‘デートしませんか?’






久々に部活が休みになった日曜日の午後。



俺は自分の部屋でベッドに寝ながら雑誌を読んでいた。






「・・・デート?」






携帯に届いたのはからのメール。







































『翼の生える位置6』

































‘精市が来れなくなったんだもん。’






俺、幸村部長の代わり?



返信して返信されてを繰り返すメール。



どうやら、は幸村部長と映画を見に行く予定だったらしい。



それが幸村部長は急に用事ができて来られなくなったと。






‘赤也、一緒に映画見に行こう’





別に予定もないし、構わないんだけど。





‘今どこにいる?’



‘枯渇ビルの映画館前。’





今から俺がそこに行くまでに30分はかかる。



待ってられるのかよ。



っていうか一人で30分待たせる?








幸村部長に殺される。







は顔整ってるし。







‘待ってるね’






から次のメール。



俺にできることは



一刻も早く映画館に行くことだけだ。



適当に服に着替えて



サイフをいれたカバンを持って家を飛びだす。






近くのバス停でバスの時間を確認していると



ちょうどバスがやってきた。



乗り込んで一息つく。



きっと30分もかからないでつけるかもしれない。



バスの窓から見えた空がやけに青かった。
















精市が今日映画に来られなくなって



ホントは帰ろうと思ったんだ。



でも見上げてしまった空があたしをとめた。



あたしが歩くのを邪魔した。



吸い込まれそうになって



焦がれて、泣きたくなって。







怖かった。あの空の青が。







気付いたら赤也にメールを打っていた。



隠して欲しかった。



初めて名前を呼んだあの日に



白いタオルであたしを覆ってくれたように



あの青空を隠して欲しかった。




















「・・・嘘だろ?」





バスが渋滞にはまった。



道路の前の方で事故があったらしい。



さっきバスの運転手が乗客全員に聞こえるように告げた。





(マジかよ・・・。)





相当映画館につくのが遅くなりそうだ。



に連絡しようと携帯を探す。



・・・ない。








(ない?!)







持ってきたカバンをひっくり返す勢いで探す。





(・・・家においてきたんだ)





携帯がないんじゃに連絡がとれない。



バスは一向に動く気配がない。















・・・っていうかなんでは俺を選んだ?



仁王先輩じゃダメだったのかよ?



ブン太さんは?










俺だってなんでこんなに焦ってんだろ



は待ってるって言ってたし



渋滞じゃ仕方ないじゃん?






















































頭に浮かんだのは初めて見たの笑顔だった。




























わかめって呼んだり俺のことはめたり急に映画に誘ったり



振り回されてばっかじゃねえか、俺。


















でも



見たい。














あの笑顔に会いたいと思う、俺がいた。













赤也の携帯に電話をしてみたけど



赤也はでなくて。



メールをしたけど返ってこなかった。



赤也から最後のメールがきて一時間が経っていた。



まだ空は青いまま。








赤也。来てくれないの?







映画館の前にしゃがみ込んだ。



あの空の青に吸い込まれないよう。



焦がれて、泣いたりしないよう。


















雨だ。



やっと動き出したバスの窓を雨が打ち始めた。



青かった空はもうどこにもない。



確かに向かっている映画館近くのバス停。






(早くつけ。)






バスを心の中で急かす。



早くつけ。早くつけ。



映画館に近付けば近付くほど雨足が強くなる気がした。



映画館に一番近いバス停で止まったバスから金を払って勢いよく飛び出す。





(枯渇ビルの前の映画館・・・)





走る。



雨の中を。



長い間待たせたことと連絡がとれなかったことへの罪悪感と



バスの車内で自覚したあの笑顔が見たいと言う想いを抱いて。




























見つけた。



色素の薄い茶髪。




















?!!!嘘だろ?!なんで雨の中にいんだよ!!」






映画館の前で顔をうずめてしゃがみ込んでいる



雨足の強くなった雨に打たれて濡れていた。






!!」


「あ・・・かや?」


会いたかった。


がやっと顔をあげた。






「なんでっ・・・雨よけるところならいくらでも探せるだろ?!」






の顔は青白い。



声もいつものように聞こえない、弱々しいものだった。







「雨・・・?」


「・・・気付かなかったのかよ?」


「赤也、よかった。来てくれた。」

来るのが待ち遠しかった。







弱々しく笑う










「・・・立てるか?」





の腕を引っ張って屋根のある場所まで連れて行く。



近くにあった雑貨屋まで俺は走ってタオルを一枚買ってきた。



にそれを渡して髪と顔をふくように促す。







「帰るぞ。」


「え?」


「それじゃ風邪引くだろ?」







俺は再び走って映画館近くのバス停でバスがくる時刻の確認をしてまたのいる場所に戻った。








「赤也、怒ってる?」


「ちょっとな」


「ごめんなさい。」


「・・・俺が何に怒ってるかわかってるのかよ?」


「ごめんなさい。」


「・・・・・」







が頭を下げた。



俺が怒ってるのは雨に気付かなかったに。



それともっと早くにのところに来れなかった俺に。









「・・・顔あげろよ、。」


「ごめ・・・なさ・・い」










なんでそんなに必死なんだよ。










「もう、怒ってないから。」



































雨に濡れた二人がバスに乗ってきて



他の乗客は迷惑そうな顔をしていた。



はバスの中で一言もしゃべろうとはしなかった。



俺が買ってきたタオルに顔をうずめて



泣いているようにも見えた。













、送るから。お前の家のバス停近くなったら教えろよ。」










色素の薄い茶色い髪から雫が落ちる。



はタオルに顔をうずめたまま小さくうなずいた。














しばらくバスが走ってが俺の服の袖を引っ張った。






「次?」






うなずく



次に止まったバス停で俺達は降りた。










雨は上がっていたけどもう夕方。



空は赤と黒の間の色だった。



濡れたままの体を引きずって二人で歩いた。







がバス停を降りてからちょっとずつ歩く。



そのの隣より少し後ろを俺は歩いた。



が歩みを止める。







「・・・ここがの家?」


「・・・うん」







がとまった前にある家は周りの家よりははるかにでかくて。







の家って金持ち?」


「・・・・・・」






でかい家。でも家には誰もいないのか、明かりがどこにもついていない。






「赤也。今日はごめんね。」


「・・・俺が怒ってたのは、お前がずぶ濡れだったからだからな。雨くらい気付けよ。」


「うん。ごめんなさい。」






何度も謝る



必死に謝る。何度も、ごめんなさいと。






「もう怒ってねえよ。それよりちゃんと服着替えて髪乾かせよ。風邪引く。」


「・・・うん。」





の家の前。



の背中側にある家。



いまだに明かりはついていない。







「・・・じゃあな。」


「うん。今日はごめん。ありがとう。」







最後まで謝った



一度も振り返らずに家の中に入っていった。




















の家の窓の一つに明かりがついた。



それを見届けて俺も家路を辿った。

















































「・・・あった」





俺の部屋のベッドの上にあった俺の携帯。



着信2件。メール1通。



全部からのもの。









今日のはなんだかいつもと様子が違った。



妙に心配になって



今頃はの家にの他に誰か家族は帰ってきているのだろうかと考えた。












手にした携帯。にメールを打った。







‘なんかあったらなんでもいいから言えよ。’







必死に謝る



何をそんなにおびえていたのか。







から返ってきたメ−ルはたった一言だった。
















































‘ありがとう’













































end.              この作品が気に入っていただけましたらココをクリックして下さい。