いじっぱり、強がり。



プライドが高くて



初めて出会ったとき



ほんの、少し



本当に少しだけ。



俺に似ていると思った。





















俺の、幼馴染み。














































『Stand by you』










































「無理だっつってんだろうが。」


「できるって言ってるでしょ?!」


「まぁまぁ、落ち着けや2人とも」


「・・・・なんでお前がいるんだよ」


「2人がケンカ始めたら俺しか止められへんやん。」


「何様だ、あん?」


「伊達眼鏡のくせに」


「ひどない?2人とも。それに伊達は関係あらへん。」


「割るぞ、伊達。」


「怖っなんでやねん!!」





廊下での騒ぎにくすくすと周囲から笑い声がした。



がくっと肩を落とすのは忍足。



そんな忍足を無視して俺に視線を戻したのは、





「・・・景吾だってこの間1人で会計報告書作っちゃったくせに。」


「あんなものただ数字を打ち込んだだけだ」


「だからこれはあたしがやるよ!」


「無理だっつってんだろ?量が多すぎるんだよ」





は生徒会副会長。



今度の生徒総会で仕上げなければならない資料の束を抱え、



俺に渡そうとしない。



昔から一度決めたことは断固として譲らない。



いじっぱり、強がりな





「・・・・はあ」


「何、景吾。その溜息!」


「なあ、。確かにその書類の量を1人で片付けるんは無理やわ」


「できるったら!」





忍足はよく俺が生徒会の仕事を手伝わせていたので



いつの間にかとも普通に接する仲。



学園の中で俺たちは大抵いつも



3人でいた。





「・・・会計報告書作るん手伝えなかった気持ちはわかるわ。今度は仕事分ける言うても結局跡部の手を煩わせる、それが嫌なんやろ?


