(コンコン)
家の中は外の気温と大差ない。
制服のブレザーじゃ寒さを防ぎきれない。
夏が懐かしく、夏に戻ればと思う瞬間。
(コンコン)
せめて、がいるだろうこの部屋に伝わるノックは
冷たいものじゃないこと
にそう思って欲しかった。
『翼の生える位置17』
「?」
何度目かのノックにドアお向こう側から返事はない。
(階段上ってすぐ左の部屋・・・。あってるよな。)
俺がたった今上ってきた階段を下の段から一番上の段まで目線を送り、
もう一度、がいると教えてくれたはずの俺が立っている目の前のドアを見た。
「・・・・・、入るぞ。」
ドアノブに手をかけて回しながら言った。
ドアは重みもなく、鍵もかかっていなかったので簡単に開く。
「?」
部屋の中に開けたドアから光が差し込んだ。
ドアを開けるまでは電気もつけていなかったらしく暗かった部屋。
差し込んだ光の向こう。
ベッドの一部と、その上の人影を見つけた。
「。」
「・・・・ホントに、赤也だ。」
聞こえてきた声に人影はだ確信した。
ポケットから携帯を取り出してドア付近の壁を照らす。
探していた電気のスイッチ。
見つけるとすぐさま押して部屋を明るくさせる。
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・赤也だ。」
「。」
の声は電話越しと違って明るかった。
明るくなった部屋。
一番奥に置かれたベッドの上には。
はうずくまるように座っていた。
のすぐ近くには、さっきまで俺と話していて使われていただろう携帯。
「その顔・・・・どうしたんだよ。」
の右頬は赤く腫れていた。
「・・・・精市、会ってきたの?元気だった?」
家と同じでやっぱり広く感じる部屋。
部屋の中にはベッドと小さな机が一つだけ。
あとは、俺とがいるだけだった。
広い部屋に対して今のはあまりに小さく見えた。
「その顔どうしたんだって聞いてんだよ。」
「学校にいかないどころか、精市にまで会いに行かなくなってさ・・・・。バカだよねあたし。」
「」
「・・・・怒らないでよ、赤也。」
部屋の入り口から着実にこの部屋の一番奥
のいるところまで近づいた俺。
「どうしたかって聞いてんだよ。」
「・・・・転んだの。」
「嘘つくなよ」
ベッドにうずくまるようにして座る。
俺は立ったままベッドのすぐ近くで見下ろすようにを見ていた。
救いはが顔を上げて話してくれること。
「・・・・・殴られたのか?」
「・・・仁王先輩は精市にも話したの?」
「なんで、言わなかったんだよ。・・・いじめられてるって・・・」
「・・・・迷惑かけてごめんね。あたし大丈夫だから!精市にもそう言ってくれない?」
「言いたいことがあるなら自分で言いにいけよ、。」
「・・・・・・」
は、俺から目をそらした。
色素の薄い茶髪に整った顔。
赤く腫れた頬が似合わない。
俺は、の座るベッドに腰を下ろして、
に触れようと手を伸ばした。
「赤也?」
「見せろよ。」
ぐいっと引っ張ったの腕。
が着ていた長袖の袖の部分をあげた。
やせた細い腕には、無数のアザ。
「っ・・・・・」
「・・・・・なんで言わなかったんだよ?」
「・・・・」
「こんなことする奴らほうっとけるわけねえじゃねぇか!」
情けない。
自分が。
気付いてやれなかった。
そのアザの数だけ自分を殴ってやりたかった。
「・・・・そいつら誰だかわかるか?」
は首を横に振る。
「顔は?わかるだろ?」
は首を横に振る。
さっきまであげていた顔が下をむく。
「?」
「赤也、あたしのこと嫌い?」
「え?」
「あたし迷惑かけてばかりだから・・・。精市は?あたしのこと嫌いになったって言ってなかった?」
「?」
何の話だよ。いきなり。
「ひどいよ。仁王先輩、言わないでって言ったのに・・・・。」
「」
の顔をあごをもちあげて上げさせた。
「・・・お前・・」
「どうしよう・・・嫌われたくない・・・・。」
「・・・・・・・・?」
は寂しそうな顔。
涙は出ていないのに、泣いているように見えた。
「嫌いなんて言われたくない。」
「・・・・・・」
「いらないなんて言わないで・・・・。」
「・・・もしかして学校に来なくなったのは・・・・。」
「赤也。あたしのこと嫌いになった?」
わかった気がした。
が必死な理由。
寂しそうな理由。
「顔殴られて、いじめられてるの知られたくなかったのか?」
迷惑をかけたら嫌われると思って
いらないって言われると思って。
「言わないで・・・。嫌だ。・・・・いらないなんて、言わな・・・・」
必死で寂しそうで泣きそうなのに、
なんで泣かないんだよ。
「いらないなんて誰が言うかよ」
を抱きしめた。
ベッドの上で
力いっぱい。
「いらないなんて誰も言わねぇよ」
「・・・・・・」
誰がいらないなんて言えるんだよ。
こんなに必死なくせに。
寂しそうなくせに。
「泣くのだって辛いって思うこと伝えるのだって迷惑なんかじゃねぇよ。迷惑じゃなくて心配なんだよ、のこと。」
側にいてやりたいって思ったんだ。
今だって泣きそうなくせに、泣けずにいるから
抱きしめたいって思うだろ?
「いらないって言った・・・・。」
「・・・」
「いらないって言ったよ?」
「俺は言わない。」
お前が待ってる親がお前にそう言ったのか?
嫌いだって言ったのか?
言わない。
言えない。
「俺は、が好きだから、言わない。」
「っ・・・・・・」
こじつけの理由じゃなくて
ふさいでいた人差し指はずして
寂しそうなに
泣けずにいるに
本当の理由。
に会いに来た本当の理由。
「好きだから、会いに来た。毎日会いたい。だから、に学校に来て欲しい。」
「・・・・・・・・赤也・・・・」
こじつけの理由はもう要らない。
本当を伝えるから、
だから、泣いてもいいんだよ。
誰にも見られたくないなら
俺がを抱きしめて覆って俺以外わからないようにするから。
「いらないなんて言わねぇよ。俺も、幸村部長も。」
「・・・・・・・・」
「が大切だから。だから、学校来いよ。じゃないと俺、毎日ここに来なきゃお前に会えねぇじゃん」
お前を傷つけるものからは俺が守ってみせるから。
なんて自分勝手だと自分ながらに思うけど。
俺の腕の中にいたの涙が
伝わってきたから
これでいいんだと思った。
本当を伝えるから、
だから、泣いてもいいんだよ。
誰にも見られたくないなら
俺がを抱きしめて覆って俺以外わからないようにするから。
end. この作品が気に入っていただけましたらココをクリックして下さい。