真正面から向き合わなければならないのは「敵」





なら、真横で同じ砦に立つ仲間は「味方」





たとえ、横顔しか気にかけてやれなくたって。






















































『ストロベリー・ピンク』





















































<キーンコーン・・・・>





チャイムの音が校舎中に響いていた。



席から立ち上がっていくクラスメイトの声が、いつものように騒がしい。



ばたばたとどこかに走っていく生徒もいる。



そういう奴らの行動はなんとも簡単に予想がつく。



学食に行くか、購買で人気のパンを買うか。



昼休みになれば、それは日常の光景。



そりゃそうだ。俺たちの昼休みをなめんなよ。



いい場所取り。うまい昼食取り。これは基本中の基本で。



大げさに言えば戦争だ。




(・・・・今のは大げさすぎた。)




とにかく、授業の後半あたりから、いや、もしかしたらもっと前からやってきていた空腹感。



それを満たすためにあるのが、今の時間。



騒がしい教室。すでに昼食を取り始めているクラスメイト。これからどこに移動するか話している生徒。



そんな様々な様子の生徒の中で、俺も自分のカバンから昼食のパンが入っているビニール袋を取り出した。



席から立ち上がれば、ふと目にとまる窓の外。



朝の部活から変わらずの晴天。



白い雲はまばらに、本当によく晴れている。



別に約束をしてるわけじゃないが、この時間、テニス部のレギュラーに会えばそいつらと飯を一緒にするのが習慣。



1人で食うのもなんだし、味気ないから、それに関してはちょうどいいと思っている。



ビニール袋片手に、さてどこに行こうかと考えれば、悩むことなく思いついたのは、



きっと窓の外が、あまりにいい天気だったからだ。



















俺の靴音が廊下中に響いていた。



少し湿っぽい暗い空間は、校舎の隅にあることが作り出していた雰囲気。



あまり生徒が寄り付かないのは、俺たちテニス部がいつの間にか我が物顔で占領していたからなんだろうか。



俺以外に、そこに向かおうとしている生徒の姿はなかった。



昇りきった階段。



その行き止まりにあるドアの前で足を止めた俺。



ドアノブに手を伸ばし、ゆっくりと回せば、ガチャっと耳に響くドアが開く音。



目の前には、手すりと、青い空があり。



その向こうに屋上の床に座り込む、静かな横顔を見つけた。





「柳。」


「ジャッカル。」


「なんだよ、1人か?」


「お前こそ。」


「1人だからここに来たんだろ。」





聞くなよ。わざわざ。



そんなつもりで柳に笑う。



柳はといえば「そうだな」と言って静かに笑い。俺はそんな柳に肩をすくめた。



柳と俺以外誰もいない屋上。



俺は青空の下で足を進め、座り込む柳の近くに腰を下ろす。





「ん?」





柳の足近くに重箱のような弁当箱。



その近くにも、似たような威厳を伴った弁当箱があった。



・ ・・柳ってそんなに食べたっけ?



そんな疑問が浮かんだが、どうもその威厳を伴う弁当箱には、柳のものではなく誰かのものだった見覚えがある。



(・・・えっと・・・確か・・・・。)



あとちょっとだ。そこまで思い出しかけていたその持ち主。





<ガチャッ>





「む。ジャッカルか。」





そうだ、真田だ。



弁当箱の持ち主の名前と、屋上に姿を見せた真田の声が見事に重なった。



柳と俺に向かって歩を進める真田に向かって俺は「昼飯一緒にいいか。」のつもりで軽く手をあげる。



真田は自分の弁当箱を持ち上げると、柳の近くに座りなおした。



そこではっとする俺。



・ ・・なんだ、このメンツ。



珍しいっつーか、不気味っつーか。



柳と真田が部活のことでよく一緒にいるのを見たことがあったが、そこに加わってる俺。



別に狙ってたわけじゃない。



天気がいいし、たぶん。いや、必ず誰かいるだろうと思って来た屋上に、この2人がたまたまいただけで・・・・。



ちょっとうつむき加減で考えていたが、しょうがないと割り切る。



普段口数の少ないこの2人と、何か話すチャンスかもしれない。



そう思ってふと柳のほうを見た俺。



瞬間、息が詰まった。





「どっどうかしたのか、柳!!」





久しぶりに見た、いつもは閉じているように見える柳の目。



それが開いているところ。



しかもどこかを一心に凝視してる。




(・・・・怖ぇ!!)