「・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・。」


「あっちょっと景吾!!」





が忍足に気をとられているうちに



俺はの手から資料の書類を抜き取った。



俺はすばやくその書類の山を上から3分の1ほどとっての手に返す。



そして残りの2分の1ほどを忍足に押し付けた。





「3等分だ。文句ねえな?」


「・・・景吾・・・」


「ある!3等分って何?なんで俺の分があるねん!!」


「俺の負担が減る。だろう?。」





俺が笑みを浮かべてを見ると



は少し驚いたように俺を見返した。



しまいに忍足が肩を落とし、





「お姫さんのためやったら断れへんな」





が、俺の手を煩わせるのが嫌だというなら。



今度は忍足が笑みを浮かべと視線を交わした。



がもう一度俺を見る。



が、笑う。



小さく、わかったと言いながら。



俺と忍足はそんなを見て少しだけを目をあわせた。



は俺の幼馴染。



昔からいじっぱり、強がり。



忍足はよく俺が生徒会の仕事を手伝わせていたので



いつの間にかとも普通に接する仲。



学園の中で俺たちは大抵いつも



3人でいた。








































「あっ跡部。ほら、あれやん」


「あ?」





昼休みの食堂。



窓際の一番隅の席。



頬杖ついて、



持ってきているトレーの上には飲み物だけ。





「・・・・1人、みたいやな」


「・・・・・・・」





は、いじっぱり、強がり。



勉強もスポーツも、



何でも、他と比べて一際できるように育てられたため



プライド高く。





それは、を孤独にしていた。





本当は、





「・・・おい、忍足」


「わかってるわ。・・・ホンマ仲良しさんやなぁ、お前ら。」





本当は勇気がなくて、



いつも誰かが声をかけてくれるのを



待っているだけなのに。









。」


「・・・景吾」


「一緒に食うだろ?」








が座る席の隣に腰掛ける俺。



と向かい合うようにして座った忍足。



が、笑った。



俺と忍足はそんなを見て少しだけ視線を合わせる。





「なあ、2人とも幼馴染やろ?初めて会ったときのこと覚えてる?」


「・・・パーティーだよね、景吾。」


「ああ。」


「小さい頃の2人はどんな感じやったん?」


「「こんな感じ」」





俺とは同時に声を発していた。



同じ言葉で。





「人を指差すんじゃねえよ、。」


「そのまま返すよ、景吾。」


「ははっ・・・・ホンマ仲ええなお前ら。俺幼馴染っておれへんからうらやましいわ。」


「だって、忍足。景吾って昔から俺様なんだよ?」


だってそうだろ、昔からいじっぱり。」





忍足が腹をかかえて肩を震わせていたのを、



俺とは気付かない。



お互いに失礼にも指を差し合って、



あーだこーだと言い合う。





「昔からかっこつけ」


「昔から強がり。」


「初めて会ったときだって、俺についてこいみたいに言われてさ」


「初めて会ったとき、星が綺麗だから見せてやるって言ったら、別にいいの一点張り。」


「あれは景吾がえらそうだったからでしょう?」


「誰だよ、しまいには早く見せろって騒ぎ出したのは。」


「・・くくっ・・・・ははっ・・・・・」





ついにこらえていた笑い声を出した忍足を俺とは凝視する。



なにがそんなにお前のつぼにはまったんだ。



忍足は笑い続ける。



俺とは忍足を睨み続ける。







「ホンマ、羨ましいわ」


「・・・・俺は傍観者でそこまで笑えるてめぇが羨ましいぜ?忍足」







あきれながら言った俺。



はきょうとんとした顔で忍足を見たが、



俺の言葉に笑顔を見せる。



こんなに騒がしい昼も珍しくはなかった。



と俺は幼馴染。



生徒会長の俺は忍足によく生徒会の仕事を手伝わせ、



副生徒会長のは次第に忍足と仲良くなり。



学園の中で俺たちは大抵いつも



3人でいた。



そんな毎日が当たり前だった。



そんな毎日が。



当たり前だと思っていた。















































































































































































































































































「景吾。あたし・・・忍足と付き合うことになった」





















































































































































































































































































































夕日が、斜めに降りていく。



部活がない、放課後。



俺とは生徒会室で生徒総会の資料整理。



沈黙の続く生徒会室で突然がぽつりと口にした。



ほんの少し頬を赤らめて。



俺に、



俺に何が言えたか。





「・・・・・・・・」


「・・・好きだったのか?」


「・・・・・まあ。・・・・・・関西弁だけど。伊達眼鏡だけど。」


「・・・・・・・・」


「・・・やさ・・しい。」





の、声だけが



透き通って。



俺の耳に、真っ直ぐ届き。



世界中の音も、時間も止まったみたいに。



ただ、夕日だけが斜めにその姿を落としていく。







「・・・・・・・よかったな」






俺に何が言えたのか。



喉から出てきたのはそんな乾いた一言。



俺の喉はそれ以上声にしたらきっと枯れてしまう。



そう思うほど、やけに喉が渇いていて。



再びの沈黙に



俺を見て、



顔を赤くして微笑む



とても、幸せそうだった。


















「跡部!」


「あ?」


「あ?じゃねえよ、どうしたよ。なんかぼうっとしてるぜ?」


















俺に声をかけてきたのは宍戸。



朝のテニス部の練習中。



なんでもないと言って俺はラケットを握りなおした。





(・・・なんで、今更)





なんで今更気付くのか。



一緒にいたのに。



昔から知っていたのに。



のことが










好きだなんて。










「なんや、。見に来てくれたん?」


「偶然ね、偶然。」


「・・・・・・偶然でも、うれしいけどな。」









が、コートを囲む石の階段に座って練習を見ていた。



それに気付いた忍足がに話しかけ。



俺はそんな2人を目にしていた。



そこに俺の居場所はない。




(なんで、今更。)




