その日の放課後は
日差しが強くて
暑さも半端じゃなくて
でもそれで部活が中止なんて
そんな訳ない。
『翼の生える位置2』
(あっちぃ…)
夏は過ぎた。
立海テニス部は全国大会で優勝して
そのレギュラーには二年の幸村先輩も真田先輩も柳先輩もいて。
優勝なんて当然だろって
俺が思っている間に夏は過ぎていった。
「そんなとこにいて暑くねえのかよ。不登校児。」
「わかめだ。」
コートを囲むフェンスに一人でぽつんとが立っていた。
いつもならうるさいくらいの歓声をあげる女子達が
さすがに今日の強過ぎる日差しと気温に参ったのか
テニスコートをかこむフェンスからいつもより離れて近くの木陰に入ってテニス部の練習を見ている。
「お前も避難しろよ。そんなとこにいたら倒れるぞ?」
「ここが一番近いもん」
そりゃコートは近い。
どうせ幸村先輩見に来たんだろうけど
昼休みもひっついて離れようとしなかったし
幼馴染みとか聞くし
「わかめ、練習戻らなくていいの?」
「…腹立つな、不登校児。」
俺がのことをそう呼ぶのは
わかめと呼び続けるこいつに対する抵抗だ。
「・・・・・」
フェンスから遠ざかろうとしないにそれ以上何も言えなくて
みんなが練習するコートの中心へと俺は戻った。
日差しは夏を思い出させる。
暑い暑い今日の部活。
「おい、不登校児。」
フェンスの上を超えて
空を横切った白は
雲じゃなくてタオル。
俺はまたのいるフェンスまでそれを持ってきて
に向かってフェンスを超えるように投げたんだ。
は見事にタオルをキャッチした。
「せめてそれくらいかぶってろ。」
「…いいの?」
「言っとくけど新品なうえにまだ俺使ってないやつだからな、それ。」
は色素が薄い。
茶色い髪もそうだけど
肌の色とか全体的に色素が薄いし、その上妙に細い。
だからか。
本当に
今日のようなこんなに強い日差しの下にいると
倒れるんじゃないかと
本気で心配になる。
「・・・・・」
はしばらく受け取ったタオルを見ていた。
「汚くねぇからな」
「・・・うん、ありがと」
意外な言葉に驚く。
は素直にありがとうが言える奴だった。
フェンスごしのやりとり。
「・・・ちゃんとかぶれよ」
そう言ってまた俺がコートの中心に戻ろうとした時。
「赤也・・・でいい?」
歩先はと逆を向いていたけど聞こえた言葉に振り返った。
「精市もそう呼んでるし、赤也って呼んでいい?」
「…幸村先輩は関係ねえだろ?」
は胸元に両手でタオルを握り締めていた。
「・・・じゃあ俺もって呼ぶからな」
「え?」
「幸村先輩だけじゃなくてブン太さんもって呼んでたし、先輩達みんなそう呼んでるんだろ?」
俺の意外な発言には驚いた顔をしていた。
強い日差しの下で
タオルを握り締めて。
「・・・うん!でいいよ!」
強い日差しの下で
タオルを握り締めて
はうれしそうに笑ってそう言った。
初めて見た笑顔だった。
昼休みの初対面には一度も笑っていなかったから。
「赤也ー!!」
コートの中心でブン太さんが俺を呼ぶ。
「あっじゃあな。倒れんなよ」
「がんばってね、赤也!」
走ってコートの中心へ向かう俺の背中から聞こえた声。
わかめから昇進して呼ばれた名前は少しくすぐったかった。
振り返らずに手をあげて応える。
思い出したのはうれしそうに笑ったの顔。
(あんな顔もするんだよな。)
頭がいいとか、不登校だとかそれ以外今まで知ることもなかったのこと。
少しわかった気がしてそれが妙にうれしかった。
(・・・俺、変。)
顔が熱を持った気がするのは
きっと今日が暑いせいだ。
と、必死で自分に言い聞かせた。
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