俺の顔が青ざめるのがわかる。血の気が引く感じってきっとこんなだ。





「・・・・弦一郎。」


「なんだ、蓮二。」


「・・・それは受け狙いなのか?」


「柳、何言ってっ・・・・・・」





予想もしていなかった柳の口から出た言葉。



俺はどこかを凝視する柳の視線を追いかけた。



柳、真田、それから俺。



3人、円になるように座りこんでいる屋上。



俺は目を疑った。



苺ミルクと書かれたピンク色のパッケージ。



なんとも言えない存在感のそれが、真田の手に収まっていた。





「さっ・・・真田。・・・・それっ・・・・・・」


「・・・ああ、これか。」


「お前、そんなの飲むのか?!」





そんなもの、なんて言い方がどれほど苺ミルクに失礼かはわかってるつもりだった。



だけど、ちょっと待て。



落ち着け真田!いや・・・俺!



とまどいは隠せない。



真田には悪いけど、お前以上に苺ミルクが似合わない奴はいない。



お前ほどそのピンクが似合わない奴はいない。



そう思うほど、苺ミルクを手にする真田は違和感そのものだった。



固まる俺。



それ以上は何も言わない柳。



そんな俺たち2人を見て、真田が手にしていた苺ミルクを見つめた。





「・・・間違えた。」


「まっ間違えた?!」


「ああ。気付いたら押していた。」





間違うもんじゃねぇだろ、それ。



突っ込みたいことは山ほどあるが、それが口から出ることはなかった。



真田は平然とそう言ってのける。



飲み物を買いに行き、パックのお茶を買おうとした。



だが自動販売機が吐き出したのはこれだった。



間違えたのだと。





「「・・・・・・・・・・・」」





あの真面目な真田が冗談なんか言うはずもなく、柳が言うように受け狙いなわけもなく。



とりあえずは、無言のうちに誰からともなく昼食をとり始めた俺たち。



それは、本当に静かな昼食だった。



今まで赤也とか丸井とか仁王とか。



そんなメンツと昼食を一緒にとることが多かった俺にとってはその場は少しの冷や汗モノだった。



でも、これがこの2人にとっては日常で、普通のことなのかもしれない。



騒がしい空間で食べる時間も好きだが、時折吹く風に意識が向いたりだとか、



青空に目がいったりだとか、そんな自分の時間がゆっくりと流れていているような、黙々と昼食を取る空間も嫌ではなかった。




(・・・たまには、だけどな。)




毎日となると、騒がしいのに慣れていると思う自分には辛い気がした。



目に映った空はのんびりとしていて、その空を流れる雲は穏やかで。




(・・・・そういえば。)




そういえば今は、丸井と一緒にいんのかな。





































































































































のことでも、考えていたのか?」























































































































































































声にならない驚きは、一気に体温を上げた。



瞬時にして熱くなった気がする顔。



「なんで、わかった?!」そう思わず聞きそうになる勢いで、柳のほうを見た俺。



再び開いていた柳の目に映っていたのは、俺ではなく真田だった。





「・・・なぜそうなる。」


「お前が呆けていてそれを買って来たりするからだろう。」


「・・・・・・・・・・」


「苺ミルク。記憶と思考が一致したからじゃないのか?」





柳が口角をあげて真田を見て笑っていた。



真田は柳を見たまま、気が付けば、まったく飲まれた気配のない苺ミルクが屋上の床に置かれている。



(・・・記憶と思考が一致って・・・・・。)



真田との間に苺ミルクを挟んだ何かがあったというのか。



こんなに苺ミルクが似合わない真田と・・・・?



