周囲の人からは





ひどいくらいに言葉が下手だと





言われ続けていた。




































『さいれんと』



































あたし達はいつだってほんの少し言葉が足りない。











「亮」


「・・・」


「もらって」


「・・・ああ、ありがとな」









今思い返せばおかしな告白。



去年のバレンタイン。



あたしが亮にチョコを渡した。



手紙なんてものをつけて。



たった一言。



真ん中一行。






好き。






次の日の朝、靴を履き替えようと下駄箱を空けると一枚の手紙。



たった一言。



真ん中一行。







俺も。







周囲の人からはひどいと言われるほど



あたしもあなたも言葉が下手だった。





















































「わりぃ、


「いいよ、大丈夫。」


「あっそれから」


「うん。待ってる。」






淡々とした会話。



休み時間に亮があたしから借りていた古典のノートを返しに来た。






「亮、あのね。」


「ああ、今度でいいか?」


「うん、ありがとう」


「・・・・・・なんでそれで会話になるん?」


「「・・・・・・・・・・・・・・・・」」






話しかけてきたのは、あたしと同じクラスの忍足。






「「・・・・・・・・」」


「・・・・あーはいはい。いきなり黙んなや。勝手に話に入って悪かったなあ」







忍足が教室の中へ戻った。



あたしと亮は忍足の顔を見て考えてた。



同じことを言われるのは、これで何度目だろう。



2人で同時に顔を見合わせる。






「何度目なんだろうな?」


「・・・跡部、向日、芥川君・・・」


「覚えてねえな」


「そうだね」






淡々とした会話。



周囲に何度言われただろう。



よくそれで会話になってるね。って。






「・・・・・」


「・・・・・わかるよ、ね。」






あたし達はいつだってほんの少し言葉が足りない。



でも、言わなくても知ってること。



言わなくてもわかること。



たくさん知ったから。





































































「あ。」


「・・・・あ。」






あの一言の手紙をもらったあたしは、その日の帰り、亮を待っていた。



あたしに気付いた亮。



白い息。



踏みしめる積もったばかりの二月の雪。





「・・・・・」


「・・・・・」





さくっ



目線をあたしからそらした亮はあたしの横を通り過ぎる。






「あっ・・・・」






あたしの声に



さくっ



亮が足を止めてあたしに振り返る。



視線があって。



見つめ合って。






寒さが心を引き戻す。






・・・・・それからあたしは亮にむかって歩き始めた。



あたしが亮のとなりまでくると



亮も一緒に歩き始めた。









さくっさくっ








踏みしめる雪の音。



終始無言の帰り道は、切ないほどにうれしくて。



無言で差し出された手は切ないほどに暖かくて。



周囲の人からはひどいと言われるほど



あたしもあなたも言葉が下手で。






















































「あっ。」


「めずらしいな。」


「そうかな」


「心ここにあらずって奴か?」


「・・・・・・・・・・・思い出してたの」


「いつを?」


「いつかを」






ケンカもしたね。



いつだって言葉の足りない2人だから。



たまにお互いがわからなくなって。
















言葉が下手な2人がどちらからかごめんなんて簡単に言えなくて。













「あ。」











そんな時は決まってあたしが泣きそうになってる日。



ケンカして、ごめんが言えなくて、泣きたくて。



悲しみがあふれる日に限って、亮があたしを待っててくれる。



無言で手を差し出して。



あたしは泣きながらその手を握って。






無言で、ごめん。






その帰り道があたしとあなたの仲直り。






「・・・・・」


「心ここにあらず」


「あっ・・・。つい・・・」


「・・・別にいいけどな」






心ここにあらず。



・・・・・・心あなたにあり。



思い出してはうれしくなる。



バレンタイン。



手紙。



たった一言の。



踏みしめた雪の音。



無言。



ケンカもしたね。



ごめんは2人帰ること。











好きなんて一度も口にはださないけれど。



気付いてくれてると信じてる。






























「ぼーっとすんなよ、
































言葉など。



つたなくても。



言葉など。



なくても。











あの日から、一緒に帰る帰り道。



無言で差し出された手。













(伝わってる?)











‘なんでそれで会話になるん?’





言葉など



下手でも、わかるからだ。



この手の体温が教えてくれるから。



この手の体温が伝えてくれるから。



あたし達はいつだって言葉が足りない。



でもそれこそがあなたにあたしを伝える手段。








思い出してはうれしくなる。



バレンタイン。



手紙。



たった一言。



踏みしめた雪の音。



無言。



ケンカもしたね。



ごめんは2人帰ること。











「・・・・・・」


「・・・・・・」









言葉など、つたなくても。































































・ ・・・・・・・・ただ、



名前を呼ばれるとあたしはこの名前でよかったと



心の底から思うから。






「心ここにあらずか?」


「・・・・あるよ、ちゃんと」






だから、本当はもっと聞かせて欲しい。



名前だけで十分だから。

























無言で差し出された手。



結んであの日から、帰り道。



























心ここにあらず。



・・・・・心、あなたにあり。


















































End.