眠れぬ夜に夢を仰いで
嫌いな明日をどう逃れるか必死で
ただ暗闇にまぎれていた。
『翼の生える位置23』
「じゃあ俺達は幸村を病院に届けてくるから。赤也、お前はを家に届けんしゃい。」
「え、仁王先輩!だったらと俺も一緒に!」
「赤也、ちゃんとを送れよ?」
日が沈む時間がすぐにやってくる今の頃
精市を送るという先輩達と
その先輩達に帰れとうながされたあたしと赤也
放課後の部活、赤也達の練習が終わって校門へと足を進めていた。
「精市。」
「?」
「また、お見舞い行ってもいい?」
夕闇を帯びた空に精市の顔が少し陰る
「もちろん。」
変わらないその笑みは
いつだってあたしの側にあった。
何度も繰り返したくなるありがとうの言葉はきっと
何度言っても足りないから。
「赤也、送り狼は禁止」
「・・・仁王先輩」
「、気をつけろよー。相手は赤也だからな」
「ブン太さんがそう言うなら気をつけてみる。」
「おいこらっ!!」
「を責めるな赤也」
「柳、ここで開眼すると赤也が泣き出すとよ?」
変わらないその笑みは
あたしの周りを囲むこの人達の笑顔は
いつだって側にあった。
「・・・じゃあね、」
「うん、またね精市」
夕闇を帯びた空
校門で
ここでお別れ
またねって
手を振った。
「・・・赤也」
「ん?」
「あたしと赤也家の方向逆だよね」
「・・・送らなくてもいいとか言うなよ?」
「言うつもりだったのに。」
「・・・送らせろよ」
精市達の背中を見送りながらあたしと赤也はその場に立ち尽くしたまま。
空がだんだんと暗くなる。
「帰ろうぜ、」
「・・・家の方向逆でしょ?」
「・・・送らせろって!」
前にもこうやって赤也と歩いた。
あたしが映画に誘ったとき、雨が降ってきて。
「練習。きつかったよね?」
「今日はな。しごかれすぎ。」
今日のテニス部の練習。
先輩達の宣言通りに赤也は猛特訓。
ひたすら球を打ち返す赤也。
赤也が疲れようが、転ぼうが関係ない。
真田先輩を中心にレギュラー陣が赤也へサーブを出し続けていた。
「ダメだ。・・・・思い出すと腕が痛くなってきた。」
「すごかったもんね。先輩達の剣幕。」
「だから思い出させんな!」
「あははっ」
眠れぬ夜に夢を仰いで
「・・・・・暗くなるの早いね。」
「時期的に冬だしなあ。」
「そっか。そうだね。」
嫌いな明日をどう逃れるか必死で
ただ暗闇にまぎれていた。
「あたしね。」
「?」
「やっぱり一人ぼっちはひとりぼっちのままだと思うの。」
夜にまぎれてあの人たちに。
帰ってきてって、望むけれど
やってくるのは朝だから。
「・・・何でだよ。は一人じゃねえだろ?俺がいるし、先輩たちがいる。」
「ううん。あたしは一人ぼっちだよ、赤也。」
そう言い切るあたしに赤也は顔をゆがませた。
「・・・・・・・一人じゃねえよ。」
「一人だよ。みんなが手を繋いでくれる、ひとりぼっち。」
「(?)どういう・・・・」
「こういうこと!!」
あたしは赤也と手を繋ぐ。
「寂しくないの。」
「・・・・・。」
「ひとりぼっちでも。」
眠れぬ夜に夢を仰いで。
明日を待ち遠しいと。
やってくるのは朝でいい。
あなたに会える、次の日の朝でいい。
「・・・映画」
「映画?」
「今度行こうぜ?」
「・・・・」
「あの日は見れなかったから」
雨の滴
あたしだけ青いままの空
ずぶ濡れの2人。
あの時のように歩く道。
今は手を繋いでる。
「あたし邦画が好きなんだ。」
「あっ俺も。」
「赤也は英語が苦手だけなんでしょ?」
「・・・・学年1位は英語が得意なんじゃないのかよ」
「でも邦画が好きなの」
「あっそーですか。」
「・・・・・・赤也?」
ぎゅっと赤也の手があたしの手を強く握りなおしていた。
痛いわけではなくて。
赤也が真剣な顔をする。
「その茶髪って幸村部長が似合うって言ったからしてるんだっけ?」
「(?)それもあるけど?」
「誰からも文句言われないように学年主席だったんだよな?」
「それは別にそういうわけじゃ・・・・」
暗闇通り街灯の
明かりが照らすあなたの顔。
真剣だったから、心奪われた。
「って幸村部長が好きなのかよ?」
「え?」
「俺が言ったこと覚えてる?に好きって言ったこと。」
「あかっ・・・」
「。」
暗闇通り街灯の
明かりが照らすあなたの顔。
いつの間にか歩みは止まり、見詰め合っては向かい合い、両手を繋ぐ。
「答えが欲しい」
怖かった青空。
今は優しい。
怖かったいらないという言葉。
今は忘れて。
苦しかったこの世界。
今は居心地が良く。
苦しかったこの世界。
今はあなたと手を繋ぐ、そのひと時。
「赤也」
「俺はが好きだけど、お前は?」
答えが
答えが欲しい。
あなたに何度も会いに行った理由は?
あなたに会いたかった理由は?
あなたのせいで泣けるようになったなぜ?
簡単だよ。
考えなくても
答えは一つ。
「・・・・・・・・・・・あたしも、赤也が好きだよ」
寂しさはせつなさに。
孤独は勇気に。
あなたは私の好きな人に。
「・・・・・・・・。」
「ん?」
「寂しかったら呼べよ。どこにいても会いに行くから。」
「うん。・・・・ありがとう赤也。」
ぎゅっと握った両手。
温かい。
そう言えばあたし、赤也にありがとうってちゃんと言ったことあったのかな?
「・・・・・・・・・・赤也。ありがとう」
「何が?」
「ありがとう、ありがとう。ありがとう。」
「だから、何が?」
「・・・ダメだ。足りない。」
「だから、何が?」
「何って・・・・・」
あたしから孤独を奪ったじゃない。
「ありがとう、赤也。ありがとう。」
「・・・・・・・・・・・。」
「ん?」
赤也の顔を見据えようと顔をあげたら、
赤也にキスをされた。
「・・・・・ん・・・赤・・・・・・也・・・」
「これで、足りたろ?」
‘ありがとう’
ダメだよ。足りない。
孤独だけじゃない。
赤也はあたしから寂しさも、恐怖も奪ってしまったから。
「・・・・足りない。」
「・・・・・・ありがとう、まだ言うのかよ?」
「赤也。」
今度はあたしが両手を握り返す。
「・・・・・・もう一回。」
「へ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・もう一回!」
足りないから、これも奪っていって。
この言葉を奪っていって。
何度言っても、何度伝えても足りないから。
「ん・・・・」
「・・・・・・・・。」
何度も繰り返してほしい。
伝えきらないから。
例えば、唇を重ねること。
何度言っても、何度伝えても足りないから。
ありがとう。
それから、
好き。
「赤也。」
「ん?」
「映画、洋画にしよっか。」
「・・・・・・・英語嫌いなんですけど?・・・あっ間違えんなよ!俺は苦手じゃなくて嫌いなんだからな!」
「・・・・・苦手だから嫌いなんじゃなくて?」
「・・・・・・・・・」
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