眠れない夜は一人。
病室のカーテンを開けて見つけては
届かない音のない声を叫ぶ。
見つけて、あの星を。
『シリウス』
「精市?!」
「しー」
の家の二階の窓に小さな石を軽く投げる。
その窓のある部屋は君の部屋。
こつこつと、何度か小石が窓を鳴らせば
が窓から顔を出した。
「まっ待ってて!すぐ行く!」
時間が時間だから、ひそめた声の叫び。
もう太陽は夜に平伏している。
階段をあわてて降りる音の後、
が玄関を勢いよく開けた。
「精市!なんでいるの!?病院は!?」
「しー」
「あ…」
自分が大きな声を出してしまったことに気付いて口を手でふさぐ。
「遅いよ、」
笑いかければ赤くなる。
が動揺しているのは明らかだった。
「抜け出して来たんだ。病院。」
「え!?」
「」
彼女の手を掴んで歩きだす。
「星を見に行こう。」
唐突すぎたのか、は俺に連れて行かれるがまま。
彼女の家の近くに小さな公園を見つけて
その公園のベンチに腰を下ろした。
「精市、体は大丈夫なの?」
「大丈夫だからここにいるんだよ」
まいったな。
心配をかけるつもりで君に会いに来たんじゃないのに。
「よかった、天気がいいみたいだ」
「え?」
「折角と星を見に来たんだ。どうせなら綺麗な夜空が見たかったからちょうどいい。」
空を、仰いで。
「…ホントだ。星がたくさん見える。」
見つけて、あの星を。
「、…一番眩しい星。ほら、あの青白い星、見える?」
「うん、あの一番きらきらしてる星でしょ?」
俺の隣で夜空に向かって一つの星に指を差す。
「シリウスって言うんだ。」
「星の名前?」
「そう、シリウス」
「知らなかった…。いつもなんて名前か気になってた。」
少し、驚いた。
「、あの星を見ていたの?」
「うん、見ちゃうんだ。夜空を見ると一番光ってるから」
この感情をうれしい以外になんて表す。
「…俺の好きな星なんだ。毎晩見ていた星。」
離れた場所から
二人同じ星を見ていたなんて
「なんか、うれしいね。同じ星見てたんだ」
に、先を越された。
「(それでさえ、うれしいとしか言えないけど)」
けれどここからが、
俺が君に会いにきた本当の目的。
「ごめん、」
「…え?」
「本当は今日は謝りに来たんだ。」
入院した俺。
テニスのできない体。
「たくさん泣かせた。」
君の頬に手を触れれば
少し顔をゆがませた君。
「精市が…謝ることなんてない。本当に辛いのは、精市なのに。あたしが勝手に泣いてた。」
「俺のことを想って泣いてくれていたんだよね」
病室にお見舞いに来てくれた
何度か泣いた痕があるのに気付いた。
ずっと君に、謝りたかった。
心配させて、
泣かせて。
「俺は大丈夫だよ。必ずまたあの場所に戻る。」
「…精市」
「もう泣かせたりしない」
シリウス。
今夜は俺の約束の証人になって欲しい。
もう君を泣かせたくないから。
「…精市はシリウスみたい。光っていて、孤高で」
「俺、頑張るよ。必ず戻るから。もう一度、シリウスみたいに」
俺はまだしばらくは日常には戻れない
君の側にはいられない
けれど
夜空に一番輝くあの星ならば
離れていても
俺も君もすぐに見つけられるだろう。
見つけては思い出して
見つめては思い辿って
今宵シリウスが証人の約束。
「今度が泣くとしたらうれし泣きがいい。」
俺はがんばるから。
シリウス。
孤高の光
青白い南の空の星。
「精市、あたし待ってる。・・・だから、早く戻ってきてね!」
「ああ、約束するよ、。」
俺は、しばらくはまだ日常には戻れない
君の側にはいられない
でも今は二人
隣にいるから。
離れた場所から同じ星を見るんじゃなくて
同じ場所で同じ時間に同じ星を一緒に見よう。
闇に包まれ
シリウスに焦がれ
君に約束する。
「必ず戻る。もう泣かせないよ、」
「うんっ・・・うん!」
君が今は泣かないように我慢しているのがわかった。
(うれし泣きなら、いい)
君と見上げるシリウスは
俺達から見える夜空に一等輝く星。
見つけては思い出して
見つめては思い辿って
今宵シリウスが証人の約束。
俺はがんばるから。
もう君を泣かせたくないんだ。
end.