「そうか、雨に・・・。」
幸村部長がつぶやく。
怒られること覚悟でを雨の中で待たせたことを幸村部長に話した。
風の強い今日。
が学校に来ていなかった。
『翼の生える位置7』
保健室に行った。
屋上に行った。
両方に何度も足を運んだ。
は学校のどこにもいなかった。
のクラスの教室にも行ったけど
やっぱり登校していないようだった。
「風邪、ひいたのかも知れないね。せっかく最近はずっと学校に来ていたのに・・・」
「・・・・」
休み時間。
俺と同じでが学校に来ていないか探していたらしい幸村部長が
俺を訪ねてクラスまできていた。
「・・・俺のせい・・・っすよね」
確かにを紹介されたあの日から
は毎日学校に来ていた。
は不登校だと聞いていたのに。
「いや。・・・ありがとう赤也。に付き合ってくれて」
「礼なんて言われても困るっす。」
どうせなら叱って欲しかった。
が風邪をひいて学校に来られなかったんだとしたら、俺のせい。
本当は学校に来ているのかはにメールしても確認できた。
でも
この目で確かめたい。
学校に来ているなら
自分の目で見つけたい。
だからあえてにメールはしなかった。
それは幸村部長も同じだったのかもしれない。
「俺がいきなり映画に行けなくなったのが悪かったんだよ」
「・・・幸村部長とって付き合ってるわけじゃないっすよね?」
突然浮かんだ疑問。
はきっと幸村部長のことが好きだ。
幸村部長だってのことを大切に思っていると思う。
俺は幸村部長から幼馴染みだって言われてを紹介されたけど・・・
「気になるかい?赤也。」
「・・・・」
くすっとおれに笑いかけてきた幸村部長
気にならないって言えば嘘になる。
「・・・別に。」
仁王先輩といい幸村部長といいいじわるな聞き方しかしてくれない。
「俺達は幼馴染みだよ。は妹みたいなものだ。」
そう言った幸村部長の顔は優しかった。
次の授業の予鈴がなる。
「赤也」
「はい?」
「君とを会わせてよかった。」
「へ?」
予想もしていなかった言葉に
俺はまぬけな返事しかできなかった。
幸村部長が何を言いたいのか聞く前に
幸村部長は自分のクラスの教室に戻っていってしまった。
(会わせて、よかった?)
幸村部長はどうしてそう思ったのか。
俺はに何もしてあげていない。
授業は数学だった。
教師は黒板に向かって方程式の証明をしている。
どうせ証明するなら幸村部長が俺とを会わせてよかったって思ったことについてして欲しい。
机に肘をついて顔を支えてぼんやりと見た窓の外の木は
吹いていた強い風に吹かれて大きくゆれていた。
葉っぱが舞う。
ぼんやりと目に映すその木の枝の間から
いつも昼休みに集まる屋上が見えた。
屋上がある棟と俺の教室がある棟は違うから俺の教室からは屋上が見える。
ゆれる枝。
(・・・え?)
ゆれる枝。
その間から見える屋上。
屋上で色素の薄い茶髪がなびいていた。
「先生!!俺お腹痛いんで保健室行ってきます!!!!」
授業中に勢いよく立ち上がった俺。
黒板の証明は終わっていた。
「お前全然痛そうに見えない。」
「痛いから!!ものすごく痛いです先生!!!」
俺の嘘は当然のように教壇に立つ教師見抜かれたけど
そんなこと知るか。
俺は最後に“保健室行って来まーす!”って叫びながらダッシュで教室をでて行った。
向かうのは保健室。
んなわけあるか。
腹なんか痛くないし。
「!!」
風の強い屋上。
色素の薄い茶色い髪が教室から見えていたのと変わらずになびく。
「・・・赤也?授業は?」
驚いた表情の。
驚いてるのは俺のほうだっての。
「、風邪は?」
「え?何?」
吹き続ける風が声が届くのを邪魔する
屋上の真ん中に立っている。
俺は屋上の入口からに近付いていった。
「具合大丈夫なのかよ?」
「授業抜けてきたの?精市に怒られるよ?」
風が会話の邪魔をする。
とぎれとぎれにの声が聞こえた。
もう少し近付かないと話ができない。
「風強いね」
一歩一歩に近付く。
風がの髪も俺の髪もさらう
「・・・熱少しだけあったんだ。」
だいぶ近付いたの言葉はいまだにとぎれとぎれにしか聞こえない。
強い風が吹く。
「・・・」
と俺の間は1mくらいだ。
一瞬風が止まった気がした。
「赤也にね。会いたいと思ったから学校に来たの。」
「え?」
再び風が吹く。
強い強い風。
「聞こえてなかったら別にいい。」
聞こえてる。
今のの言葉も
俺に会いに来たって言葉も
赤くなってはうつむいていた。
「なっ中はいろうぜ!」
風に負けないように声をだした。
届いたらしい俺の声にがうなずいた。
と横に並ぶようにして
屋上を後にする。
初めて名前を呼ばれた日のように
今日は暑いわけじゃない。
だから、俺は顔の温度が上がったと思った理由を
天気のせいになんかできなかった。
「幸村部長が学校来てるか探してたぞ?」
「ちゃんと後で会いに行くよ。」
校舎の中に入ったと俺。
が俺の顔を見ようとしなかったことが救いだ。
、多分お前と一緒で俺も今顔が赤い。
「さん、ちょっといい?」
放課後廊下を一人で歩いていて声をかけられた。
「今日は学校来てないと思ったら来ちゃったんだね」
「・・・ね、屋上行こうよ。屋上の扉の開け方知ってるんでしょ?」
馬鹿にするように笑う四人組の女の子。
くすくすと笑うその声と口元をわざと隠すようにしてひそひそとこちらを見て話すしぐさが
とても不快だった。
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