になら、この色もこのパッケージも。



違和感なく、似合うとまではいかなくても、とても自然な気がするのに。





「実感がないのならいい。」





何も言わない真田に、柳は瞼を閉じて静かに言った。



ちょっと俺の鼓動が騒がしくなったのは、柳が怒ってるんじゃないかとおかしな緊張を覚えたからだ。



再び走る沈黙と、黙々と進む昼食。



俺は最後のパンに手を伸ばしていた。



静かな静かな屋上で、思い出すのは、さっきまで考えていたこと。





「(・・・・そうえいえば。)」


「・・・・大変だろうけど、がんばれよ。マネージャー。」


「(?)」


「どうした?」


「・・・なんか、変だなって。がんばれって言われるの。本当ならあたしが桑原君や赤也に言うんじゃ・・・・・」


「・・・・ああ。・・・そうだな、間違えた。」






あのときは、がいて、赤也がいて、俺がいて。



初めてその笑顔を見た、騒がしい昼食だった。





「がんばろうな、一緒に。」





昼飯のパン、最後の一口に噛み付けば、俺の視線に映った苺ミルクのパッケージ。



真田は一口も飲まずに、黙ったままあの弁当を食べていた。



(・・・・なら、)



になら、この色もこのパッケージも。



違和感なく、似合うとまではいかなくても、とても自然な気がするのに。



・ ・・俺には、この空間はやっぱり静か過ぎたのかもしれない。



誰かと共有しているつもりであった時間は、いつの間にか考え事をするにはもってこいの、自分にとって自由な時間。



風の音と、校舎で誰かが騒いでいる遠くから聞こえてくる声。



それは、何も俺の思考を中断するものにはなってくれない。



近くにいるこの二人さえ、わざと俺に考える時間をくれているかのように静かだ。





「・・・・ジャッカル。」


「なんだよ」






は、今。



(・・・は。)



ちゃんと丸井といるだろうか。










「何、考えてんの?」










思い出すと、苦しくなる。



そう聞いてきた丸井。



あのとき、何もしてやれなかった俺。



何をしたらいいかもわからずに、何を言えばいいかもわからずに。



今朝の部活では、丸井もも笑っていたけれど。



いつも、俺は。



(・・・いつも。)



丸井の横顔を気にかけるしかできなくて。



が笑ってるのを見ると、バカみたいに安堵して。



苦しそうにしてる相方に、いつも、何もしてやれなかった。



助けてやりたいのに、どうにかしてやりたいのに。



手を伸ばすことさえ、できなかった。



赤也みたいに、仁王みたいに、柳生みたいに、柳みたいに、幸村みたいに。



を気にかけることさえ、どうしていいかわからずにいた。



立ち尽くして、いつもただ見てるだけ。



いつも通りに、コートの上に立っているだけ。



考えていたなんて言い方は、思い上がりにしか聞こえない。



信じてるって言えるほど、かっこよくもなれない。



いつも、何もできなかった。何も言ってやれなかった。



にも、丸井にも。



(・・・辛そう、だったのに。)



思い出すと、苦しくなる。



丸井の横顔を気にかけるしかできなくて。



が笑ってるのを見ると、バカみたいに安堵して。













































































「蓮二。昼休みはあとどれくらいだ?」































































































































































思考によどむには十分すぎた沈黙を破ったのは、意外にも真田の声だった。



重箱のような弁当箱の蓋を閉め、綺麗にその箱を布で包み縛る。



真田の問いに「30分だ。」と言う柳の答え。



俺は思い出していた出来事や想いを吹っ切るかのように頭を振ると、



今まで座っていた体をすくっと立たせた真田を仰ぎ見た。



真田の片手には布に包まれた弁当箱。もう片方の手には、真田が飲むことのなかった苺ミルクのパック。






「俺は行くところがある。じゃあな。」






どこに行くんだよ。そう俺が聞く前に歩き始めた真田。



突然の真田の行動に、その後姿を見ていた。




(・・・真田だって。)




