思い出しては嘆く
俺は、無力だ。
君のことを考えてはつぶやく
ごめん、と。
『翼の生える位置22』
見渡す、ここは屋上。
「精市・・・」
「久しぶりだね、」
「っ・・・・病院は?」
「抜け出して来た」
風が吹く。
屋上に吹いたそれは
ここにいる誰もの髪をさらった。
俺も俺の後ろにいるテニス部レギュラー達も
少し離れたところで俺を見ている赤也も
赤也の足下で座り込んでいる4人組の女子達も
そして、も。
風に吹かれる。
俺は歩を進めた。
俺がここにいることに驚くを通りすぎ
一人真っ直ぐ歩いた。
赤也の側までくると足を止めしゃがむ。
片膝を屋上の床につけ、片膝をおりまげて。
赤也の足下に座り込んでいる
4人の彼女達と目線を合わせる為に。
「・・・ねぇ」
「っ・・・・」
目の前の彼女達は
俺と目を合わせると息を飲んだ。
「これ以上に傷を増やしてごらん?俺が君達をこの世界から消してあげる」
・・・馬鹿でないならわかるだろう?
俺の笑みの意味がわかるだろう?
「赤也」
「はい?」
「もういい。」
そう言って俺は立ち上がる。
再び進めた歩に今度は赤也が後ろからついて来る
「」
途中呆然と立ち尽くすを促して
そのまま俺たちを待っているかのように立ち並ぶレギュラー陣の元へ。
開けた校舎内へ続く屋上のドア。
俺を先頭に次々と階段を降りて行く。
「?」
階段の踊り場まで来たところでが俺たちの後についてきていないことに気付いて
俺はもう一度階段を上りなおした。
「。・・・・行こう。」
「うっうん・・・・」
まだ屋上に出ていてドア付近にいたは彼女たちを見ている。
俺はドアを開けたまま、が俺より先に階段を下りるのを待った。
が校舎内に入ったのを見届けると俺もそれに続く。
・ ・・・・屋上に取り残した4人組の女子たちは青ざめた顔で放心して
ずっと座ったまま動かずにいた。いや、動けなかったが正しいのか。
屋上から部室へ場所を移した俺たち。
途中俺に気付いたテニス部部員が驚いていたがそのまま練習を続けるように言うと
テニスコートはいつも通りに戻った。
部室に入ると俺はを近くのイスに座らせた。
他のレギュラー陣はロッカーや壁に寄りかかったり、イスに座ったりする。
俺もまた空いてるイスに座った。
「・・・・・・・・・」
「・・・仁王から、いろいろ聞いたよ。。」
本題にさっそく入ろうとする俺。
の肩は俺の声に反応する。
「・・・先輩達はどうして屋上に?」
「しょうがねえだろぃ・・・。仁王と幸村の電話の会話が聞こえてきちまったんだから。気になったんだよ」
赤也の問いに丸井が返す。
うなずくのは俺と仁王、と赤也以外の部室にいるもの全員だった。
みんなの両親のことを知らない顔ぶればかり。
それでも、が大切だったから。
仁王と待ち合わせした場所には赤也以外のレギュラー面子。
部活中赤也がいなくなったことに気付いた仁王がもしかしたらと俺を呼んだ。
「、どうして今まで言わなかった?」
俺はの少しだけ赤い左頬に触れた。
・ ・・・・似合わない。
にこんな赤、似合わない。
「俺は・・・結局いつもに寂しさしかあげれなかったのか?」
「っ・・・・・・・」
が首を横に振る。
泣きそうになりながら俺の問いかけを否定しようとする。
「違うっ・・・精市にあたし嫌われたくなかっただけっ・・・」
「嫌う?どうして?」
「・・・今までもたくさん迷惑・・・かけたから・・・あきれられたらどうしようって・・・・・嫌われたらっ・・・どうしよ・・・・って・・」
俺の手には涙が落ちる。
の頬に添えた手の上。
の涙が落ちてくる。
「・・・・・・・こんなに、近くにいたのに?」
透明な涙。
落ちて、染みて、俺の手の上。
赤也から仁王へ。仁王から俺へ。
聞いたよ。
嫌われて、いらないって言われるのが怖かったんだってね。
「こんなに、側にいたのに?」
「精市・・・・・ごめなさっ・・・・」
謝るのは、無力な俺のほう。
ごめん、ごめんね、。
寂しさしかあげれなくて。
俺一人じゃ何もできないからと会わせた彼ら。
けれど家に戻ればその反動。
ますますひとりぼっちだと思わせてしまったんだよね。
この場にいる俺たちの会話の意味全てが分かる者、分からない者。
どちらもただ、が大切だった。
「嫌うわけがない。・・・・・・いらないなんて言うわけがない」
「(!!)精市っ・・・・・どうして・・・」
「・・・・・言うわけがないんだよ、。」
こんなにも、君が大切だから。
「・・・・・・・・・あーあ、そんなにを泣かせてどうするんすか。幸村部長―」
「俺が問題だと思うのはお前のそのほっぺだぜぃ?赤也。赤けー」
「あででっちょっ・・・触んないでくださいよ、ブン太さん!!わざっとすよ!わざと!!」
「ほう?わざとあの女子に殴られたと言うのか赤也」
「嘘の確立100パーセントだ、弦一郎」
いまだ俺の手に落ちる涙。
少しだけ。
多くなった気がするのは、赤也の声のせいだろうか。
「ダメじゃのう、赤也。」
「今日は、猛特訓ですね。切原君は途中で部活を抜けたわけですから。」
「なっ・・・それは仕方がないでしょう?!ジャッカル先輩、助けてください!!」
「俺に助けを求めんじゃねえよ。都合がいいんだよお前」
「ダメだぜい赤也。ジャッカルはいまだに昼のパンのこと根に持ってる!!」
「しつこい!しつこいっすよ!!」
「うるっせー!!」
「!からもなんとか言ってくれよ!!」
・・・・・・・・は、ゆっくりと自分の頬にのる俺の手に手を重ね、
そして一度目を閉じ、
俺に‘ありがとう’と誰にも聞こえない小さな声で言った。
俺の手を頬からはがすと
は赤也たちのほうへ顔を向けた。
「・・・・しごかれて来たら?赤也」
「「「「「「猛特訓決定!!!!!!!!」」」」」」
「!!!!!」
彼女の目にはまだ涙。
でも、とても幸せそうに、楽しそうに笑っていた。
俺は、無力で。
何もにしてあげられなくて。
ただ、が楽しそうに笑ってくれるようになったことが幼い頃、
両親の帰りを待つ一人っきりのの姿をかすませた。
たった一つ、
残念なのは。
から孤独を奪ったのが俺ではなかったこと。
「・・・・・赤也。赤也の猛特訓が終わるまでは俺は病院に戻らないことにするよ」
「幸村部長まで何言ってるんすか!?」
「さあって行くぜぃ赤也!」
「ちょっ俺死にますよ?!」
「むしろ死んで来い」
「幸村部長!!なんてこと言うんすか!」
一人ではないと、知ったんだね。
赤也が教えたんだね。
、まだ赤いその頬。
笑っていれば気にならないよ。
・ ・・・兄弟のようなものではなく。
きっと俺は、
が好きだったんだ。
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