〈どさどさどさっ〉
「・・・・・・」
自分のロッカーを開けただけでこんな音がするなんて
思いもしなかった。
まして、自分のロッカーを開けただけで
色とりどりの箱や袋が雪崩みたいに落ちてくるなんて
思いもするわけ
・・・・ねぇだろ。
『世界中の中で』
「亮?化学だよ。移動しないと」
「・・・・わかってんだけどよ」
「どうしたの?・・・・・あ。」
廊下にあるロッカー
自分のロッカーの前でしゃがみ込む俺を呼んだのは。
俺は廊下の床に散乱した雪崩から一つ
リボンで装飾された小さな箱を拾いあげそれを見る。
・・・どうしたものかと。
「・・・・誕生日プレゼント?すごい量だね」
「・・・化学の教科書がロッカーの中」
「・・・掘らなきゃね、亮」
の掘ると言う表現は正しい。
俺のロッカーの中はいまだに色とりどりのラッピングで埋もれ
化学の教科書は見つからずじまいだ。
俺はロッカーを掘り始める。
箱やら袋やらをロッカーの上にのせていき
化学を探す。
「。先に行ってていいぜ?」
「・・・ううん。待ってるよ。教科書発掘するまで」
は俺を見ずに答えた。
廊下に散乱していたプレゼントをしゃがんで拾ってくれていた。
「・・・・・・・」
朝は数人の女子におめでとうと言われ
プレゼントなんだろう箱やら袋を差し出されたが
受け取らなかったのに。
「直接渡しに来る奴が少ないだけだろ」
「・・・・・」
「てめぇのファンはそういう女共が多いってことだ」
喉をならしながら笑うのは同じクラスの跡部。
何がおかしいんだと跡部を睨むが
当然のように
跡部はそれを諸共しない。
化学が終わって教室へ戻る廊下。
は俺の後ろでクラスの友達と
教室へ戻る廊下を辿っていた。
「あのっ宍戸くん」
「あ?」
「こっこれ!」
「えっちょっ・・・」
「あたしも!」
「もらって宍戸くん!!」
「ちょっと待て!俺はっ・・・」
「「「宍戸くん!」」」
「直接派も結構いんじゃねぇか。宍戸。」
何がおかしいと
俺の背後で笑う跡部を睨むが
跡部は表情を変えない。
教室に入るあと一歩のところで
3人組の女子に囲まれ
手に持っている俺宛のプレゼントを差し出される。
「俺はもらえなっ・・・」
「「「「「宍戸くん!」」」」」
・・・あろうことか。
女子は増殖し始める。
早く教室に入られなければ。
そうは思っても突き付けられるプレゼント。
断る言葉はこいつらには届いていないらしい。
その女子の壁に囲まれ俺は動けずにいた。
「・・・もらえば?」
「・・・」
「・・・このままだとみんな教室入れないしさ」
周囲で女子たちがざわめく廊下で
俺を囲む輪から少し離れたところから聞こえたの声。
俺はと視線を合わせる。
跡部と同じで表情を変えないは
少しだけ困ったように言った。
「うけとりなよ、亮」
・・・一つの箱に手を伸ばせば
俺の手には次々にプレゼントがのせられていく。
俺の腕山積みにプレゼントを渡した女子たちは次々にその場を去って行き
通れるようになった教室のドアを
が俺の横を通って教室へと入って行った。
「・・・!」
「何?亮」
その後ろ姿が
少しだけ困ったの表情に重なって
俺はを呼んだ。
「・・・いや。何も」
俺に振り返ったは
いつものと変わらず。
「・・・なんだよ」
「バーカ」
「は?」
そのあと俺と目のあった跡部は
俺に腹を立たせるのに十分な言葉を静かに言い放ち
俺を通りすぎて教室へと入っていく。
・・・俺の手にはプレゼントの山が残されたまま。
「宍戸さん!ちょうどいいダンボールが部室にありました!」
「わりぃな長太郎。・・・何しろ教室からでれねぇんだよ」
「大変やなぁ。誕生日。」
「・・・忍足ももうじきだろ」
「せやな、怖い。」
まったく怖そうには見えない忍足に
誰も突っ込むものはいない。
昼休みが始まったばかりの時間。
俺の教室には俺が呼んだ長太郎と
誕生日の俺を祝いに来たのかからかいに来たのかわからない忍足。
それから机に座って本を読む跡部がいた。
「なぁ、宍戸。は?」
「飲み物買いに行った」
「にしてもすごい量ですね」
長太郎は部室から持ってきたという少し大きめのダンボールに
俺に渡された誕生日プレゼントをつめていた。
俺も机に置かれたそれをダンボールの中へと運ぶが
長太郎のほうがスピードが早い。
あれから休み時間のたびに
女子たちが俺の教室にやってきた。
廊下に出ようものなら囲まれる。
だが
俺がプレゼントを断り切れず困るたびに
は俺に
うけとればいいとうながした。
・・・いつもと、変わらない様子で。
「跡部。昼学食やろ?一緒に行こうや」
「なんで俺が忍足なんかと」
「ええやん。別に。宍戸はとやろ?鳳も一緒にどうや」
「あっはい。」
「忍足。お前何しに来たんだよ」
「ん?・・・ああ、忘れてたわ。誕生日おめでと、宍戸。」
「おめでとうございます、宍戸さん」
ダンボールにプレゼントの山をしまい終えた長太郎が
忍足に続いた。
忘れてたのかよ。
そうは思っても声には出さない。
忍足も長太郎も俺に笑い。
跡部も本を閉じて俺に不敵に笑った。
「・・・サンキューな」
「あれ?忍足と鳳くんだ。」
小さく言った俺の言葉のあと
が教室へと入ってきた。
長太郎はに頭を少しさげ
忍足は軽く手を上げる。
は俺のところまでくると
さっきまで山になっていたプレゼントののっていた机に
小さな箱を静かに置いた。
薄い青の包装紙でくるまれたそれ。
俺はを見る。
「はい、亮。誕生日プレゼント」
「・・・?」
は笑っていた。
あまりに不自然に
にっこりと。
これがからの誕生日プレゼント?