今更気付くのだろう。



の幸せそうな顔。



忍足を見る目。



近くにいすぎたんだろうか。



カメラのピンボケみたいに近すぎて、



ぼやけて、見えなくて。



俺の想いも。



の想いも。



近すぎて。



学園の中で俺たちは大抵いつも



3人でいた。



そんな毎日が当たり前だった。





「ほな、またな。」


「うん、がんばってね。」





けれど、



全てに気付いても、



俺の心はなぜか静かで。



とても静かで。



いじっぱり、強がり。



プライド高く。



それは、いつもを孤独にさせる。



でも、笑っているから。



笑っているから。



幸せそうに、笑っているから。



それで、いいと思った。



それでいいと思う俺がいた。














「ほら、跡部。ちゃんと資料の清書終わらせたで?」


「・・・・・遅せーよ」


「なんで?俺がんばったやん!生徒会役員やないのにがんばったやん!!」


「・・・・・忍足本当にがんばった人は自分でがんばったって言わない。」


「ひどない、!」












俺たちの関係はまるで変わらなかった。



変わりようがなかったの方が正しい。



が副生徒会長で忍足が生徒会を手伝いに来てるかぎり俺がそこにいるのは変わらない。



昼だって俺ができるだけと忍足に会わないようにしても



が俺を見つければ、俺を2人の間に割りこまらせる。



いきなり変わるってほうが無理だった。



もとは一緒にいたのは俺と



忍足もも俺がそこにいてもいつもと変わらず笑っていた。



3人でいる毎日は変わらなかった。



でも、



それでいいはずなかった。



と忍足は付き合っていて、



俺はにとってただの幼馴染にすぎなかったから。





































































































































































































































































。どうした?遅せぇよ。」


「・・・・・・・・・」


?」





の気配が生徒会室の入り口に立ったまま



それ以上中に入って来ようとしなかった。



俺は引き続き生徒総会の資料の整理に目を配り、手を動かしていたが、



そんなを不思議に思っての顔を見た。





「・・・・・?」


「・・・・・・・あたし何かしたかな?」


「・・・・・・・、どうした?」





は生徒会室の床をただ見つめていた。



正確には何も見ていなかった。



俺はに近づいて様子がおかしいの肩をつかんだ。





「おい・・・」


「・・・・って」


「え?」


「別れようって、言われた。」


「(!!)」





顔をあげた



その瞳は空虚で。



無表情で。





「忍足はどこだ?!!」


「・・・・・・・・・」


「ちっ・・・・・・」





俺はを生徒会室に1人残す。



校舎を走り回る。



きっとあれ以上何を言っても



は忍足の居場所を言わないだろうから、言えないだろうから。



わかっていたはずだった。



俺たちの関係がこのまま続くなんてそんなことあっていいわけない。



理由なんて明快だった。



が選んだのは俺じゃない。



他の誰でもない、忍足だった。



それだけだ。


















「っ・・・・・忍足!!」


「(!!)跡部・・・・・・」















誰もいない廊下。



そこから外を眺めていた忍足。





<ドカっ>





「つっ・・・・」


「てめぇ!どういうつもりだ?!」





鈍い音の後、



忍足がよろけた。



俺はこぶしで忍足の頬を殴りつけるとそのまま胸倉を掴んで忍足に詰め寄った。



壁に忍足を押し付ける。





「・・・・・なんや、顔はやめえや。せっかくの色男がだしなしやん」


「・・・・・・に別れようって言ったらしいじゃねえか」


「やっぱお前ら仲ええな。・・・もう知っとるん?跡部。」


「どういうつもりだ、忍足。」


「そういうつもりやけど?」





俺は忍足の目を睨む。



忍足は嘲笑するかのように俺を笑って見ていた。



俺が殴った頬が少し青くなっている。



の、表情が。



俺の頭の中に浮かんで。



幸せそうなあいつ。



空虚な目のあいつ。





「・・・・・・のこと好きじゃなかったのかよ?!」


「・・・・・・それはの方ちゃうん?」


「は?」


「よかったやん。大事な幼馴染が俺の手から離れて。」


「てめぇ・・・・・」


「跡部かてのこと好きやったんやろ?」


「・・・・・・・・・・・」


「俺が気付いてへんとでも?」





・ ・・・・それでも。



あいつが選んだのは俺じゃなかった。



他の誰でもない、



お前だった。



俺の、忍足の胸倉を掴む手が緩んだ。



その瞬間、



俺は背中に衝撃を感じる。






<どんっ>





「・・っ・・・・・忍足!てめっ・・・・」


「よかったな、両思い」





忍足の手が俺の胸倉を掴む。



俺の手は忍足からはなれ、



さっきとは逆に忍足が俺を壁に押し付ける。





は・・・・は結局お前のことしか見てへん。」


「っ・・・・・・・・・」


「・・・・告白したんは俺からや。はいいって言うてくれたけどあんなんあいつの優しさやったんやろ?」





忍足の目は俺の目を貫こうとしていた。



俺は忍足の言葉に少し驚き、



そして、



笑った。





「・・・くくっ・・・・・・」


「・・・・・何がおかしいねん」


「・・・・おかしいな。お前の全てが。・・・・・・お笑いだな、伊達眼鏡」


「なっ・・・・・」





形成、逆転。



静かに、



静かに一瞬にして忍足は俺に床に倒される。



俺は再び忍足の胸倉をつかむとその目を睨む。





「優しさなんかであいつがてめぇなんかと付き合うかよ!」


「跡部っ・・・・・」


「あいつはてめぇを選んだ!俺じゃねえ、お前をだ。忍足。」





忍足の目が見開く。



俺は胸倉を掴む手に力を強める。



沈黙の中で俺はひたすら忍足の目を睨んだ。



忍足の目の奥を睨んだ。





