風が吹いて
花びらがさらわれる。
風が吹いて
葉が舞う。
それらが周りを取り巻いて
風が吹いて
あいつの髪をさらえば、
それは、とてつもなくあいつに似合う風景だった。
『ラブアフェア』
「宍戸。これもらった?」
「・・・招待状だろ?」
俺の頭上から突如現れた真っ白な封筒。
ひらひらと目の前で振られたそれを持つ、俺の後ろにいる正体は
振り向かなくても声でわかった。
「お前の家も金持ちだもんな、。招待されたんだろ?」
「宍戸の家はそうでもないって聞いてるけどね。」
「・・・ほっとけ。」
声の主は俺の前の席に移動し、座る。
「中身読んだ?」
「まあ」
「来るでしょ?パーティー」
「・・・・跡部に来いって言われてるからな」
「相手決まった?」
「・・・いや」
はさっきまで俺の目の前でひらひらと振っていた真っ白な封筒を
俺の机の上に置く。
その勝気な目は俺の目を真っ直ぐとらえる。
白い封筒は跡部から。
家でパーティーを開くから出席しろという、言わば招待状。
「あたしもなんだよね。どっかで女の子でもナンパすればいいのかな」
「・・・ああ。」
「おい、宍戸。今のところは突っ込もうよ。」
「ならそれもありなんじゃねえの?」
思わず笑いながら言えば
勝気な瞳が俺を睨んでいて
俺は一度咳払いすると視線を無意味に封筒に送った。
見つめる招待状。
別段、招待され、跡部の家に行くだけならいい。
うまいもの出されてそれを食べて、話しかけられれば、それに答えて。
それで過ぎ去って終わる時間。
ただ今回のパーティーは少いつもと趣向が違った。
「・・・宍戸。いろんな女子から声かけられたでしょ?」
「あ?」
「パーティーの同伴。」
そう、今回のパーティーは異性同伴。
それが参加条件だ。
俺はと目を合わせる。
なんとも整った顔が真正面から俺を捕らえる。
は、一言で言えば凛としたイメージ。
「まあな」
「・・・・ふーん」
「・・・なんでそこで遠い目するんだよ」
「よるな、色男。」
勝気で、
変な言い方だろうけど
その整った顔から
男前と言う名詞が似合うほど。
「・・・それはほめられたのか?」
「けなしたに決まってるでしょ?」
「・・・・・・・・・」
「あ。すねた」
「すねてねえよ!!」
その勝気な目で俺をからかう。
クラスは違うのに何かと廊下で会えばからかわれ
こうしてたまに俺の教室までやってきてはからかわれ。
その整った顔で笑う。
「あははっやっぱり宍戸はおもしろいよね。話してて楽しいよ」
「・・・・・・・・俺は楽しくねえ」
「ま、それは残念」
<キーンコーン・・・>
が予鈴のチャイムと同時に俺の前の席から立ち上がる。
俺の机に置かれた封筒を手にし、
教室の出口まで向かうとこっちに振り返った。
口元に封筒の端をあて。
「折角宍戸に誘ってもらおうと思って遊びにきたのに」
風が吹いて
花びらがさらわれる。
「またね、宍戸」
風が吹いて
葉が舞う。
それらが周りを取り巻いて
風が吹いて
あいつの髪をさらえば、
それは、とてつもなくあいつに似合う風景だった。
俺はのいなくなった教室のドアを見つめ。
(・・・今のはなんだ。)
は
その勝気な瞳で俺をからかう。
「・・・意味、わかんね」
そしていつも、
わけのわからない言葉を残して去っていく。
勝気。
男前。
整った顔の笑顔。
「宍戸さん!」
「おう。1人か?」
「はい!もしよかったら一緒してもいいですか?」
「かまわねえよ」
昼休み。
食堂で声をかけられる。
俺の手にはもう盆にのったランチがある。
声をかけてきた長太郎もそれは一緒だった。
なかなかの混雑を見せる食堂で座れそうな場所を探し、座った。
「そう言えば宍戸さん。もう相手見つけました?」
「・・・・・・お前までそれを聞くのかよ」
「俺どうしていいかわからなくて・・・」
「・・・・・お前なら声かければ一緒に行ってくれる奴なんてすぐ見つかるだろ?」
「かっ簡単に言わないでください!!」
長太郎が席について早々話題にしたのは
もちろん跡部に招待されたパーティーについて。