ならなぜ今ここに出すのかわからない。
放課後は2人でいる約束がある。
なぜそのときじゃないのか。
「・・・ってね。後輩の子に宍戸先輩に渡してくださいって頼まれたよ」
・・・・・・は?
の手には買いに行ったはずの飲み物はない。
買う前に後輩に頼まれ
そのまま教室に戻って来たんだろう。
跡部と忍足、長太郎は机に置かれた小さな青い箱を見つめ
俺はを見続けた。
「ちょっと待て、っ・・・」
「受け取れば?宍戸。」
にっこりと笑う表情は変わらない。
ちらっと見る青い箱。
・・・なんでだよ、。
「・・・お前怒って・・・」
「ははっまさか。」
・・・この場にいる誰もが思った。
嘘だと。
それを信じて疑わない。
が俺を見る。
俺はを見る。
跡部と忍足と長太郎は机の上にある箱を見る。
「・・・・・・・・・・・・・・」
俺は、薄い青色の包装紙でラッピングされたその箱を
一度つばを飲み込み手に取った。
<だんっ!!>
「っ・・・・?どないしたん?」
「・・・・んで、あたしが・・・・」
「先輩?」
机の上に勢いよく置かれたの両手。
俺の手には小さな箱。
はうつむく。
「?」
「なんであたしが亮に他人のプレゼントを渡さなきゃいけないのよ?!」
「っ・・・・・」
顔をあげたがキッと俺を睨んだ。
・・・めちゃめちゃ怒ってんじゃねえか。
「っ・・・・亮のバカ!!」
「ちょっと待て!!!」
教室から駆け出した。
俺はを追って教室から廊下へ出た。
「「「「「「「「「「「「「「「「「「きゃー!!宍戸くーん!!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
「(?!)」
いきなりの黄色い悲鳴に
教室へ押し戻される。
一体何人いるんだよ?!
は?
もう教室に姿が見えるはずもないを追いかけるのが遅れてしまった。
「・・・・おい、いい加減にしろよ。バカ」
「っ・・・・・うるせえよ!!」
「ならとっとと追いかけろ。てめぇはどうでもいい奴らからはもらっておいて一番欲しいもんからは何ももらえずにいるつもりか?」
跡部の視線が俺を射る。
忍足があきれたように俺を見て、長太郎は心配そうな顔色を浮かべ。
「・・っ・・・・!」
「そんだけ必死になれるんやったら間に合うやろ」
教室から全速力で走りだした俺。
忍足の声を背中に受けながら。
黄色いに声に囲まれて、引き離す。
誰も邪魔なんかするなよ。
俺はまだ言ってもらってないんだ。
一番聞きたいあいつから。
‘そんだけ必死になれるんやったら間に合うやろ’
当たり前だろ?
聞きたいのは、欲しいのは、
の心。
そのためなら
必死にだってなってやる。
「・・・鳳。そのダンボールもってついて来い。」
「え?」
「なんや跡部。どこ行くん?」
走っても走っても
が見つからない。
(どこにいるんだよ?)