「跡部・・・お前は・・・が好きなんちゃうんか」


「・・・・・・ああ。好きだ。」


「・・・・・・・」


「お前がに会う前よりずっと。・・・・・・・ずっと。」





気付けたのは最近だが。



この想いは、知っていた。



ずっと知っていた。





「俺は、が好きだ。・・・だから。」





ずっと、



出会ってから。


























































































































































































「泣かしたら殺す。」















































































































































































こんな、ムキになって。



意味もわからず忍足相手なんかに怒鳴って。





「忍足。お前はが好きなんじゃねえのかよ」





らしくもない。



それでも。


















「・・・・・・・好きや。めっちゃ。」

















お前が俺を選ばなくたって、







守ってやりたいんだよ。






俺が忍足から手を離す。



忍足は起き上がって駆け出した。





「生徒会室やろ?」


「ばーか。てめぇで探せ。」





不敵に笑うのはお互い。



忍足の姿が消えた廊下で俺は壁にもたれて座った。



忍足を殴った手がいきなり少しずつ、



今頃痛み出してきて。





「・・・・・・・・・らしくねぇ」





誰にも届かないのを知っていた。



この手の痛み。



このつぶやき。



この胸の痛み。



この自嘲。







「・・・・くくっ・・・・・」






気付けたのは最近だが。



この想いは、知っていた。



ずっと知っていた。



決めてたんだ。



初めて会ったときから。



いじっぱり、強がり。



プライド高い。



それはお前を孤独にしていくから。



たとえ世界中がの敵になっても





































































































俺だけはの味方でいると。





















































































































































































初めて会ったときから。



たとえお前が俺を選ばなくたって、



守ってやりたかったんだよ。



その笑顔を。



だから、



笑っていてくれるならそれでよかった。



それでよかった。



俺の想いがに届くことはなくても。



が幸せそうに笑ってくれたから。

































































































































































































































「無理だっつってんだろうが。」


「できるって言ってるでしょ?!」


「まぁまぁ、落ち着けや2人とも」


「・・・・なんでお前がいるんだよ」


「2人がケンカ始めたら俺しか止められへんやん。」


「何様だ、あん?」


「伊達眼鏡のくせに」


「ひどない?2人とも。それに伊達は関係あらへん。」


「割るぞ、伊達。」


「怖っなんでやねん!!」





廊下での騒ぎにくすくすと周囲から笑い声がした。



俺とが睨みあう。



の手には分厚い封筒。



中身は文化祭についての書類一式。





「わかってんのか?今までとは規模が違うんだよ」


「誰よ、最終的に生徒総会の事後報告書1人で作って職員会に提出しちゃったのは!」


「あんなものただ意見をまとめただけで・・・」


「これはあたしがやるよ!」


「そこまでくるとできるもんならやってみろって言いたくなるぜ?


「こーら、。」





忍足がの頭にぽんっと手を置く。



の動きが一瞬とまり、



俺はその隙にから封筒を奪う。





「あっ!」


「忍足にもちゃんとわけるから安心しろよ、


「・・・俺が不安や。」





は俺と忍足の顔を交互に見る。



忍足ががくっと肩を落とすと、



が苦笑して見せた。



それを見た忍足があわてて顔をあげると



今度はが思いっきり笑った。






「・・・・・・・・・そうやって笑っていたほうがいい」


「え?何、景吾。」


「・・・跡部。俺お前が怖いわ」


「なんの話?忍足」


「諦めたとは言ってないぜ?俺は。」


「・・・・・負けへん。」


「・・・何の話?」






決めてたんだ。



初めて会ったときから。



いじっぱり、強がり。



プライド高い。



それはお前を孤独にしていくから。





「泣かすなよ。」


「わかってるわ」


「だからなんのっ・・・・」


は昔からか変わらねえって話。」


「・・・・・なんでそんな話してるの。」





初めて会ったときから。



たとえお前が俺を選ばなくたって、



守ってやりたかったんだよ。



その笑顔を。



たとえ世界中がお前の敵になっても












































































































































俺は、お前の味方でいるから。










































End.