同い年。
隣のクラス。
だけど
追いかけるほどに遠ざかる気がして
俺のほうが子どもだから?
いや、同い年だろ。
『手ごわい彼女』
教室の中にいれば近くにいるクラスの奴に呼び出してもらって
廊下側のドアの近くにいれば声をかけて。
教室と廊下の境で話をする。
「なぁに、赤也。またなんか忘れたの?」
「あーうん。貸して、。」
休み時間に
自分のクラスから廊下へ出ては会いに行く
隣のクラス。
「何を?」
「英語の辞書。」
「英語?珍しくやる気なんだ」
「・・・いや、やる気なんかねぇけど」
「ちょっと待ってて」
そう言って教室に入って
自分の机にが向かう。
忘れ物なんかに話しかける口実。
毎日のように何かを忘れたことにして
に借りに行く。
「はい、赤也」
「ありがとな」
から借りた辞書をパラパラとめくる
「折角貸してあげたんだからちゃんと授業受けなよ、英語。」
「・・・っていうかって英語相当やってる?」
使い込まれたそれ。
何度も辞書をひいた跡がある。
「赤也みたいに辞書を学校に置きっ放しにしたりしてないのよ」
「・・・・・(バレてるし)」
はずるい。
わかっているくせに
知らないフリをする。
俺が忘れ物なんかしてないことも
俺が休み時間のたび
忘れ物をしたフリをしてまで
隣のクラスへ足を運ぶ理由も。
「」
「なぁに、赤也」
「今日一緒に帰らねぇ?」
同い年。
隣のクラス。
「・・・赤也は部活があるでしょ?」
「当たり前じゃん」
「あたしは部活に入ってないの。帰る時間が合わないでしょ?」
「(知ってる)だから、待っててくれればいいだろ?」
「えー」
(いや、えーじゃなくて)
はずるい。
わかっているくせに
知らないフリをする。
追いかけるほどに遠ざかる気がして
俺のほうが子どもだから?
いや、同い年だろ。
「・・・嫌なのかよ。」
「赤也がどうしても一緒に帰りたいって言うなら別だけど」
「・・・(ずりぃ)」
わかっているくせに。
が俺の顔を覗き込むようにして笑っていた。
(・・・かわいい)
ずりぃよ。
そうやって言わせてどうすんの?
なら。
お前は?
お前はどうなんだよ。
「・・・は?」
「え?」
「は俺と帰りたくないのかよ。」
こういう時うらやましく思う。
たやすく人をだませるぺてん師が
(をだます気なんかないけど)
妙技を知ってる自称天才が
(何の妙技だよって話だけど)
は俺の顔を覗き込むのを止めて
口元に手をあてて何かを考えているみたいだった。
「うーん・・・」
「うーんって。」
「帰りたくないわけではなくはない。あれ?帰りたくないわけではなくはないわけではない?」
「・・・結局なんだよ。」
(かわいい)
口元に手をあてて悩んでる姿が。
「赤也が辞書を返す時間がないなら帰り道でいいよ」
「・・・一緒に帰ってもいいってこと?」
「さぁ」
「さぁって。」
はずるい。
わかっているくせに
知らないフリをする。
「俺は一緒に帰りてぇんだよ。」
だますこともできないし
妙技なんか持ってねぇし。
だったら直球。
わかってるんだったら答えてもらおうか。
「。気付いてるんだろ?」
「・・・何を?」
「だぁから。俺はが好っ・・・」
「しー。」
自分の口元に人差し指をあてて
俺の顔に今までないくらいに近付いた。
「折角今日一緒に帰るんだからその時にしようよ。」
俺の顔を覗き込む。
(かわいい)
ずりぃよ。
わかってるくせに。
「は、俺と帰りたい?」
「帰りたくないわけではなくはない。あれ?帰りたくないわけではなくはないわけではない?」
「・・・だから結局なんだっ・・・」
「一緒に帰りたいよ」
時間がとまる
俺に笑いかけながら言うな。
ずりぃよ。
わかってるくせに。
「だから、さっきの続きは帰りね。」
(かわいい)
俺の好きな奴。
同い年。
隣のクラス。
追いかけるほどに遠ざかる気がして
俺のほうが子どもだから?
いや、同い年だろ。
「あっ予鈴」
「ちょっと待て!!!」
チャイムが聞こえて教室の中に入って自分の机に向かう
こっちを向いて笑った。
(・・・ちくしょう。かわいい)
「部活終わるまで待ってろよ」
周りにも誰にも聞こえていないと思ってつぶやいたはずなのに
がこっちを見てうなずいた。
(ずりぃよ)
そうやって
わかっているくせに。
そうやってお前は
これから先もずっと俺の好きな奴であり続けるんだ。
(ずりぃよ。)
帰り道。
俺の心臓の音は誰かに止めて欲しいくらいにうるさかった。
end.