昼休みはあと少しだけある。
大抵の生徒は教室に戻り始めるころだが、
「いた!宍戸先輩!!」
「ちっ」
俺は再び走る。
もしかしたらは外にいるのかもしれないと
昇降口のところまできた。
「・・・・」
<ピンポンパンポン・・・・・ちょっえ?もう放送できるんですか?>
「・・・・・・・・この声・・・・」
<えっと・・・全校生徒の皆さんに連絡します。本日紛失物が多数届いています。心当たりの方はテニス部部室までどうぞ>
<・・・・・いや、部室はあかんやろ>
全校に放送されているその放送。
廊下に取り付けられたスピーカーからもれてくる声は
間違いなくあいつらの声。
廊下のそこら中から悲鳴が聞こえる。
<部室やなくて職員室まで。届けられた紛失物にはほとんど名前に‘宍戸亮’と書いてあるけど本人は心当たりはないそうやで>
「あいつら・・・何っ・・・・」
昇降口のガラス張りになっているところから見えた中庭。
中庭に取り付けられた放送のスピーカーを
少し困った表情で見上げる姿。
<・・・おい。宍戸。聞こえるか。今日は何の日だ>
ベンチに座り、小首をかしげ。
(・・・跡部)
<誕生日だからって祝われるすべてを受け取る必要はねえ。てめぇが生まれた日だからこそ・・・・・・>
俺は中庭へと走った。
校舎中に聞こえるその放送に背中を押され、
<本当に欲しいものだけ、もらっておけ>
「!!」
「・・・・・・・亮」
は俺の顔を見るなり顔を下げた。
ベンチに座ったままの。
昼休み終わり間近の中庭には誰もいない。
俺はに向かってゆっくりと歩いた。
「悪い。・・・・俺、無神経だったな。」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・。」
「すごい放送だね。亮、女の子達に嫌われちゃっても知らないから。」
「・・・・別にかまわねえよ。に嫌われないなら」
の前まで来ると俺は立ち止まる。
はまだ顔を下げたまま。
俺はの隣へとベンチに腰を下ろした。
ちょうど木陰になっているベンチに少しだけ肌寒い風が吹く。
「・・・・・・まだ怒ってる・・・よな。そりゃ」
「・・・違うよ。怒ってない。」
「え?」
「亮は謝らなくていいんだよ。あたしが嫉妬するのが間違ってたんだよ」
「?」
「いいのよ。誰からプレゼントをもらってたって、おめでとうを言われてたって。」
が顔をあげる。
少しだけ困った表情で俺を見る。
「だってあたしは、これから先も、誰より亮の側にいて誰よりおめでとうを言うんだもの。」
よかった
なんて思うのはきっと間違いだ。
少しだけ不安そうにそう言った。
きっと少なからず傷つけた。
でも、よかった。
「りょっ・・・・・・」
掠め取るようなキスをする。
少しだけ肌寒い風に吹かれ。
「・・・悪い・・・・・したくなった。」
「亮・・・・・・」
よかった。
の見つめる先に俺がいたから。
でも、
少しだけ否定を。
誰からプレゼントをもらってもいいとか、
誰からおめでとうを言われてもいいとか。
誰かが祝ってくれること、嫌な気はしないけど。
ただ、これだけは分かってほしい。
「俺は・・・・・・・・じゃなきゃダメなんだよ」
本当に、欲しいものを願うなら。
100人の人におめでとうを言われても
1000人の人にプレゼントをもらっても
のたった一言には叶わない。
の手渡してくれるものには叶わない。
だから・・・・・・
「・・・亮。」
「なんだよ」
「もっもう一回言って!!」
が俺の制服の腕を掴んだ。
少しだけ頬を染めて俺にさっきよりも近づいて。
「・・・言わねえよ」
「言って」
「言わねえ」
「言って」
「言えねえよ」
「言って!!」
少しだけ肌寒い風にまかれて
かすめとるようなキスを、もう一度だけ。
「じゃなきゃダメなんだよ」
・ ・・・・・・よかった。
「っ・・・・亮!」
「なんだよ」
「もっもう一回・・・・」
「言わない」
やっと、笑った。
俺に向けて。
今日初めて。
いつものの笑顔を。
「今日これで一緒に帰ろうぜ。」
「でも亮。部活は?」
「跡部に今日は来るなって言われてんだよ。部活にならないからって」
「でも・・・・」
「俺の家の近くのコートで練習するから見に来るか?」
「うん!!」
やっと、笑った。
繋いだ手。
「・・・・亮」
「あ?」
「誕生日、おめでとう。」
‘本当に欲しいものだけ、もらっておけ’
やっともらえた気がした。
今日一番受け止めたかったもの。
本当に、欲しかったもの。
「ケーキ作ったんだよ!甘さ控えめのやつ」
「学校に持ってきてるのか?」
「うん」
「なら、このまま俺の家に来いよ」
「うん!!」
100人の人におめでとうを言われても
1000人の人にプレゼントをもらっても
のたった一言には叶わない。
の手渡してくれるものには叶わない。
たとえ世界中が束になっても
お前には、叶わない。
End.