回帰する日々に



あたしは退屈だと口にした。







「俺が変えてやろうか?」


「え?」






あなたがそう返したあの日から



あたしはあなたの彼女になった。





















『通信慕』


















「今日は?」


「まあまあだった、かな。」


「まあまあって何だよ」


「まあまあよ。T’m soso.」


「英語なんかできねえだろ?


「できてるじゃん。soso!」


「バーカ。」






景吾の笑顔が好きだ。



嫌味のような、あきれたような、優しいような。



バーカって言いながらあたしの頭をなでる



その手が好きだ。









「景吾は?どうだった?」








あなたが部活に行く前のほんのひと時の会話。



廊下で顔を合わせては、



あたしは喜ぶ。





「・・・・・まあまあじゃねえの」





あいまいな、曖昧な



その答え。





「・・・・・sosoね!景吾も!!」


「発音が悪い」


「そーそー?」


「T’m soso.」





流暢な、発音の良い、景吾の英語。





「すっげ!景吾!!」


「すっげって、お前な・・・・」





笑いながら、あたしの頭を景吾がなでる。



好きだ。



毎日、そう言う。



心の中で。






「じゃあな。」


「あ、はい。・・・・さよなら。」





手を振る。



あなたの背に。



あなたが部活に行く前のほんのひと時の会話。





「今日は?」





英語の省略語句のように本当はその後、言葉が続く。






‘今日は退屈だったか?’






あたしは答える。



まあまあ。



曖昧な、あいまいな。



そしてあたしも聞き返す。






「景吾は?」







ある日あたしは回帰する日々に



退屈だと口にした。






「俺が変えてやろうか?」






退屈を消してくれると言う景吾。



毎日は、すぐに退屈ではなくなった。



景吾と付き合うようになって日ごと彼を好きになる。



退屈なはずがない。



考え始めればきりがない、あなたのこと。



でも、それは


































恋じゃなかった。

















































退屈だったのは



本当は景吾のほうで。





「なあ跡部。と付き合い始めたんやって?」


「ああ、まあな。」


「へえ。」


「なんだよ」


「いや、また退屈しのぎなんかなあと」





屋上で偶然聞いてしまった、景吾と忍足の会話。



景吾が今まで付き合っていた子達は退屈しのぎだったんだと知った。



あたしも、退屈しのぎなんだと。






































・・・・・退屈。



回帰する日々。



あたしが感じたそれを、あなたも持っていたんだと。











































付き合っているのに片思い。



馬鹿馬鹿しいにもほどがある。



だから、これは恋じゃない。



あたしだけがあなたを好きになってしまったから、



だからこれは、


















































恋ではない。



















































「・・・・・」


「睨んでるだけじゃ頭に入る訳ねえだろ?」


「ちゃんと読んでるよ。読んでるけどわからないの。」


「ちゃんと読めてないからだろ」


「あ。」






あたしが顔を信じられないほど近づけて読んでいた化学の教科書。



景吾があたしの手からとりあげた。



お昼の食堂。



景吾と向かい合って座るから回りの視線は悲鳴をあげんばかりに痛い。



なんてったって景吾。



氷帝の帝王。






「・・・・その生成式。」


「これは・・・」


「ああ!ダメ!!景吾は頭いいから!!」


「・・・・・意味わかんねえよ、






必死で取り返した教科書。






「自分で理解できるまでやる」


「できるのか?」


「・・・・その時はその時で。」


「バーカ」






景吾の笑顔が好きだ。



嫌味のような、あきれたような、優しいような。



バーカって言いながらあたしの頭をなでる



その手が好きだ。



退屈だなんて誰が言うか。






「本当にあきないな。お前。」


「へ?」


「わかんなかったら俺に聞けばいいだろ?」


「・・・・・」


「返事は?


「え?あ、はい!」






好きだ。



毎日、そう言う。



心の中で。










‘今日は?’










聞かれれば、答えられるんだ。



退屈じゃなかった。



退屈じゃいられなかったって。



でも、そしたらあなたの退屈しのぎは終わりじゃありませんか?



恋ではないこの関係は、終わりではありませんか?



