もしも、たった一人を好きで居続けることができるなら
たった一人を好きで居続けたなら
俺はお前を
不幸にする。
『その目の中にこの身を置く』
平等。
その言葉を存在させるのは俺の彼女だ。
そんなことが思い浮かぶほどはいつだって誰にだって等しく接し、ふるまう
男からも女からも慕われて
笑顔の中心にはいつも。
「・・・・・」
見つける姿は誰かに囲まれているところしか見たことがない
男も女もの周りには人がいる
「・・・」
騒がしい教室の中
廊下に立って開いてるドアから口にしただけの名前に
が気付いた。
を囲んでいた奴等に何か声をかけ
俺のところにやってくる。
「雅治、どうしたの?」
「・・・別に。呼んだらが来ただけ」
「だって、雅治呼んだでしょう?」
「・・・・・」
は、いつだって
誰にだって等しく接し、ふるまう
俺でさえも
その目は他の奴等を見る目と等しい。
別段、要求があるわけでもない。
それが彼女のいいところでもあるし
俺が好きになった一面でもあるから
・・・・・・ただ。
「・・・」
「ん?」
「お前さんあの集団の中に気になる男でもいると?」
「え?」
俺の見つめる先にはではなく
教室の中、さっきまでを囲んでいた複数の男女
俺との方をちらちらと見て話している
は俺の視線を追いかけて教室の中へ振り返る
「いっいるわけないじゃない!あたしは雅治と付き合ってるんだよ?」
「ふーん、そうか・・・はただの男好きなんじゃね」
刹那、
俺を見るの目は
戸惑い、驚愕。
「・・・またな、」
俺はお前の前から去って行く。
まだ、お前さんは俺を見ているんだろう
(・・・これでいい)
傷つけることでしか、知らない。
が俺を見る目が
他を見る目とは違うようにすること。
戸惑い、驚愕。
傷つけることで確認する
俺は他の奴等と違う
俺はの特別。
誰にでも平等な、の。
いつから、を傷つけることを覚えたのか
「あのね、今日は早く部活が終わるんだって」
「・・・ふーん」
「バスケ部のコーチがね、入院して・・・」
「先に帰っててもよかよ?」
「・・・・・・・」
「俺のこと待ってなくてもよか。部活早く終わるんじゃろ?」
「・・・・待ってるよ。一緒に帰ろうよ。」
休み時間の廊下での会話。
わざとを傷つける様な言葉を探す。
言葉をナイフに変えてに切りつける。
「毎日一緒に帰ることもなか。」
「・・・・どうして?どうしてそんなこと言うの?」
「・・・・・」
好きだからだ。
なんて都合のいい理由。
「俺は思ったことを言ってるだけ。」
戸惑い、驚愕、あせりの色をしたの目の中にいる俺を見た。
(・・・・これでいい)
その目はみんなに平等に与えられているの視線じゃない。
たとえ、それがを傷つけることになっても
俺は、ただ。
は、いつだって
誰にだって等しく接し、ふるまう
俺でさえも。
別段、要求があるわけじゃない。
それが彼女のいいところだと分かっているから。
ただ。
だからこそ、俺だけは違う目で見てほしかった。
たとえそれが戸惑い、驚愕、あせりであっても。
を傷つけることでしか得られなくても。
平等ではないその目の中にこの身をおいて
好きだからこそ、を傷つけた。
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
帰り道ではお互いに言葉が出なかった。
俺の後ろからこつこつと静かについてくるの靴音が妙に愛おしい。
(・・・・・醜い)
どろどろと。
色で表せば黒。
天気で表せば雷雨。
別段、何かを要求するわけでもなく
ただ、勝手に俺を見るの目が他者を見る目と同じにならぬように
を傷つける言葉を沈黙の帰り道にでさえも探す。
いつから、を傷つけることを覚えたのか。
いつから、を不幸にすることしかできなくなったのか。
「ねぇ、雅治。」
沈黙はが破った。
声のする後ろを振り返るとが足を止めた。
俺も同じようにその場で足を止める。
「何?」
「別れよっか。」
「・・・・・・・」
「ね?」
いつから、を不幸にすることしか出来なくなったのか。
「・・・がそうしたいならそうすればよか。」
自分でも驚くほどに口から出てきたのはあまりに無表情で冷たい言葉。
俺はまだ懲りずにを傷つけようとしてる。
「・・・・・雅治は?」
「・・・・・・・」
「・・・・雅治、最近冷たい。あたし何かした?雅治はあたしが嫌いになったんじゃない?」
「・・・・・・・」
「だったら、分かれようよ。もう・・・・・嫌だよ。」
‘傷つくのは。’
好きだから、を傷つけた。
好きだから。
なんて都合のいい理由。
ただ他者と平等なんて嫌だった。
にとって俺もその他大勢の中の一人。
(・・・・・醜い)
は下を向いている。
「・・・・・嫌いになんてなってなか。」
「・・・・・・・・」
「・・・・・俺は、ただ・・・」
知りたかった。
俺がの特別であること。
傷つけることでしか確認できなかった。
「が、好きなだけじゃ。」
を不幸にしかさせてあげられない。
愚かな、俺。
「はみんなに同じ視線向けるから、嫌だっただけ。」
「・・・・・・」
が俺をその目に映す。
まずい。
怖い。
いつもを傷つける言葉を探していた俺。
怖い。
今も、探してる。
みんなに向ける平等な視線じゃなくて、ただの特別がほしかった。
たとえそれが戸惑いであっても驚愕であってもあせりであっても。
好きだから、傷つけた。
「・・・・・雅治、あたしのこと好きなの?」
「・・・好きじゃ。」
「嘘。」
「・・・・本当。」
「っ・・・・」
「?」
の目から、涙があふれた。
「うれしい・・・・・」
「え?」
「嫌われたと思ってた・・・・」
の泣き目が俺を見る。
嘘じゃろ?
この言葉にそんな力があったなんて。
こんな言葉でお前はそんなにうれしそうな目を俺にむけてくれるのか?
「・・・・・知ってたら、もっと早くに言ってた・・・」
「え?」
「。」
の近くまで行ってを抱きしめた。
こんな言葉でお前はそんなに幸せそうな目を俺に向けてくれるのか?
今まで見たことのないような。
「好いとうよ、」
「雅治。」
「・・・・・・好きじゃ、。好き好き好き好き。大好きじゃ。」
この手にを閉じ込めたままの肩越しに何度も言う。
「好き。好きじゃ、。」
知らなかった、この言葉にそんな力があるなんて。
お前がそんな目を俺に向けてくれるなんて。
傷つけることでしか知らなかった。
お前の特別であること。
「雅治」
重ねた唇が温かい。
好きだから、不幸じゃなくて、幸せに。
そうしてあげたかったのに、傷つけて。
手遅れでないなら、今からお前を幸せにしてあげられるだろうか。
「、今までごめん。」
「・・・・・・」
「好いとう、。俺を見てて?の特別で」
みんなと等しくではなく。
「あたしのこと・・・。」
「・・・・・・・・好き」
「・・・・・・・うん!あたしも、雅治が好き。」
幸せそうなその目の中にこの身を置いて。
好きだから。
そんな都合のいい理由で
を幸せにすると、誓わせて。
傷つけることしか知らなかった、
俺の償い。
end.