明日が待ってる。





だから、俺は行くよ。





君が見てくれていると信じて。































『白い追憶』





































(コンコン)





静かなノックの後に俺の病室に入ってきたのは複数の看護師。





「幸村君!ここに205号室のさん来なかった?!」


「・・・いえ、どうしたんですか?」


「いなくなったのよ、また。」


「またですか?見掛けたら病室に連れて行きますよ」


「お願いしてもいいかしら。」






そう言い残して看護師達は俺の病室を後にした。





「・・・お願いされちゃったよ、。」


「連れて行かないで、幸村くん。」






ちょうど俺の病室のドアを開けたままでいると死角になる位置



つまりドアが開けば隠れてしまう位置にはいた。





、治療があるんだろ?病室に戻らなくていいのかい?」


「いいの。」







が俺の病室の窓を開けた。






「いい天気だね、幸村くん。」






俺より一つ年下の



同じ病院に入院している女の子。



病院からでることが許されていない彼女は色が白い。



白いこの部屋の白いカーテン。



それより白い肌の色。








「ひどいと思わない?治らない病気だって言うなら病院にいる意味なんてないのに外にでちゃ行けないんだって。」


「・・・、病室に戻ったほうがいい。」







病気を治療する為に病院にいるなら



ここにいる意味はないとは言う。














の病名は知らない。



でも治療法の見つかっていない難病だと聞いた。



、ひどい話なんかじゃないよ。



きっと病院の中じゃないと



君は生きられないんだ。







「外にでたいな。」







それはの口癖だった。







「今日の治療が終わったら一緒に屋上にでよう。看護師さんに頼んで」


「ホント?!」


「うん、だから病室に戻ろう。」


「・・・はーい」













治療法のわかっていない難病。



どんな治療をしていたのか知らないけど



果たしてそれは本当に治療と呼べるものだったのか。



けど何がにとって一番いいのかは



よくわからなかったから。







































「幸村くん、手術するんだって?」


「うん、日程も決まって、成功するかはわからない・・・けど」


「成功するよ!」









は毎日のように病室を抜け出しては俺の病室に来ていた。



結局一度もと一緒に屋上にあがらせてもらえたことはなかった。



白い



白い。



白い。









「外に行きたいな。」


















その願い、俺が叶えてあげられればいいのに。

















。俺の手術が成功して試合ができるようになったら、見に来て欲しい。」


「テニス・・・だよね」


「うん」


「・・・行きたいな。・・・うん。行きたい!見に行く!!」








は真っ白な右手の小指を俺に差し出した。








「約束しようよ。幸村くんはテニスがまたできるになること。あたしは幸村くんの試合を見に行くこと。」







治療法の見つかっていない難病。



それでもはいつだって強い。



外を眺めて外に行きたいと希望を口にする。



まっすぐな目で俺を見据えて約束をしようと言う。



は、強い。







「ああ、約束だ」






結んだ小指。





































「退院。明日?」


「うん。」






は白いまま。



手術が成功して俺の退院が近付くにつれて



はひどくやせていった。



それでもは俺の病室へ来ることをやめない。







、そろそろ病室へ戻ったほうが・・・」


「嫌だよ。もうじき幸村くん会えなくなっちゃうのに。」


「・・・会えるよ」


「え?」


は試合、見に来るんだろ?」











会えるよ。



外に出られるよ。



と結んだ小指をに見せるように前にだした。









「約束しただろ?」


「・・・うん!」








強い



白い



笑った



かすかに涙をその目に浮かべて。




















俺の退院の日。



の病室を訪れたけど



病室のドアのノブにかかっていた面会謝絶の札。



会いたかった。



ドアを開きたかった。







けれど



約束を信じて



俺はメモを残した。



の病室のドアの下にはさんだメモには



俺の携帯番号。



‘掛けたくなったらかけてくれ’



そんな任せな言葉をそえて。




































初めてかかってきたからの電話に俺はでられなかった



真夜中の2:00。



が俺にかけてくれた電話はそれが最初で最後。














すまない、













君の悲鳴は俺に聞こえなかった。



は二人で行けなかった屋上に一人でのぼって






















































一人で落ちていった。


















































君がかけてきてくれた電話。



俺に何か伝えたかったのか?



止めて欲しかった?







強かった



きっと病気になんか殺されたくなかったんだ。



自分の命をその白い手で。













の自殺を知ったのはニュースだった。



朝いつも通り目覚めて



見ていたテレビに映し出された彼女の名前。



向かうのは学校じゃなくて病院。

















「そんな!会わせて下さい!に!!」















病院についてもの遺体には会わせてもらえなかった。





「見ないほうがいい」





それが看護師からでた言葉。



は、泣いていたそうだ。



閉じた目から涙を流していたと看護師が教えてくれた。





、何が悲しかった?



悪い夢でも見たのか?





がいつも見ていた太陽の照る昼間の外じゃないけど



外にでれた























「・・・約束、守ってくれないんだね、。」






















見つめた自分の小指。



白い



白い肌。白い病室。



白い指。











結んだ小指をほどかずにいられればよかったのに。





























「俺は、守るよ。」

































病院を後にする。



着いた学校で



授業なんかうけずに



一日中テニスコートでラケットを振った。







が出たいと言っていた



太陽の照る昼間の中。



結んだ白い小指を想い続けた。






(俺は、守るよ。)






明日が待ってる。



だから、俺は行くよ。



君が見てくれていると信じて。







約束を果たす為に。






君が出たいと言っていた太陽の照る昼間の中で














































白い君を、俺は想い続けた。


























end.