きっと世界には






叶う恋より叶わない恋のほうが多い

































『側に』

































あたしは低血圧



朝はつらいことがほとんど



学校で朝礼があったりすると倒れる常習犯






「・・・景吾?」


「よう、。気分は?」


「よくはないかも。」






ぼんやりと視界が開けて



あたしには今自分が保健室のベッドの上にいることも



今目の前にいる人が景吾であることも



見慣れた風景だったのですぐに分かった。






「無理そうだったら朝礼でなくていいって言ってんだろ?」


「そんな言い方しなくてもいいじゃない、景吾」


「いつもが倒れる度、心配する俺の身にもなれよ。」


「・・・はーい」






あたしはすねた顔をする



景吾は怒った顔をする







「・・・くくっ」







二人のすねたフリと怒ったフリ。



おかしくて顔を見合わせて笑って。












「・・・景吾」


「あん?」


「ごめんね」









あたしはベッドの上、申し訳なさそうに布団を口元までかぶった。















「景吾、手冷たい・・・」


「嫌か?」


「ううん、気持ちいい」










あたしが謝ると景吾はいつもあたしの手を握って



優しく笑いかけて許してくれた。







「しばらく休めよ。が起きるまで側にいてやる」


「・・・うん」








うれしかった。



景吾はいつだって優しい。



あたしは景吾が好きだった。



景吾もあたしが好きだと言ってくれて







うれしかった。
































いつかは終わる恋だと知っていても。













































































































。・・・どうした?気分が良くないのか?」


「違っ・・・違うの景吾。」






幸せなのにうれしいのに



涙はでてくる。











噂を聞いた。










それは噂だけど



みんなが知ってる真実だった。








。どうした?」







冷たい景吾の手



頭がぼうっとしているあたしには



心地いい体温



愛しくて愛しくて



景吾が握っていてくれる手を引き寄せて



あたしの手ごと抱き締めた。







ねぇ、景吾。






いつまで手を握り締めていてくれるの?
















































「噂を・・・聞いたの・・・・」


「噂?」





































































































































「景吾に婚約者が決まったって」


「(!)」




















































知っていたよ。



叶わない恋なんだって



いつか絶対終わりが来る想いなんだって。









「本当なんでしょ?景吾」


「・・・・ああ」






景吾は景吾の家を継がなきゃいけないから



ちゃんとした婚約者がいるんだって



あたしが景吾に気持ちを伝える前に聞いたことのある話。



もちろんそれは、あたしじゃない。








だから、知ってたよ







想いが通じても



景吾があたしを好きって言ってくれても



これは叶うことのない、景吾がくれる幸せな恋なんだって






「・・・どうして言ってくれなかったの?」






理由も教えてくれないまま



手を離しちゃうつもりだった?






















お願い。



まだ記憶になどしないで

















に言う必要ねぇだろ?」


「そんなっ・・・」














終わりがあると知っていたから



終わりなら今でもいいよ









でも



お願い。



まだ記憶になどしないで





























世界にたくさんある叶わない恋の中で



こんな幸せな叶わない恋



喜ぶべきことかも知れないけど



泣きたくなるんだ。








お願い。



叶わないのは分かってる



だけどまだ記憶になどしないで。



好きだから。



景吾が好きだから。


















































「親父が勝手に決めたことだ。婚約なんてすぐに破棄させる。」


「(!!)」


「だから、お前は知らなくていいことだったんだよ、。」










知っていたよ。



これは叶わない幸せな恋なんだって。










「・・・でも、景吾にはちゃんとした婚約者が必要なんでしょ?」


「ちゃんとってなんだよ?」


「・・・・」





















景吾があたしの手を強く握りなおした。












「俺は婚約者にするならがいいんだよ。」


「・・・・・・・」


「こんな事で泣くなよ、。」










流れたままの涙を景吾があたしと繋いでない方の手で連れ去った。







































「泣くぐれえならが俺の婚約者になっちまえばいいだろ?他の誰も俺の婚約者を名乗れないように。」


「・・・・無理だよ。あたしなんか・・・。」


「無理じゃねえよ。俺ががいいんだ。」














あたしはベッドの上、景吾の手をあたしの手ごと抱きしめたまま。












「でも・・・」


「なんなら、既成事実でも作るか?」










景吾のあたしと繋いでない方の手が、あたしの顔のすぐ隣へ置かれた。



ベッドのきしむ音。





























‘なんなら、既成事実でも作るか?’

























































































記憶になど、しないで。



思い出す必要もないほどあたしは景吾の側にいるから。



目の前のあたしを見ていて。





















































世界中にあるたくさんの叶わない恋の一つを





あなたが





幸せな、叶う恋へと染め上げた。
































end.