「好きです、先輩。絶対振り向いてもらいますから!」
それは、
あなたからの宣戦布告。
『宣戦布告』
「おはようございます!先輩」
「・・・おはよ、長太郎。」
「それ、なんですか?」
「数学の課題のノート。みんなにくばっとけって担任に渡されて」
「持ちます!」
あたしの手に山積みになっていたノートの束は全部
廊下で話しかけられた長太郎に持ち去られた。
「・・・全部はいいよ」
「いいんですよ。俺は先輩が好きなんですから」
「・・・・」
それは
毎日繰り返される
「ダメ」
「あっ。」
あたしは長太郎の手に山積みになっていたノートを半分ほど取り返す。
「半分」
「・・・はい」
あたしの教室までノートを運んで手伝ってくれた長太郎
去り際にまた。
「好きです。」
「・・・手伝ってくれてありがとう」
あの日から毎日
あなたからあたしへ
繰り返し。
繰り返す。
指折り数え切れないほど
好きと。
「宍戸。長太郎はどんな子なの?」
「・・・・強いて言うなら犬。」
「犬?」
同じクラス。隣の席の宍戸。
あたしと長太郎にあったことを知っている唯一の奴・・・だと思う。
「長太郎、まだお前のこと諦めてないみたいだな。」
「・・・・・・」
「・・・はどうなんだよ?長太郎のこと、今は。」
「・・・・・・・・あのね・・・」
あたしが長太郎に告白されたのはそう前の話じゃない。
「好きです。先輩。」
「・・・・・・・・・・・・・ごめん。長太郎のこと嫌いじゃないけど」
むしろとても気になっていた存在で
でもまだ好きとは言い切れなかったから。
「・・・・」
「・・・ごめんね」
「いえ、でも俺はやっぱり先輩好きです。」
「・・・長太郎」
「好きです、先輩。絶対振り向いてもらいますから!」
それは、
あなたからの宣戦布告。
あの日から毎日
繰り返される。
「先輩!」
「・・・・(確かに犬だ)」
あたしを見掛けると名前を呼びながら掛けよって来てくれる
背中の向こうに尻尾が見えるよう。
「どこに行くんですか?」
「図書館」
「ついてっていいですか?」
「いいけど・・・」
好きと言う言葉はどうしてこうも簡素で簡潔なんだろう。
「先輩」
「ん?」
「好きです。」
並んで歩く廊下で
あまりにもそれは不意打ち。
惜しみ無く繰り返し
繰り返す。
指折り数え切れないほど
好きと。
「ちょっ長太郎はよくあきないね!そうやってあたしなんかに好きって・・・」
「あきる?どうしてですか?」
「・・・・・」
「何度言っても伝わらないのに」
(伝わってるよ)
あなたからあたしへ
指折り数え切れないほどの好き。
「・・・・」
「・・・やっぱり俺、図書館行くのやめますね。先輩の邪魔しちゃうかも知れないですし。」
「え?」
あたしの向かう方向とは違う方向へ曲がる長太郎
「すみません。迷惑かもしれなくても、それでも先輩が好きなんです。絶対振り向かせてみせますから!」
あたしの向かう方向とは違う方向へ曲がった長太郎。
曲がった廊下の向こうで目線をあわせながら言われた。
・ ・・・・・そんな宣戦布告などしなくても。
あたしの心なら、とっくにあなたにほだされてる
指折り数え切れないほどの好きが、そうさせた。
好きと言う言葉はどうしてこうも簡素で簡潔なんだろう。
それなのにあなたには簡単に言えてもあたしには簡単に言えなくて。
「・・・バカ長太郎。」
好きと言えばいい。
指折り数え切れないほど
好きと。
(言えない)
好きと言う言葉は簡素で簡潔。
好きと言う想いはこんなにも簡単なのに
思考が気持ちを複雑にする。
(言えない)
あたしは図書館とは違う方向へ曲がる。
足は歩きから早足へ
あなたの背中を見つけて走り出して。
「長太郎!」
「・・・先輩?」
周囲には誰もいない。
交友棟へ通じる廊下
好きなんて言える勇気
残念だけどあたしは持ち合わせていない。
自信がないよ。
指折り数え切れないあなたからの好きに
あたしの好きはかなうの?
今度はあたしからあなたに
宣戦布告。
「好きって言って。」
「え?」
言えない
指折り数え切れないあなたからの好きに
あたしの好きはかなわない。
かなわないから。
「あたしもって言わせて。」
「!!」
例え言葉にできても指折り数えるほど好きだと言える勇気
残念だけどあたしは持ち合わせていない。
好きより一文字多いけれど
あたしなりの好きを言わせてよ。
あなたに宣戦布告。
あたしに言わせてみせてよ。
近づく二人の距離。
「・・・・好きです、先輩。」
あの日から毎日
あなたからあたしへ
繰り返し。
繰り返す。
指折り数え切れないほど
好きと。
「・・・・・・・あたしも。」
指折り数え切れないほどのあなたからの好きに
あたしなりの好きはかなっただろうか。
「っ・・・・・・・・・・・先輩!!」
「きゃっ!」
背中の向こうに尻尾が見えるよう。
(犬みたい)
「大好きです!!」
抱きつかれて、今まで聞いた中で一番大きな好きの声。
「・・・あたしもだよ、長太郎。」
残念ながら簡素で簡潔なその言葉を言う勇気をあたしは持ちあわせていないけれど
あなたが言うなら
あたしは返せる。
あたしなりに抱きしめ返すよ。
指折り数え切れないほど
好きと。
End.