真田だって、俺と同じだった。



赤也みたいに丸井につっかかるわけでもなく。



仁王みたいに何かを含んだ言葉をかけるでもなく。



柳生みたいにを気にかけるでもなく。



柳みたいにに接するでもなく。



幸村みたいに機会を作ろうとするわけでもなく。



俺と、同じ。



いつもただ、そこにいるだけで。



何も、してなかった。




(・・・そうじゃ、なかったのかよ。)




思い出せば苦しくなる。



考えていたなんて言い方は、思い上がりにしか聞こえない。



信じてるって言えるほど、かっこよくもなれない。



いつも、何もできなかった。何も言ってやれなかった。



にも、丸井にも。



真田は、そんなこと、何一つ思っていなかったのだろうか。



それとも、何かを見つけていたのだろうか。



俺とは違って、自分に出来ることを。



‘誰かのために’出来ることを。



ガチャっと閉まった屋上のドア。



真田の姿が屋上から見えなくなると、俺もすごい勢いでその場で立ち上がる。





「やっ柳!俺も行くところできたから、また部活でな!!」






食べ終えたパンの袋をビニール袋に詰め込んだ。



急いで走り出した屋上。



柳は俺に何も言わなかった。



掴んでいたビニール袋を、屋上から出てすぐそこに置いてあるゴミ箱に捨て去る。



駆け降りる階段。



どたどたと鳴る足音。



見つけた後姿に、よかった。追いついた。



そう安堵する。



俺の勢いの良すぎた足音に、きっと振り返った真田。






「廊下を走るなぁ!!!!!!!!」


「真田!!」


「ジャッカル、貴様!!誰かにぶつかって怪我したらどうする!常識を身につけろ!!」


「わっ悪ぃっ・・・・・・!!」






一気に駆け下りた階段。



さすがに少しの息切れを覚えたが、大きく何度か息を吸い込めば、すぐにでも呼吸は整った。





「・・・・何か俺に用か?」


「べっ別に。」





肩をすくめながら笑顔でいる俺を、真田は怪訝な顔で見ていたが、



それ以上何も言わない俺からすぐに視線を外して、向かおうとしていた方へと、廊下を再び歩き始めた。



その真田の後ろを、大体5メートルほどの感覚をあけてついていく俺。



・・・用はない。



特にない。



真田の片手にある苺ミルクが視線に入る。



真田は、それを飲む気はないのだろうか。さっきからなんら変わらない様子のそれ。



真田のあとを付いてくる俺に、真田は何度か足をとめて振り返る。



俺はそんな真田と目を合わせる度に真田同様、足を止めてはにこっと笑う。



なんでもない、そんな意味を含め。




(・・・どこに、行くんだよ。)




真田は校舎中を歩き回った。



時折足取りを速め、時折スピードを落として。



俺はそんな真田にぴったりとくっつく。



同じ感覚の距離のまま。




(・・・真田だって。)




真田だって、俺と同じだった。



赤也みたいに丸井につっかかるわけでもなく。



仁王みたいに何かを含んだ言葉をかけるでもなく。



柳生みたいにを気にかけるでもなく。



柳みたいにに接するでもなく。



幸村みたいに機会を作ろうとするわけでもなく。



俺と、同じ。



いつもただ、そこにいるだけで。



何も、してなかった。



・ ・・・そうじゃ、ないのか?



思い出すと、苦しくなる。





真田がちょっとした角を曲がった。



真田を見失う気などない俺は、すぐ様歩調を速め、真田が曲がった角と同じ角を曲がる。






「・・・・・あ。」


「なぜ俺のあとをついてくる。」


「べっ・・・・別にっ・・・・・・・」






曲がった角のすぐそこで、真田は腕を組んで、足を止め、俺を待ち伏せていた。



真田の俺を睨んでくるすごみに、俺はすぐさま合っていた視線をそらす。



・・・用はない。



特にない。



真田の片手にある苺ミルクが視線に入る。



ただ、俺にはあの時間が静か過ぎたんだ。



・ ・・なぁ、真田。



その苺ミルク、記憶と思考が一致したから間違えたんだろ?



