あたしはきっと
空の上を歩いている。
『翼の生える位置8』
風が頬をなでて私を起こした。
見渡すここは屋上。
(あたし・・・)
丸まるように倒れていた体の上半身を起こす。
体がギシギシと音をたてる
痛みは感じない。
放課後に声をかけてきた4人組の女の子に連れて行かれた屋上。
最初に確か頭を叩かれて
押されて転ばされて
その後体中を蹴られて。
(あたし気絶してた?)
最近は日が沈むのが早くなったから
空はきっと夕方の色をしているんだろう。
でもあたしにはそれが青にしか見えない。
起き上がり立ち上がる。
フェンスの下を覗けば
テニス部が練習しているのが見えた。
(今何時だろう。)
帰らなければならない。
別に誰とも帰る約束はしていない。
精市達テニス部はいつも遅くまで練習していて
その練習の終わりまで待っていることは
精市があまりいい顔をしない。
(帰らなきゃ)
きしむ体をひきずるように歩く。
あの女の子達はあたしを殴るのがうまい。
顔や制服に隠れず見える体の部分は殴らないようにしてる。
それはあたしにとっても都合がいいこと。
(早く帰らないと)
今が何時かわからない。
もしかしたらテニス部の部活が終わって
精市達と鉢合わせてしまうかもしれない。
一目見てわかるようなところは殴られていない。
体に痛みは感じない。
けれど実際は体中がきしむ。
引きずるようにしか歩けない。
帰らないと。
これは知られたくないこと。
「目障りなんだよ」
「幸村くんと幼馴染みだかなんだか知らないけど調子のんな」
「お前なんかいなくても誰も困らねえんだよ」
殴られながら聞こえてきた罵声。
そうだよ。
あたしなんかいなくても誰もかまうわけがない。
学校になんか来なくてもいい。
家になんか帰らなくていい。
あたしの居場所はどこにもない。
保健室のベッドの枕に顔をうずめて
外から聞こえてくる音を聞かないようにしていた。
保健室の窓から見えたのはいつだって青空だけ。
屋上にのぼって校舎の中ではしゃぐ生徒を見ないようにしていた。
屋上から見えたのはいつだって青空だけ。
青なんか大っ嫌いだ。
いつもあたしに絶望しかくれない。
あたしの居場所なんてどこにもない。
空の青があたしに教える。
お前、いらないんだよ。
泣いて叫んでいいほどあたしは弱くない。
泣いて叫んでいいほどあたしは強くない。
青があたしを囲む。
青があたしを覆う。
吸い込まれそうになる
押し潰されそうになる
焦がれそうになる。
貫かれそうになる。
「あ・・・かや・・・」
怖い。
怖い。
知ってるよ。
知っていたよ。
あたしの居場所がどこにもないこと。
もう一度フェンスの下を覗いた。
練習を続けているテニス部。
「・・・赤也・・・」
初めて青を隠してくれた人。
あたしを覆う真っ白なタオル。
きっと赤也にとってはなんでもないことだった。
それでも学校に来ようと思うのは
赤也に会えるから。
今の空は夕方の色なんだと思う。
でもあたしには青にしか見えなかった。
帰らないと。
誰もいない家へ。
青に背中を刺されながら。
あたしは弱くないし強くない。
青に怯えながら泣くことなんて許されない。
見上げた空が教える。
あたしの居場所はどこを探しても見つからない。
end. この作品が気に入っていただけましたらココをクリックして下さい。