あたしばかりが好きでいるこのむなしさ。






(馬鹿馬鹿しい)






恋では、ないのに。












































あたしはあなたに好きと言う。



心の中で。







































































































「景吾!」






廊下で顔を合わせては、



あたしは喜ぶ。



あなたが部活に行く前のほんのひと時の会話。



生徒の大半が部活へ行くか、家へ帰るかのこの時間。



人はまばら。





「あれわかったか?」


「・・・生成式?」


「で?」


「・・・・・教えてください。」


「・・・ホント馬鹿だな、


「ほっといて!」





景吾の手があたしの頭をなでる。



好き。



あたしに笑いかける。



嫌味のような、あきれたような、優しいような。



好き。





「今日は?」


「・・・・今日は・・・」





好き。



毎日言う。



心の中で。



恋ではないのに、あたしはあなたに恋を告げようと必死だ。





「まっまあまあかな!」


「またかよ」


「景吾もどうせそうでしょう?」


「・・・・まあな」





好き。



好きなのに。



あたしばかりが好きなので



こんなの恋じゃない



退屈しのぎの遊びなら



こんなの恋じゃない

















































恋じゃない。

















































「景吾。」


「あん?」


「・・・・本当は退屈だったのは景吾の方でしょ?」


「・・・・・・・・」






回帰する毎日に



のんきなあたしは率直に口にしただけ。



退屈。






「・・・・・・・・・・・・・・本当はね、あたしもう退屈なんかじゃないよ」






退屈なんかじゃいられない。



好き。



あたしだけの想い。



退屈なわけがない。



日ごとあなたを好きになる。



でも、





「あたしは景吾の退屈しのぎになれた?」


「・・・・何のことだよ」


「前、屋上で景吾と忍足が話してるの聞いたんだ。」


「・・・・・・」


















こんなの恋じゃない。


















付き合ってるのにあたしだけが好きで、あなたにとっては退屈しのぎ。






「あたしは、もういいよ。景吾は?」


「・・・・・そうだな。といると退屈はしなかった。」


「まあまあ?」


「T’m soso.」





流暢な、発音のいい景吾の英語。



好きなのに、恋ではないなんて。



馬鹿馬鹿しい。



だから、いい加減



この想いに終止符を。





































「今までありがとう」


「・・・・・・・バカだな、。本当に」






心が割れそうだ。



痛くて、痛くて。



心が割れそうだ。



あなたが好きで。





嫌味のような、あきれたような、優しいような。





「・・・・バカはどっちよ」


だろ?」


「勝手に決めないで。ひっ人の気もしらないでっ・・・・・」


「それはこっちのセリフだ。」





心が割れそうだ。





「泣くくれえなら、嘘なんかつくんじゃねえよ。もういいなんて」





泣くのは、仕方がないんだ。



恋ではないというのに、あなたに好きと言うあたしがいる。



心はあなたに恋を告げたくて、必死。



手でどうにか拭こうとする涙。



手はあたしの視界を一度は覆ったが、涙をぬぐってどかしたはずなのに



涙を拭いた後も視界は何かに覆われている。





「けっ景吾?!」


「はじめは、退屈しのぎ。それは本当だ。」


「・・・・・・」


「どんな奴といても、誰と付き合っても退屈なのは変わらなかったけどな。」





あたしの視界は景吾に覆われる。



景吾に抱きしめられて。












「でも、お前といる時は違う。」











好き。



あなたの声が体中に響く。



好き。



あたしの声が体中に響く。





「・・・・生成式。」


「あ?」


「まだ景吾に教わってない。」





退屈だと



回帰する毎日に告げた。



あなたは、変えてくれると。



日ごとあなたを好きになる



毎日、好きと心は言う。
















「教えてくれる?」


「俺が教えなきゃわかんねえんだろ?」


「ごめんね、バカで。」


「一緒にいてあきねぇけどな。」































あなたに恋を告げて、いいですか?














































「景吾が好きです。ごめんなさい。」


「・・・・・・謝る意味がわかんねえよ」






体を離せば、景吾はあたしの頭をなでた。






「退屈になんか、させねえよ」


「もう、退屈なんて思わないよ・・・」


「思えねぇんだろ?」






景吾の言葉に驚愕してみせるあたし。



景吾の笑顔が好きだ。



嫌味のような、あきれたような、優しいような。



バーカって言いながらあたしの頭をなでる



その手が好きだ。








「俺は思えねぇんだよ。」







恋ではないと思ってた。



あたしだけが好きだったから。



でも今はあなたに、精一杯の




























































恋を告げる。
























































End.