あたし達は
内緒の恋をしている。
『シークレット・デイズ』
「「「「「「かっっっこいいー!!」」」」」」」
「・・・・・・・・・」
ウエイターの格好。
白いワイシャツ、黒い布のベストとネクタイ。
膝より下の丈、これまた黒いエプロン。
肩までの髪は縛られる。
誰の格好かって、そりゃ・・・。
「はやっぱり男装だよね!」
「・・・やっあのさ・・・」
「だよねー!そんじょそこらの男子よりかっこいいし!!」
「「「ねえー!!」」」
クラスの女子たちがあたしの周りできゃっきゃっと騒ぐ。
その女子たちはみんなウエイトレスの格好なのに、
なぜかあたしだけがウエイター。
「これでは3年連続男装で決まりだね!」
「・・・・決まり?」
「「「「「決まりー!!」」」」」
海原祭前日。
盛り上がる生徒たち。
授業をすべて返上しての準備丸一日。
うちのクラスは喫茶店に決まり。
「ねえ、丸井くんは?」
「と丸井くんがそろえばうちの喫茶絶対最強!!」
あたしは男顔だそうだ。
身長は160くらいだけど、
周りの女の子はもっと小柄だから。
背は高いほう。
正直、バレンタインとか、普通にチョコをもらったりもする。
「うわっ。やっぱウエイター?」
「・・・・ごめんね。予想通りで」
「「「「「「「かっっっっこいいー!」」」」」」」
すでに喫茶店の内装にそうように飾り付けられた教室で
歓声とざわめきが起こる。
「かっこいいだろぃ?」
「あたしの次にね、ブン太。」
「・・・否定していいのかわかんねえぜ、それ。」
「2人とも並んで!写真撮ろうよ!」
明日の文化祭に向けて盛り上がっていく教室。
明日、ブン太はあたしと一緒にウエイター専門。
ベストとネクタイの感じがあたしとは違うウエイター姿のブン太。
「撮るよー!!」
前日のこの盛り上がり。
一日前でこのテンション。
明日は一体どうなるんだろう。
教室にいるクラスメイトが集まり一つにまとまる。
あたしとブン太はそんなクラスメイトたちの中央に押され、
限りなく近い距離でたつ。
「・・・。」
「・・・え?」
誰も知らない。
シャッターが押される瞬間。
カメラに映らない二人の体の後ろで
あたしとブン太が手を繋いでいたこと。
あたし達は、
内緒の恋をしていた。
「ふー・・・・やっと解放されたな!」
「だね。」
ウエイターの衣装の最終調整が終わり、
他のクラスメイトは明日の仕込みや
最終確認の中、
ウエイタ―専門のあたしとブン太は中庭でくつろいでいた。
ブン太が木陰で仰向けに寝転ぶ。
ゆっくりと瞼をとじたブン太を見ていたあたし。
「寝るの?」
「は起きてて欲しいだろぃ?」
「別に」
「・・・起きてるぜぃ。もったいねーし」
もったいない?
