「「あ。」」
重なった声。
『翼の生える位置4』
体育の授業がサッカーだった。
腕まくりして張り切ってスライディング!!
右肘の部分を思いっきりすって出血。
保健室に行けって
体育教師に怒られて
来てみた保健室。
保健室の一番奥のベッドに座るがいた。
「わっ血だ!」
「サッカーやってたらさ…」
「転んだの?」
「ちげぇよ!スライディングしたんだよ!!」
転んでケガしたんじゃ本気でカッコつかない。
っていうか。
「はなんで保健室にいるんだよ?」
見たところ保健医はいない。
「保健室登校。」
「…まじ?」
「今日は先生いないよ。出張。」
「じゃあなんで保健室の鍵開いてんだよ」
「秘密。」
一瞬の触れてはあけない部分を触れてしまったのかと思ったけど
の表情はいたって普通だった。
「赤也座りなよ」
が座っていた一番奥にあるベッドから立ち上がった
保険医の事務用の机の後ろにある戸棚まで歩いてくる。
「…?足どうした?」
保健室に入って一番手前にあるベッドに俺は座った。
奥にあるベッドから戸棚に向かって歩いてきたは右足を軽く引きずっていた。
「階段で転んだの」
戸棚を開けて薬らしきビンをいじりながら
はこっちを見ることなく答えた。
「はい、肘だして。」
「やってくれんの?」
「赤也が一人でできるならやらない」
「できません。」
右手の肘から出血。
自分で処理するにはちょっと無理がある。
が無造作に置かれていたイスを一つ足を引きずりながら持ってきて
俺と向かい合うようにそれにこしかけた。
「痛って!!ちょっと待て!しみる!しみっ…」
「うるさい。」
が容赦なく消毒液を染み込ませたガーゼを俺の右肘にあてる
染みる。染みる。染みる。
「終わり。」
「…ありがとな」
右肘の出血と擦り傷はガーゼに覆われていた。
が立ち上がって消毒液のビンとかガーゼが入っていたカンとか持って
再び薬品の並ぶ戸棚へ向かう
「なぁ、聞いてもいい?」
「ん?何?」
働いたのは俺の好奇心だった。
「なんで保健室登校?」
「…授業なんか受けなくても成績はいいもん」
戸棚に使ったものを返し終えたのか戸棚の戸を閉めた。
こっちに向かって歩いて来た。
右足を軽く引きずって。
「テストで点数がとれてれば不登校も茶髪も誰も文句は言わないんだよ。」
「それってやっぱり染めてんの?」
「地毛」
「嘘だろ」
「嘘だけど」
ベッドに座る俺に向かい合うように置かれたままのイスに
再びが腰掛けた。
「精市が似合うって言ってくれたんだもん」
なるほど、だから染めてるってか。
は幸村部長が好きなんだと思う
あの人と話をする時の目も今の言葉を発した時の目も
いつも
とても
幸せそうだ。
「学校に来てても勉強できない子はどうすればいいんですか」
「努力だと思います」
カタコトの会話。
おかしくて二人で笑った。
「おっ授業終わった」
聞こえてきたチャイムは
授業の終わりと昼休みの始まりをつげるもの。
「おごってやるからも購買行こうぜ」
「ジャージのままで行くの?」
「着替えてたらパンが売り切れる。」
が笑う。
「お前バカにすんなよ。昼休みの購買は戦争だから。」
「へぇ。」
ベッドから立ち上がった俺は保健室のドアを開けてを待つ。
もイスから立ち上がって保健室の入口までやってきた。
「・・・ホントに階段で転んだのかよ」
「うん、そうだよ」
右足を引きずって俺の後ろをついてくる。
顔にはださないけど
それが妙に痛々しかった。
放課後の屋上は誰もいない。
屋上を囲むフェンスの下をのぞきこめば
精市達が練習しているのが見えた。
同じフェンスでも
ホントはコートのまわりを囲むフェンスから
一番近くでテニス部の練習が見たいけど
あんなにたくさんの女の子がいたんじゃ
ちゃんと見れないし。
それにね
誰もいない、誰も見てない屋上のほうが
精市達に気付かれないですむんだ。
「さーん。」
「なんだ昨日殴られたのにまた学校来ちゃったの?」
「うざいんだけど」
「ってか学校来んなよ。いっそ死ね。」
屋上の入口近くに立つ4人組の女の子。
多分テニス部レギュラーのファンの子達なんだと思う。
いつも放課後になると必ずあたしを見つけ出して
学校に来るなと脅される。
断れば殴られて。
ねえ、赤也
ホントはこの右足ね
階段で転んだんじゃないんだ
あたし赤也に嘘をついたんだ。
ごめんね、赤也。
でもね、知られたくない。
精市にも赤也にも。
どうしても、知られたくなかったんだ。
あたしは殴られるより辛い痛みを知ってるつもりだから。
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