幼い頃の記憶だ。



自分の家の前でしゃがむ





「どうしたの?


「精市お兄ちゃん!あのね、帰ってくるの待ってるのよ」


「帰ってくる?」


「お父さんとお母さん」






夕日が時間の経過を教えても



月が君を見守る時間になっても



そんな日はと一緒に俺も待った。



の家の前にじゃがんで。



たとえ君の両親が帰ってこなくてもそれでも



待っていた。









は待っていたんだ。





















『翼の生える位置14』



















病室の窓から空を眺めていた。



青い空。



、君の家の前で一緒に待っているとき。



よく空はこんな色をしていたよね。



今日も君は待っているの?



一人の時間はたった一つの考え事を大きくして。



今、一人でいる俺がそれを感じているくらいだ。



の想いや思想は、不安や寂しさは・・・。



その足が家路を辿る瞬間からの時間は、彼女だけのものになる。



一人に、なる。





(どうして、もっと早くに気付いてあげられなかったんだ・・・。)





側にいることがにしてあげられる唯一のことだと信じていた。



けれど本当は、思い込みばかり。



はいつだって、一人だったのかもしれない。













































の事。」




















病室の窓の外を見ていた俺の背後から声。





「考えてたんじゃな。」


「仁王・・・」


「もう一人。」





仁王の後ろから一歩前に出て仁王より先に病室に足を踏み入れた。







「赤也」






赤也が少しだけ俺に頭を下げた。



ノックは・・・多分したんだろう。



聞こえないほどに俺の意識がこの場になかっただけのこと。





「2人とも学校は?」


「ほれ、赤也。」


「はい?」


「俺がさっき言ったこと思い出してみんしゃい」





仁王が赤也の背中をとんっと押す。



その勢いで赤也が一歩俺に近づいた。





「えっと・・・子供には時に勉強より大切なことがあるんじゃ。・・・・って言い訳、通じるといいんだが。でしたっけ?」


「お前さんバカじゃの。俺の口調そのまま言うか?普通。‘って言い訳’からもいらん。」


「勉強より大切なこと?」






俺は仁王を見た。



仁王は俺を見返す。



視線は真剣なもの。





「俺じゃない、赤也じゃ。お前さんに聞きたいことがある。」


「・・・・・」





俺は仁王から赤也へと目を移した。



赤也の目線は床にある。





「・・・・ひとまず座ろうか。」





俺がベッドに腰を掛けると壁に立てかけてあったパイプイスを赤也と仁王が引きずりながら持ってきて



ベッドの近くに座った。





「で?」


「・・・・」





赤也をもう一度見る。



赤也は座る両足の膝の部分で左右それぞれこぶしを握っていた。





「単刀直入に聞いてもいいっすか?」


「いいよ。」






赤也の聞きたいこと、予想はついてる。




















の両親が親権放棄したことについて、教えてください。」

















俺は視線を赤也の少し後ろに座る仁王へ向ける。



仁王とは目が合っているようで合っていない。



焦点がずれている。





(決定打は仁王、君が打ったんでね。)





に赤也を会わせようと思ったのは突然だった。



きっかけがあったとかじゃなくて、



ただ、同じ学年だということと、なんとなく赤也なら





の寂しさに気付ける気がして。





願っていた。



赤也がのことを知ろうとする時を。









































「背負う勇気が、赤也にあるかい?」


「・・・え?」








































最終確認事項。





の想いを背負える?」





俺の願いにたどり着いてくれたことはよっかたと思う。



でも。





「あります!背負う勇気。」


「・・・・」


「俺はのことが知りたい。笑ってて欲しいし、学校にも来て欲しい。」





仁王から聞いてが再び学校に来なくなったのは知っていた。



今、赤也が見ていたのは、今度は床じゃなくて、俺の目。







「教えてください。」






から何かを俺に言ってこないかぎり、俺はの家に彼女を迎えに行くことさえ出来なかった。



勇気のない俺。



下手なことをしてを傷つけることを恐れる。





「・・・の父親は大きな会社の社長。母親は都外にいくつも飲食店を経営していた。」





が幼いころから家に家族がそろうなんてことは滅多になかった。



俺はの家の近所に住んでいて



よく彼女の家の前にしゃがんで一人、空を見ていたに声をかけて一緒に遊んでいた。



幼い頃の記憶だ。



自分の家の前でしゃがむ





「どうしたの?


「精市お兄ちゃん!あのね、帰ってくるの待ってるのよ」


「帰ってくる?」


「お父さんとお母さん」






夕日が時間の経過を教えても



月が君を見守る時間になっても



そんな日はと一緒に俺も待った。



の家の前にじゃがんで。



たとえ君の両親が帰ってこなくてもそれでも



待っていた。









は待っていたんだ。







の両親が同時に親権放棄を申し出たのはが小学校を卒業してすぐ。」







ある日高熱をだして倒れた



それに気付いたのは、の父親でもなく、母親でもなく俺だった。



突然の姿を見ることがなくなって心配になって訪ねたの家。



玄関の鍵は開いていては玄関近くで倒れていた。





「俺がはじめての両親をそろって見たのは病室。の入院する部屋で2人は大声でケンカ。の見てる目の前でね。」





‘お前がをほうっておくからこうなったんだ!!’


‘あなただって家に帰ってくることなんて滅多にないくせに!’


‘仕事があるんだ!!仕方ないだろう?!’


‘あらあたしだってそうだわ!!’






「自分の両親がケンカする前で、はベッドで泣いていた。・・・俺はの手を握っていてあげることしか出来なくて。」





鮮明にそのときの光景が浮かび上がるのはここがあの場面と同じ病室だからだろうか。



瞼を閉じて、呼吸を一つ置いて。





「口論は大きくなるばかり、とうとう2人は離婚。同時にの親権放棄を申し出た。」


「・・・意味、わかんね・・・」


「そうだね。子供の親権を争うとかなら聞いたことはあるけど」





赤也の表情は怒りとか悲しみとか言うよりも驚きのほうが大きいように見えた。





「お金は十分にある家だったからね。の後見人にはすぐのおじさんが名乗りでた。」


「でもじゃあ、の両親って。」


「いないんだ。法律上。・・・赤也に分かるかい?」





親が死んだとかではなくて神様のせいにも出来ない。



確かにの両親は生きているのに、彼女には両親がいないということ。



悲しみであり、寂しさであり、辛さであり、苦しみであり、孤独であり、























「精市、あたしね、いらないって言われたの」


































































にとっては存在の否定だった。」






































end.                                       この作品が気に入っていただけましたらココをクリックして下さい。