思い出せば苦しくなる。



考えていたなんて言い方は、思い上がりにしか聞こえない。



信じてるって言えるほど、かっこよくもなれない。



いつも、何もできなかった。何も言ってやれなかった。



にも、丸井にも。



真田は、そんなこと、何一つ思っていなかったのだろうか。



それとも、何かを見つけていたのだろうか。



俺とは違って、自分に出来ることを。



‘誰かのために’出来ることを。



俺は。・・・俺は誰かのために、何かできなかったのか。



何か、できること。



別に、何も用はない。



ただ、答えを。











































































































































































































問いのない答えを、知りたくて。





































































































































































































































































































「さっ・・・真田っ・・・」


「なんだ。」


「えっと・・・・・」





真田は再び歩を進めた。



俺が何も言わないから、別段何かを追及するつもりもないんだろう。



俺は今度は真田の隣を歩いた。



5メートルも距離をあけることなく、後ろをついていくわけでもなく。



ただ、同じ気がしていた。





「(・・・中庭・・・・・。)」






何も言えない俺。



何も言わない真田。



真田の隣を歩いてくればたどり着いた中庭。



さっきから校舎の中を歩き回っていたかと思えば、結局ここに来たかったというのか。



真田の顔色を伺うと、中庭を見渡している真田。



俺も同じように中庭を見渡すが、そこには昼食をとっている生徒。雑談をしている生徒。



そんなごくごく普通の日常の光景があるだけ。





「さっ・・・真田?」





真田が再び歩き出す。



中庭に用があるんじゃなかったのか。



そう問いたかったが、真田のあとを付いてくる俺に真田自身何も聞いてこようとはしなかったから、俺も何聞けなかった。



真田の手にある苺ミルク。



・ ・・本当に。



なんでこんなに似合わないんだ。



真田には悪いけど、そのかわいらしいパッケージもその色も、真田に似合うはずもなくて。





「・・・苺ミルク。」


「・・・何か言ったか。」


「・・・・・さっ真田もさ!!」





赤也みたいに丸井につっかかるわけでもなく。



仁王みたいに何かを含んだ言葉をかけるでもなく。



柳生みたいにを気にかけるでもなく。



柳みたいにに接するでもなく。



幸村みたいに機会を作ろうとするわけでもなく。





には甘いよな!!」





でも、誰もがそうであるように。俺がそうであるように。



真田だって、を大切に想ってること。



本当に、なんとなくでしかなかったけど、わかってるつもりだった。





「・・・甘い?俺が?」


「ほらっ丸井とが買出しに行った日。の調子が悪そうだからって部活切り上げたじゃねぇか。」


「・・・・・・・・・・」





歩みを止めない真田。



その隣を歩く俺。



まだどこか向かうところがあるのだろうか。



真田は俺のほうを見ることなく俺の声を聞いて、答えた。









「・・・・あれは、に無理をさせるつもりはなかったからだ。」










真田の横顔は、いつもと変わらない。



歳不相応の威厳。風格。



ずっとそうだった。いつもそうだった。



が辛そうなときも、丸井が苦しそうなときも。



ずっと。『いつも通り。』



俺だってそうだった。それしかできなかった。



横顔しか、気にかけることができなくても、いつも通りにコートに立った。



いつも、何もできなかった。何も言ってやれなかった。



にも、丸井にも。



真田は、そんなこと、何一つ思っていなかったのだろうか。



それとも、何かを見つけていたのだろうか。



俺とは違って、自分に出来ることを。



‘誰かのために’出来ることを。



(・・・・俺は。)