ちなみにテニス部レギュラーは全員招待されている。
長太郎は困った表情でランチに手をつけ始めた。
俺もそんな後輩に苦笑いしながらランチを口にする。
「・・・・あっ。そうか宍戸さんはもう相手いますよね。」
長太郎が思い出したように俺を見た。
俺はただ目を丸くさせ。
口いれたパスタを飲み込み忘れるほど。
「あの、えっと。・・・勝気な美人でかっこいい感じの。・・・・名前なんでしたっけ?」
「・・・・・・・・・(勝気な美人。かっこいい。)」
「廊下でよく一緒にいますよね!宍戸さんはパーティーに行く相手が決まっ・・・・・」
<シュンっ>
俺の手から手元にあったフォークが飛び、
長太郎の頬をかすめる。
「・・・え?・・・・え?・・・えぇ?!」
「・・・もしかしなくとものことか?長太郎。」
「あっそうです、先輩。・・・・あの宍戸さん、今フォーク。・・・えぇ?!」
「・・・あいつはただの友達だ。」
「そうなんですか?あの、宍戸さん。そんなことよりフォーク・・・フォーク今・・・・フォーク・・・・」
俺はランチを進める。
たとえ長太郎の後ろの壁にフォークが刺さっていようと。
たとえ長太郎がフォークと俺を交互に見ていても。
(・・・ただの友達だ)
何が悲しくて俺をからかう奴とパーティーに行くんだ。
勝気。
男前。
整った顔の笑顔。
‘折角宍戸に誘ってもらおうと思って遊びにきたのに’
いつも、
わけのわからない言葉を残して去っていく。
「ここ、空いてる?」
長太郎が小さく「あ。」と言った。
「あ。宍戸だ。」
「あの、空いてますよ」
「ごめん。他が空いてなくて。いい?宍戸」
「・・・座ればいいだろ?」
なんて、タイミングのいい。
食堂に現れた。
俺と長太郎はボックスになった4人席に座っていた。
見渡せば食堂の席はいっぱいになっていて
空いているのは俺の隣と長太郎の隣くらいだった。
「・・・1人で昼?」
「席を確保した結果、友達と離ればなれになるを得なかったんだよ、宍戸。」
「今ちょうど先輩のことを話していたんですよ!」
「あたしの?」
・ ・・・長太郎、余計なことを。
そう思った俺の隣には座った。
長太郎は笑顔でに話しかける。
はしばらく口元に手を当てて長太郎の顔をじーっと見て考えると突然思い出したように
目を少し大きくさせる。
「鳳くん!!・・・・であってる?」
「・・・思い出したんじゃねえのかよ。なんで疑問?」
「はい!鳳です!!」
「で?あたしの話?」
「はい。そしたらフォークが。」
「・・・フォーク?」
「長太郎。もうその話はいい。」
「なんで?気になるよ、宍戸。」
と長太郎は気が合うらしい。
フォークの話とさっきまでしていたの話はそれて
2人は楽しそうに話していた。
「さんて美人ですね。かっこいいというか・・・お・・・」
「何?鳳くん」
「その・・・・・」
「・・・男前?」
「・・・はい」
「よく言われる。」
俺は無言でランチを進め、
と長太郎の会話は自然と耳に入ってきた。
は整った顔でよく長太郎に笑いかけた。
「・・・お前らそろそろ予鈴なるぜ?」
「え?あっ・・・すみません。先輩あまりランチ口にしてませんよね」
「いいよ、大丈夫。宍戸より素直でかっこいい後輩と話せて楽しかったよ」
「・・・おい。」
「何、宍戸?嫉妬?」
「誰が嫉妬なんか。」
「・・・なんだ。」
は残っていたランチのパンをちぎった。
「妬いて欲しかったのに。」
がパンを口に運ぶ。
俺はの言葉に目を見開き、
長太郎もまた少し驚いた様子でを見て。
<キーンコーン・・・>
ちょうど鳴った予鈴には立ち上がった。
その勝気な瞳で俺と長太郎に笑いかける。
「席、座らせてくれてありがとう。」
「あのっ・・・先輩」
「ん?」
「俺も楽しかったです!!」
長太郎が思わずガタッと立ち上がり、
に勢いよく言った。
はもう一度口角をあげて長太郎に笑った。
「・・・・・・・・・・・・・・」
わけが、わからない。
その勝気な瞳で俺をからかう。
‘何、宍戸?嫉妬?’