ブン太の隣で座るあたし。
ブン太があたしを見て笑った。
「明日楽しみだな」
「きっと喫茶で忙しくて他は回れないね」
「・・・・ぬけだそうぜぃ?」
「こーら、ブン太」
ブン太は悪戯っぽく笑う。
ウエイターの服を着替え今は制服姿のあたしとブン太。
たまに中庭にいるあたしとブン太を見て女の子達が遠くで騒いでいる声がした。
「モテモテだな。」
「・・・あたし?ブン太でしょう?」
「・・・お前も俺も?ウエイターマジかっこよかったぜぃ?」
あたしは苦笑する。
かっこいいといわれるのは今に始まったことじゃない。
なにしろこの3年間文化祭は男装。
男顔なせいか。
普通テニス部のレギュラーめんつと一緒にいる女子って羨ましがられるけど
あたしは一緒になって騒がれる。
だから、
どんなにブン太と一緒にいてもクラスメイトに何か言われることはない。
だからか、誰にも言ったことがない。
ブン太と付き合ってるなんて。
内緒にしているのではない。
自然に内緒になっていた。
「・・・」
「ん?」
「キスしていい?」
「え?」
聞いたくせに、
承諾も得ない。
ブン太は体を起こし、あたしの唇を奪う。
唇は少しだけ触れて、離れて、
ブン太はあたしの髪を手にとって弄る。
「・・・・俺なんか言った?」
「え?」
「の苦笑い。嫌なことがあったときにするごまかしだろぃ」
「・・・・・・・・・」
あたし達は、
内緒の恋をしている。
「・・・・そんなことない」
「俺をだませるのは仁王だけだぜぃ?」
「仁王にはだまされるの?」
「そこはほっとけ」
かっこいいっていわれる。
ウエイターの服着て男装。
「かっこいいだろぃ?」
「あたしの次にね、ブン太。」
嘘だよ。
ブン太のほうがかっこよかった。
ずっとずっとかっこよかった。
木の葉が一枚あたしの髪を弄るブン太の手をかすめた。
遠くで誰かがブン太の名前を呼んでいる。
また騒がれてる。
羨ましいとかじゃなくて、
一緒にいてかっこいいって。
「・・・・・ブン太は、」
「ん?」
あたしは確かに身長が他の女の子より高いし
バレンタインにはチョコもらうけど、
これでもね、
好きな人がいる普通の女の子と一緒なんだよ
「あたしのこと、好き?」
「・・・・・なんだよいきなり」
だからね、
好きな人にはかっこいいよりかわいいって言って欲しい。
そんなの柄でもないけど。
わかってるけど。
「・・・・・・明日」
「え?」
「やっぱり抜け出そうぜぃ」
2人が手を繋ぐのも
唇を合わせるのも
誰も知らない。
ブン太があたしの髪を弄るのも
あたしがブン太を見つめるのも
誰も知らない。
誰も知らなくていい。
「好きな奴と文化祭中一緒にいて、何が悪いんだよ」
あたしは、
ブン太が好き。
「ねえ、ブン太。」
「ん?」
「キスしていい?」
聞いたのに
承諾は得なかった。
あたしの言葉を聞いた瞬間。
ブン太からあたしにキスをしたんだ。
ブン太の手があたしの髪をすり抜け
あたしの頬に添えられる。
木の葉があたしの手をかすめた。
「・・・・・・。かわいい」
「(!?)」
「そうやって赤くなってると誰もかっこいいなんて言えねえな」
誰も知らない。
あたしは苦笑するときの理由。
誰も知らない。
ブン太がこんなに優しく笑ってくれること。
ちょっとした、優越感。
内緒の恋がくれる幸せ。
「仁王のクラスお化け屋敷なんだとよ」
「・・・・仁王。怖そうだね」
「行くか?」
「ブン太怖いの平気?」
「・・・・・多分?」
明日は文化祭。
きっとクラスメイトには怒られるんだろう。
でも、ごめんなさい。
ブン太と一緒に文化祭まわらせてください。
目の前のこの人がこんなに優しく笑ってくれるから。
あたしなんかよりずっとかっこいいこの人は
あたしを好きだといってくれるから。
「。キスしていい?」
聞いても
承諾なんか得ない
ブン太のキスが好きだと言ったら
きっと調子にのるから
絶対言わない。
でも、これだけは、
言ってもいいんだと思う。
「・・・・ブン太」
「ん?」
「明日手繋いでもいい?」
あたし達は
内緒の恋をしていた。
「・・・そんなこと聞くなよ」
あたしとブン太以外誰も知らない恋を。
断る理由なんかあるかと
ブン太がまたあたしにキスをして、
あたしの髪を弄る。
あたしは笑う。
目の前のこの人が好きで笑う。
少なくとも照れながらそう言ってくれるこの人が好きで笑う。
ねえ、ブン太。
「明日、楽しみだね。」
End.