泣いてばかりいた、小さい頃。
あたしはひとりぼっち。
捨てられた。
捨てられた。
捨てられた。
あたしは、ひとりぼっち。
ある日突然泣かなくなったあたし。
泣く必要はない。
泣いてもあたしは、ひとりぼっち。
『翼の生える位置21』
本日晴天なり。
屋上は冷たいが気持ちのいい風。
あたしは目を閉じて風にそよがれる。
放課後、一緒に精市に会いに行こうと言う赤也が、部活を終えるのを待っていた。
屋上から見えるテニス部のコート。
そよぐ風に身を任せ、それを見ていた。
青空の下。
こんなに澄んだ気持ちはいつぶりだろうか。
(あれ?赤也は?)
見渡すコートに赤也の姿が見えなかった。
<ガチャッ>
「うわっマジだよ」
「本当に学校に来ちゃってたんだ」
「サーン。実は頭悪いんでしょ」
「えっ1学年の主席なのにー?」
この屋上の扉は開きにくい。
あけるにはコツが必要で、それをこの人たちに教えてしまったのはあたし。
いつからか、あたしを殴るようになった四人組の女子。
あたしが登校してきた時点でいつか来るだろうとわかっていたけど
今日中に来るなんて。
「・・・・・・・」
「うわっ睨んでるよ。」
「いい加減にしろよ。幸村君と幼馴染かなんか知らねえけど仁王君たちとひっつきすぎ」
「うざいんだよねー。あのテニス部レギュラーがあんたなんか相手にする訳ないじゃん」
「調子のってんじゃねえよ。消えろ。」
あたしと彼女たちの距離は彼女たちが歩みを止めないことで着実に縮まっていった。
「・・・あなた達は精市が好きなの?仁王先輩達が好きなの?」
「は?何?幸村君呼び捨て?」
「おとなしく殴られてろよ。学校来んな。うぜえんだよ」
今まではただ殴られてばかりだったあたし。
口答えをする訳でもなく。
反抗するわけでもなく。
でも、もうそれはダメ。
「精市も、仁王先輩もブン太先輩も柳生先輩も柳先輩も、真田先輩もジャッカル先輩も・・・・・赤也も。あなた達みたいな人は好きにならないよ」
「は?」
泣かないでいるには
あまりにあたしは幸せすぎる。
「あたしは、ここからいなくならない。」
暗闇の中にいるには、あまりに周りがまぶしすぎる。
あたしはひとりぼっち。
みんなが手を繋いでくれてるひとりぼっち。
幸せなひとりぼっち。
「マジ顔わかんなくなるくらい殴ってあげるよ」
「えーそれやばいんじゃないのー?」
「でも、むかつくし。」
本日は晴天なり。
青空の下。
こんなに澄んだ気持ちはいつぶりだろうか。
あたしは彼女たちを見据えた。
ねえ、青空。
あたしはひとりぼっちだね。
あの日、両親にいらないと言われた日から。
でもね、大切だと思うもの、見つけてしまったよ。
側にいたいと思う人、見つけてしまったよ。
信じろと言ってくれる人、見つけてしまったよ。
「マジ死ね。」
あたしに向かって振り上げられた一人の女子の手。
あたしは固く目を閉じた。
泣かずにはいられなかった。
ねえ、青空。
あたしはひとりぼっち。
ここにいたいと願うひとりぼっち。
だから今度は、
絶望じゃなくて強さをちょうだい。
<パシンっ!!>
「「「「!!!!!」」」」
「・・・・・?」
目を閉じて耐えるべき衝撃を待っていたあたし。
そのうちやってくるだろうと予見していた顔への衝撃がない。
「・・・・・・・・え・・・・?」
「痛って・・・・・」
開いた瞼。目に映るのは彼女たちではなく。
「赤也?!」
「うわー女って結構力強いのな」
「きっ切原君・・・」
「・・・・どうして」
テニス部ジャージ姿の赤也の背中で見えないけれど
あたしを叩こうとした女の子達の驚いている声が聞こえる。
あたしに振り上げられた手
受けたのはあたしの顔ではなく、赤也の顔だった。
「どうしてだって?」
赤也の低い声。
あたしは赤也の横へ足を踏みだした。
赤也の左頬が赤く染まっている。
「赤也!大丈夫?!」
「は?」
「あたしは・・・・だって赤也が代わりに・・・・っ」
「が平気なら俺も平気。」
「赤也っ・・・・」
赤也は一度あたしに笑うと、四人組の女子へと顔を向けた。
怯えきった表情の彼女たち
一箇所へ固まり、顔は青ざめている。
「お前らさ、自分がなにしたかわかってんの?」
「あっあたし達は・・・・」
「あたし達は、何だよ?」
「・・・・・・・」
赤也が彼女たちに向かって歩き始めた。
どんどん後退する四人組。
ついに屋上を囲むフェンスに追いつめられる。
赤也が、右手をこぶしにして振り上げた。
「ダメ!!赤也!!!!」
<カシャンっ!!!!>
赤也が振り下ろしたこぶしは
一人の女子の顔面の横を通り過ぎ、
フェンスへと下ろされた。
「次に手だしてみろ。俺があんたらを潰す」
「赤也だけじゃないよ」
「え・・・・・」
彼女たちはペタンっとその場に座り込んだ。
屋上に姿を見せたのは・・・・
「どうして・・・・・」
「。」
テニス部のレギュラーの先輩達を引き連れて
屋上へ姿を現したその人は
聞きなれた優しい声で
あたしの名前を呼んだ。
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