夢を見た。
あの日の夢だ。
あたしに居場所なんてないと知った日の夢。
「翼の生える位置12」
ざわつく教室。
あたしのクラス。
みんながあたしを見ていた。
こそこそとあたしを見て話していた。
それは当然のことかもしれない。
ずっと不登校だったあたしが
久しぶりにクラスを訪れたから。
「おっおはよう!さん!!」
座った自分の席だと覚えのある窓際。
隣に座っていた女子が大きな声であいさつをくれた
静まる教室。
「・・・おはよ・・」
おー!っと教室中で歓声が起こった。
・・・意味がわからない。
「あの、あたしね!一度でいいからさんと話してみたいと思ってたの」
「・・・そう・・なんだ」
覚えのない隣の席のクラスメイト。
こんな人もいたんだと失礼なことを思う。
あたしがクラスの風景にとけ始めたころ。
クラスメイトはあたしが声を発することに慣れたみたいだった。
授業はつまらない
窓際の席。
頬杖付いて窓越しに空をにらんだ。
(居場所なんてないのは知ってる)
夢を見た。
あの日の夢だ。
あたしに居場所なんてないと知った日。
居場所なんかなくてもあたしはここにいる
それを見せつけるためにクラスに来た。
空の青に見せつけるためにここに座っている。
「!」
「・・・赤也。」
休み時間に再びクラス中がざわめく
視線はあたしと赤也を交互にして
教室のドア。
勢いよく開けてあたしの名前を呼んだ赤也
「どうしたの?」
「どうしたのじゃねぇよ!お前・・・」
口を閉ざした赤也。
あたしがクラスにいること、喜んでくれているの?
不登校が保健室登校が直ったって。
赤也があたしに
笑い掛けた。
「そっか。・・・そっか。」
「赤也?」
ざわめく教室と廊下。
その境にいるあたしと赤也
赤也はあたしの頭を優しくなでた。
「昼は今日一緒に購買行こうぜ。んで屋上。ここに迎えに来るからな。」
「赤也のおごり?」
「・・・・・あー、わかったよ!」
あたしの頭をなでていた赤也の手がさがった。
「じゃあ昼な。」
「うん」
ざわめきは膨らんで
赤也はあたしの頭に手の温もりを残して
廊下を歩いていった。
(・・・ぼさぼさ)
なでられた頭。
ぼさぼさにされた髪がやけにうれしくて。
体温があがった。
「おいっ赤也!」
「・・・んだよ」
「お前、と知り合いなのかよ!?」
廊下で声をかけてきたのは同じクラスの男子二人。
「・・・わりぃかよ」
「あの不登校児と!?あの学年1位と!?」
「だからなんだよ。ってか別に関係ないだろ、お前らに。」
「いやー興味本位なんだけどさー聞いていい?あの噂本当?」
「噂?」
「の両親が二人共親権放棄したって」
あの日の夢を見た。
あたしの居場所なんてないと知った日の夢。
昼休み。
あたしの教室を訪れたのは赤也じゃなかった。
「さんいますかー?」
やめて。赤也が迎えに来てくれることになっていたんだから。
「さん?呼ばれてるよ。」
あたしを促す隣の席、朝一にあたしに声をかけてきてくれた女子。
(やめて)
赤也がもうじき来るんだから。
「さーん。ちょっとだけ!ね!」
見慣れた顔の4人組。
ここまであたしを殴りに来なくてもいいじゃない。
夢を見た。
あの日の夢。
あたしに居場所なんてないと知った日の夢
居場所なんかなくてもあたしはここにいる
それを見せつけるためにクラスに来た。
空の青に見せつけるためにここにきた。
わかったんだ。
あたしの近くにいて励まそうとしてくれてる存在があること。
居場所なんかどこにもないままだけど。
(やめて)
赤也が迎えに来てくれるって
一緒に屋上に行くって約束してるんだから
「あれ、なあ。・・・は?」
「なんか誰かに呼ばれてその人たちと一緒に行っちゃたよ」
「誰が?」
「さあ」
赤也、今頃
あたしを迎えに来てくれてるんだよね。
体育館裏まで連れて来られていきなり蹴り倒されて殴られているとき、
考えていたのは赤也のことだった。
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