?」


「お礼が言いたかったの」







何の?



聞かなくてもわかります。







「うまく…いったんですね。宍戸さんと」


「…うん!ありがとね。長太郎のおかげ」


「宍戸さんがどこにいるか教えただけですよ」


「それがありがとうなの!」





笑う、あなた。
































静かに静かに。



あなたが幸せならそれでいい。




























「なんかお礼したいんだけど、ご要望は?」


「ははっいいですよ、そんな」





(笑いかけてください。俺だけに。)





「えー…あっじゃあさ。なんか作ってくるよ!食べたいものある?」


「宍戸さんに怒られちゃいますよ」


「亮も長太郎なら怒らないと思うけどなぁ」












静かに静かに。











「…ダメですよ、さん」





これは叶ってはならない想い。



声にだすことすら許されない



あの人を好きなあなたの



幸せを願うだけの想い。








「ねっ長太郎は好きな子とかいないの?」







いますよ。


(あなたです)






「…どうして、ですか?」


「あたしが何か協力できたらいいなぁって」






いますよ。


(あなたです)






「俺…いないんです。好きな人」




























声にだしてはならない。



優しいあなただから



幸せを願うなら



声に出してはならない。































「んーそっか。いないのか。」

































いますよ。


(あなたです)







声にすることすら許されないこの想いは



どこにいくのか。



俺の中に溜っていく。





















「やっぱりなにか作ってこよ」


「ダメです」


「だって長太郎にお礼がしたい」




















それなら一つだけ、聞いてくれますか。



本当のこと。



これだけ。
































「…いるんです。本当は」


「え?」


「好きな人」
















静かに静かに。















「でも、叶わない想いなので。ははっ…おかしいですよね。…それでも好きなんです」














笑って下さい。


愚かな恋だと笑い飛ばして。


そしたら俺は



















少しだけ救われる





































「おかしくなんかないよ」




















































あなたが幸せならそれでいい。


(嘘です。嘘。)















































幸せになるなら俺の隣にいて



俺の隣で幸せになって



滑稽なこの俺の愚かな願いを叶えられるのは



神様なんかじゃない。



あなただけ。





























だからこれは俺の精一杯の嘘。


あなたが幸せならそれでいい。













































静かに静かに。





























「長太郎?どうしたの?」


「いえ…おかしくないって言ってもらえてうれしかったんです」






俺は今どんな顔をしていた?



大丈夫、泣いてはいない。






「叶うといいね。その恋」


「…はい」














押し殺せ、噛み締めろ、傷つけ。


幸せを願うなら。




























静かに静かに。


























この想いを声にしないのは



それが俺のできる



あなたを幸せでいさせてあげられる唯一の方法だからだ。















































好きな人。



いますよ。



(あなたです。あの人のことが好きなあなたです。)



これは叶ってはならない想い。



(笑いかけてください。俺だけに)



あなたが幸せなら、それでいい。



(嘘です。嘘。)























































あなたが幸せならそれでよかった。

それだけでよかった。



























































これは大好きなあなたにつく



俺の精一杯の嘘。














end.