俺は。








「って、真田!!」



「付いてくるなら来ればいい。」








真田は昇降口から靴を履き替えた。



校舎の中から今度は外。



・ ・・本当に一体



(どこに行くんだよ。)



真田は何も言わない。



俺は何も聞けない。



真田の片手にある苺ミルクが、俺を見て笑ってる気がした。




「(・・・裏庭?)」




俺の足はその場で止まって。真田は俺の先を歩いていった。



真田の行動が読めなくて、ここでこの前まで咲き誇っていた桜が、色鮮やかに思い出されて。



風が吹くたびにさらわれた桜の花びらが、コートに届いていた。



その桜の花びらが、には本当によく似合った。



真田の手にある苺ミルクのパッケージに似た色。



真田には悪いけど、お前以上に苺ミルクが似合わない奴はいない。



お前ほどそのピンクが似合わない奴はいない。



そう思うほど、苺ミルクを手にする真田は違和感そのものだった。



でもそれは、にとても似合っていて。



思い出す桜の花びら。その色。



優しく淡い、その色が。













とても、似合っていて。














「・・・・真田。」


「なんだ。」


「・・・・・お前さ。」













裏庭をきょろきょろと見渡す真田。



一体何の用なのだろう。



そんなことを考えながら、思い出すのはだった。



・ ・・・だって、そのピンクは。



淡くて、優しくて。



真田にだって、もちろん俺にだって、似合うことはないけれど。







「・・・・真田はさ。」


「・・・・・・・・・・・・」


「真田は・・・・・と丸井に、何ができたと思う?」








には、とても、似合うから。



(いつも。)



何もできなくて。何も言えなくて。



手を差し伸べたいのに、できなくて。



辛そうなのに、苦しそうなのに。



その場で、立ち尽くすことしか、俺にはできなくて。



真田は、ゆっくりと俺に振り返った。







「・・・・と丸井にできたことなど、・・・・俺には何もない。」








もう、散ってしまった桜。



ここにはもう咲いていないのに。



思い出すことがたやすいのは、真田の手にある苺ミルクのせいだ。













「できたことなど、何もない。」


「・・・・・・・・・・・・」


「・・・・だが、誰が指さし笑っても、俺は笑わない。」


「・・・・・・・・・・え?」













俺は、真田と俺は同じだと思っていた。



同じだと思ってきた。






「誰かが嘆いても俺は黙っている。誰かが迷っても俺は揺るがない。」






俺に見えたのは、真田の横顔。



いつも通りの横顔。



年齢不相応に威厳を伴い、厳格で。



厳しさを持った真田の横顔。








「だから、ここにいる。」









だから。
















「あるべき場所であろうと思っていただけだ。」















誰かが指差し笑っても。



誰かが嘆いても。



誰かが迷っても。



行くあてがなくならないように。帰ってこられるように。



できたことなど何もない。



・ ・・いや、むしろ。



できることなんか、何もなかったんだ。





「・・・・なんだ、ジャッカル。」


「・・・・真田って、・・・すげーな。」





意外に。



・・・とは、言わなかったけど。



俺の目から鱗。



何も、声になんかならなくたって。



他には何もできなくたって。




(・・・合ってたのかな、俺。)




‘誰かのために。’なれただろうか。



何も、声になんかならなくたって。



他には何もできなくたって。





























































































































































































































































待つことだけは、出来たんだ。






























































































































































































































































「信じてる」なんてかっこいいことは言えなかった。



でもいつも「信じてた。」



ここに、コートに、ちゃんと戻ってくる。



真正面から向き合わなければならないのは「敵」



なら、真横で同じ砦に立つ仲間は「味方」



たとえ、横顔しか気にかけてやれなくたって。



それできっと。





(・・・十分なのかもしれない。)





