日常は日常でしかない
理由を問われればあたりまえで片付く
いつも通り夜は朝と交代し
いつも通り決められた制服に手を通す
人が一人いなくなっても
世界はあまりに不変だったので
日常は日常のまま
今日はあたりまえにやってきた。
昨日が、
死んだのに。
『さよなら』
テレビは天気を晴れと予測し
気付くのが遅すぎる事件を今頃ニュースで流す
・・・ニュースでは流れない
教えねえの?
が死んだって。
「亮!おはよ!!」
学校へ向かう途中
後ろから息を切らして
追いかけて追いついて笑って
「一緒に行こ?」
一日の中で初めて会うのいつもの姿
今はただの幻覚で幻聴で
(・・・)
何も、変わらなかった。
決められた席につき
いつものように教師が教壇で知識を植え付けようとして
・・・俺のクラスの真ん中の席には
一輪挿しの花瓶とそこに入った花。
(・・・・)
日常はあたりまえに過ぎた。
がいないことをのぞいて
「うっそ!宍戸じゃん」
「人に指差すんじゃねぇよ、向日」
「宍戸、お前平気なん?」
昼休みの屋上はテニス部三年レギュラーの溜まり場
「・・・跡部、朝練行かなくて悪かった。放課後はでる」
「・・・くも膜下出血だったんだってな」
「・・・・」
向日、忍足、ジロー、跡部。
みんなの目線の中心は俺。
がくも膜下出血で死んだのは昨日で
「・・・どこで聞いたんだよ」
「職員室。」
夜中にかかってきた電話
急を知らせるの両親の声
「亮」
その時聞こえたの声が
まだ耳に残って。
「ねぇねぇ宍戸!」
今まで黙っていたジローが俺の制服の袖をひっぱる
「次の授業サボろうよ!」
「はぁ?」
「・・・俺もサボる」
「ほな俺も」
「・・・なんだよお前ら俺のこと心配してんのかよ、気持ち悪い」
今日初めて笑った気がした。
「バーカ。俺が屋上にいてぇだけだ。」
「跡部もサボるん?」
「宍戸もね!」
「・・・・あのな、ジロー・・・」
日常は日常でしかない。
がいなくても俺は笑う
理由を問えば当たり前で片付く。
人が一人いなくなっても世界はあまりにも不変で。
わかってる。
を知らない世界中にいる奴らにとって
がいないことこそ日常。
「亮」
屋上でいつもは俺の隣に腰を下ろす。
手を伸ばせば昨日まではすぐそこにいた。
幻覚。幻聴。
の声がする。がここにいる気がする。
伸ばした手の先に、
はいなかった。
「・・・・・葬式とかは?」
「・・・・二、三日中らしい。」
結局誰一人として授業に向かわず忍足以外のメンツは俺から離れ
それぞれ屋上に座り込んだり、立って外を見ていたりしている。
「ええ天気やな。」
「・・・・・」
俺の近くに座り込んだ忍足の声に、俺は空を見た。
テレビの予測通り晴れた空に、
(なんで、何も変わらない?)
吐き気がした。
が昨日死んだんだ。
なんで空は晴れてられる?
いつも通りでいられる?
なんで日常は日常のままでいられるんだよ。
空なんか暗闇に包まれればいい。
海なんか枯れればいい。
風なんか吹かなければいい。
世界中で弔えよ。
あいつが、が死んだんだ。
「・・・・・宍戸」
お前がいない日常なんか、壊れればいい。
いつも通りのはずがない。
伸ばした手の先にはいない。
「宍戸」
どいつもこいつも屋上に散らばってた奴らが俺のところに集まってくる。
「っ・・・・ちくしょうっ・・・・」
「宍戸、我慢しなくていいC・・・・」
「今は、泣いてやれよ」
「っ・・・・・」
泣けば、がいない日常を認めたことになる。
拭う。
何度も何度も。
この目からでる止まらない涙を。
「・・・・んでだよ・・なんで何にも変わらねぇんだよ!!」
が昨日死んだんだ。
どうして世界は何も変わらない?
世界中で弔えよ。
俺の大事な人だったんだ。
「宍戸。」
「・・・・連れてくなら俺でもよかったじゃねえか・・・・。」
跡部に呼ばれた名前はその時聞こえなかった。
誰に言ったんだろう言葉。
死なすなら、じゃなくて、俺にしろよ。
日常は日常でしかない。
問われれば当たり前で片付く。
ならお前がいなくなったことさえ当たり前?
ふざけんな。
認めねぇよ、そんなこと。
「宍戸。拭うな」
「せやな。止めたらあかん。」
「・・・・・・」
跡部と忍足の落ち着いた声が妙に響いて。
「はいつまでもあいつの影を引きずってるお前なんか見てたくないはずだろ?」
「は誰よりもお前に笑ってて欲しいって願ってた、そんな女やったやないか。」
「亮」
今だって、泣いてる俺の背中をさするが見える。
幻聴。幻覚。
・ ・・・・違う、昨日までの思い出だ。
「。」
昨日まで、そこにいたじゃねぇか。
伸ばした手の先にはいない。
「・・・・・・・・ごめんなっ・・・・」
今は泣く。
を想って。
ごめんな、。
お前がいない日常を
俺は受け止める。
「亮」
目を閉じて手を伸ばして、に触れた。
世界中で弔えよ。
大事な人が、好きだった奴が、世界から消えた。
。
愛したまま、
さよなら。
end.