余命宣告一か月
離別宣告一か月
きしむような体の痛みは
短くも長い一日を
もう20回以上過ごし。
『想葬』
「(!!)!!」
「久しぶりだね、景吾。おはよ」
「お前、体は・・・」
「・・・もうね、大丈夫なんだ!退院したの!」
初めてあなたについた嘘は
‘大丈夫’って
そうだったらいいのになんて
見たこともない誰かに願うような
そんな嘘。
「・・・」
「そんなに驚かないで。あたしちゃんとここにいるでしょ?」
「」
存在を確かめるように名前を呼ばれて
景吾があたしへ腕を伸ばす。
景吾の腕の中は
温かった。
あたしは
不治の病。
余命宣告一か月
離別宣告一か月
それはもう一か月前に聞かされたこと。
「景吾」
「・・・・」
二人きりの生徒会室
きしむ体
締め付けられる心
本当は立ってるのだって必死
「・・・」
「・・・・」
あたしの顔色はいつも通りだろうか。
(メイクがんばったんだけどな)
あたしの体はまだ
あなたと同じように温かいだろうか。
「・・・また、側にいてもいい?」
今日、一日だけ。
景吾からの返事は
キスだった。
「無理よ、」
「お願いお母さん、今日一日だけでいいから・・・」
「・・・無理よ」
「お願いします」
あたしはもうじき死ぬのでしょう?
あの人の側にはいられなくなるのでしょう?
「お願い・・・します」
会えなくなる前に、会いたい。
「」
「ん・・・」
余命宣告は一か月
離別宣告は一か月
それは一か月前に聞かされたこと
「・・・・・」
一か月前から突然あなたに会えなくなった。
面会謝絶
きしむ体
締め付けられる心
「景吾」
あたしは今、景吾と一緒に景吾の部屋にいた。
「・・・よかったの?」
「あん?」
「生徒会長が学校サボって」
「・・・さあ」
「さあって・・・」
繰り返されるキス
一か月ぶりに会えたのにろくな会話も交わさない
抱き締めあって
名前を呼んで
キスをして
それだけで
よかったんだ。
「景吾」
あたしの体はまだ温かいですか。
一か月ぶりに会ったのにろくな会話も交わさない
きしむ体
締め付けられる心
それでもあたしの心はあなたの前ならゆるがないから
あたしが倒れこむことはない。
「・・・会いたかった」
「・・・」
「会いたかっ・・・た」
あなたに会えない一か月
あなたへの想いの重さを嫌と言うほど思い知らされた。
「」
なのに
もうじき名前さえ呼ばれても聞こえなくなる
あたしはもうじき死ぬので
あなたに会えなくなる。
「・・・会いたいな。明日も明後日も。景吾に」
「・・・会えるだろ?これからも側にいる」
抱き締めあって
名前を呼んで
キスをして
あたしの体はまだ温かいですか。
「・・・」
「何?」
「」
キスは止む
景吾があたしを抱き締めて
あたしの顔は景吾の肩の上
景吾の顔はあたしの肩の上
お互いの顔が見えない
「。・・・。」
名前は止まない。
・・・この人は
知ってるんだ。
もうじき会えなくなること。
誰かの隣にいることがこんなに難しいことだなんて。
「会いたいな・・・明日も」
「・・・明日まで一緒にいればいいだろ?」
「ううん、できないの。母さんに無理を言ったから」
「」
「・・・大丈夫」
‘大丈夫’
怖いのは死ぬことじゃなくて
あなたに会えなくなること。
今日の日をこの目に焼き付けよう。
あたしが死んでも
あなたを忘れないように。
「ありがとう・・・景吾」
抱き締めてくれて
名前を呼んでくれて
キスしてくれて
あたしを
好きになってくれて。
「」
死ぬなら今がいいな。
あなたの腕の中で
キスを交わして
名前を呼ばれながら。
死ぬなら、今がいいな。
あなたの腕の中で
キスを交わして
名前を呼ばれながら。
その日、景吾に自宅ではなく病院へ送ってもらったあたしは
夜、息を引き取った。
こんばんは景吾の夢を見てたのに。
あたしは、死んだので
もう、あなたに会えないんだね。
end.