なぁ、丸井。



お前はちゃんと、今もコートに立っているから。



ただ、答えを。



問いのない答えを、知りたくて。














「・・・ジャッカル。」


「ん?」


「部室に行くぞ。」


「今度は部室ってっ・・・おい真田、さっきから何なんだよ!!」





真田の足はどんどん進む。



昼休みはあとどれくらい残っているのだろうか。



裏庭を後にした真田がコートへと向かう。その後を俺も追いかける。



なんだかもう、ここまで来たらどこまでもついていくしかない。



真田が何をしたいのかも気になるし。



校舎中、それから中庭、裏庭、で、次が部室・・・・・。



真田の手が、部室のドアノブを掴んだ。




<ガチャッ>




真田の背中が隠していて、俺からは見ることのできなかった部室の中。






「ここにいたのか、。」


「真田くん!!」


「(・・・?)」


「真田副部長。さん探してたんすか?」


「ってか真田の後ろにいるの、もしかしなくてもジャッカルだろぃ?」


「真田・・・・。それ受け狙いとよ?」


「って!!真田副部長が苺ミルク?!」






真田が部室の中に足を進めたことによって俺の視界が開ける。



部室のイスに座ると、目が合った。



その笑顔が見えて、俺はバカみたいに酷く安堵して。



あの桜の花びらを思い出した。



に似合うその色を。



部室にある机を挟んで、の隣に丸井が座り、2人とは反対側に赤也と仁王が座っていた。




<どんっ!>




突然の物音に、俺は急いで音のするほうを見ると、



真田がずっと手にしていた苺ミルクをの前の机においていた。



俺は咄嗟に目を見開いたまま真田の姿を見る。



見えたのは、かすかな横顔。





「やる。」


「・・・え?」


「間違って押したらしい。」


「私に?・・・真田くん飲まないの?」


「・・・・俺には甘すぎる。」





・ ・・真田、まさか。



このためにずっとを探して歩き回ってたのか?




には甘いよな!!」




・ ・・・・そうか。



(・・・そうだよな。)



だって、真田。



お前には似合わないもんな。



そうだよな。



あの桜の色も、その苺ミルクの色も。



・・・・そうか、この色が。



そうか。







「あっ・・・・・・真田くん、ごっごめんね!あの時!!嫌だったでしょう?!苺ミルク!!」


「って!ちょっと待ってくださいよ、さん!!」


お前真田に苺ミルクあげたと?」


「・・・強すぎだろぃ、。」








詳しくは、知らないけれど。



真田との間に、苺ミルクを挟んで何かあったのは事実。



お前ほどこの色が似合わない奴はいないと思わせる真田に、苺ミルクをあげた



・ ・・すごい奴だと、思った。






「・・・別に。」







真田に集まる視線。











「嫌いな色じゃないから平気だ。」


「(!!)」











そうか。



・ ・・そうだ。




「・・・・俺には甘すぎる。」




この色が、あの色が。



これが、



答えだ。






「ははっ・・・・・」


「桑原くん・・・・・?」


「悪いっ・・・・・・・おかしくてっ・・・・」







部室で1人笑う俺。



みんなが怪訝な顔をしてみてる。



も不思議そうに俺を見てる。



苺ミルクが目にとまって、俺は笑った。



そうだ。





「・・・・大変だろうけど、がんばれよ。マネージャー。」


「(?)」


「どうした?」


「・・・なんか、変だなって。がんばれって言われるの。本当ならあたしが桑原君や赤也に言うんじゃ・・・・・」


「・・・・ああ。・・・そうだな、間違えた。」






真田には悪いけど、その色が真田に似合うはずもなくて。



優しくて淡い、その色が。



にはとても似合っていて。



そうか、あの色が。



いつも俺たちを、優しくまとう。



そうか、この色が。






















「桑原くん?」



。」



「ん?」



「これからも一緒にがんばろうな!!」



「(!!)」


































いきなりの俺の発言に驚く周り。



は、そんな中。静かに笑んで。



その笑顔で、バカみたいに安堵する俺。



初めて、俺たちとが出会ったときの緊張感も、とまどいも。



今では、遠すぎる記憶。



そうだ。















































































「うん!!」





































































































































これが、答えだ。







































































End.