俺をからかう。
そしていつも
‘妬いて欲しかったのに。’
わけのわからない言葉を残して、
去っていく。
俺にはあいつがわからない。
勝気。
男前。
整った顔の笑顔。
風が吹いて
花びらがさらわれる。
風が吹いて
葉が舞う。
それらが周りを取り巻いて
風が吹いて
あいつの髪をさらえば、
それは、とてつもなくあいつに似合う風景だった。
そんな綺麗な景色が似合うあいつ。
「鳳くんはパーティーに行く相手決まったって?」
「長太郎?」
「決まってないなら誘ってみよっかなぁ」
放課後、
部活に行く前。
バッグに教科書類をつめていると
が教室に入ってきて俺の前の席に座った。
俺の席に頬杖ついて俺を見る。
「誘えばいいだろ?俺に言わなくたって」
「いいの?宍戸。あたし相手決まりますよ?」
「・・・・別に。」
勝気な瞳が、
真正面から俺を捕らえる。
にっこりと笑った。
無言の俺。
続いた沈黙。
‘・・・勝気な美人でかっこいい感じの。・・・・名前なんでしたっけ?’
だろ。
そんなのしか当てはまらねえよ。
勝気で。
俺をからかってばかりで
整った顔で笑って、そうして去っていく。
「だから、妬いて欲しいんだってば。」
わけのわからない言葉を残して
去っていく。
なんなんだよ。
意味わかんねんよ。
それも俺をからかってるだけなのか?
「・・・・・宍戸。部活がんばってね」
が俺の前の席から立ちあがる。
俺と以外誰もいない放課後の教室の
出入り口に向かって歩いていく。
なんなんだよ。
意味わかんねんよ。
それも俺をからかってるだけなのか?
いつも意味がわからない。
勝気な瞳で俺をからかって。
でも。
でも、わけのわからない言葉を残して去っていくときだけは。
その時だけは、
ほんの少し、は寂しそうに笑う。
なんなんだよ。
「・・・あいつはただの友達だ。」
その言葉に違和感。
ならお前は俺のなんだ。
俺はお前の、
「・・・お前って俺をなんだと思ってる?」
なんなんだ。
消えてしまう前の後姿に
俺は声をかける。
は進めていた足を止め、
俺に振り向くこともなく。
しばらく、無言が続いた。
「・・・・・・・・・・・遊び、相手。」
「・・・え?」
「宍戸は、あたしの遊び相手。」
は俺に振り向かない。
・ ・・・・・何を、
何を、俺は期待していたのか。
自分の心臓の音がさっきよりも大きく鳴った気がする。
の背中が遠く、
俺との間にある距離が遠く感じる。
(わけ、わかんね)
何を、期待していたんだ。
「・・・・・・・あたしは宍戸と話すのが楽しい。」
「・・・・・・・・・・・・」
「あたしは宍戸と遊びたいんだよ。他の人じゃダメ。」
が、俺に振り向く。
俺にはの言葉の意味がわからない。
ただ、
その勝気な瞳が
いつも俺をからかう色に似ているようで
そうじゃなかった。
「宍戸にも鳳くんみたいにあたしと話してて楽しいって思って欲しかったのに。」
(・・・・・あ。)
「やっぱり宍戸はおもしろいよね。話してて楽しいよ」
「・・・・・・・・俺は楽しくねえ」
「ま、それは残念」
それは、残念。
もしかして。
もしかしなくとも。
は俺に似て素直ではないのかもしれない。
だから、
‘折角宍戸に誘ってもらおうと思って遊びにきたのに’
‘妬いて欲しかったのに。’
だから、
‘だから、妬いて欲しいんだってば。’
あれは、
もしかして。
もしかしなくとも。
あれは、
の勇気。
「・・・・わけがわからねえのは俺だけだったな」
「え?」
「楽しくねえとか、あんなの売り言葉に買い言葉だろ。」
楽しくねえとか。
実際、思ったこともない。
友達だと言い張ってもしっくりこなくて。
そんなの
そんなの
が俺のただの友達じゃ納得いかないからだ。
いつの間にかが、
が、好きになっていたからだ。
「・・・・・・・・・パーティー」
「宍戸・・・・」
「一緒に行こうぜ。」
「っ・・・・・・」
「・・・・・・ダメか?」
部活に遅刻の予感。5分前。
勝気なが泣き出しそうになる30秒前。
俺はに近づいて。
は俺の胸に頭をあずけて。
「ダメじゃない。」
の勇気。
今まで気付かなかった俺。
その勇気に
いつの間にかを好きになって。
自分が素直じゃないなんてわかってる。
だからこれは俺にとっては大事件。
部活に遅れる予感3分前。
俺がに好きと告げる10秒前。
俺の心臓の音がこの上なく大きいのは、きっと俺の胸によりかかるに届いてる。
(・・・ばれてる。)
絶対ばれてる。
俺の緊張。
俺の大事件。
いっそこのまま
こんなふうに俺の心音がばれるなら
いっそ、このまま。
抱きしめて、しまおうか。
End.