呼吸すらも忘れて





まばたきすらも忘れて





ただ何もできずに立ち尽くす









「呼吸停止!脈は微弱です!!」


「君!この子の知り合いかい?!」








この子って誰のこと?








「君?!おいっしっかりしたまえ!!」

































俺の目の前で車にはねられた。





























『弱虫プレリュード』




























ピーポーピーポー・・・



口にすれば間抜けな救急車の音は



俺を馬鹿にしてるみたいに鳴り続ける。






ピーポーピーポー・・・






が運ばれる救急車に同乗した俺。



目の前には必死でに処置をする救急隊員。



知らない用語が飛び交い



知らない機器が動く



ただ何もできずにの顔を見つめる俺。



血の気のないの顔は白くて。






「・・・は・・・は助かりますよね?!」






急に現実を直視したような感覚。



、どうして目を開けないの?



切羽詰った救急車の中、の処置に懸命になっている一人の服の袖を掴んで聞いた。






「大丈夫!助かるよ!!」


「・・・・・・・・・」






ピーポーピーポー・・・






不安を安心に変えたくて聞いた言葉は気休めにしかならなかった。



必死な表情で助かるよ、なんて・・・。






「・・・






呼んだんじゃなくてつぶやいた。



毎日のように口にしていた名前。






























































「清純。今度の日曜日は?」


「あーごめんね、。部活。」


「本当に部活?」


「本当だよ!」


「じゃあしょうがないね」






の横顔が好きだった。



日曜日に一緒に出かけられないってわかった帰り道



どこか沈んだの表情。





(好きだよ)





いつもどこか不安そうな



きっと俺が原因。






「きーよーすーみー」


「うん?」






沈んだ横顔が笑顔に変わる。






「あたしのこと好き?」


「好きだよー。」


「本当に?」


「うん。好き好きー。」


「・・・ちゃんと言ってよ。」






いつも冗談めかしてしか言えなかった。



弱虫な俺。



いつだって君と真正面に向き合えないまま。





(好きだよ)





弱虫な俺。



の横顔が好きだった。



それは、いまだに真正面から向き合えない俺の言い訳だったんだ。

















































「このまま目を覚まさなければ危険です。」






の交通事故から一週間。



があの日から目を覚まさない。



医者が言った言葉にの両親は病室に踏み入れることが出来なくなってしまったらしい。






「千石君。ついててあげてくれない?」






涙目ののお母さん。






「俺でよければ。」






俺はあの日から毎日、の病室に通った。



一歩病室に入れば、外とはまったく違う雰囲気に飲み込まれそうになる。



ベッドで眠るの顔色はあの日の白ではなかったけれど



目覚めてはくれなかった。







。」






呼んだんじゃなくてつぶやいた。



























































!」






交差点。



赤信号。



車。



子供。



助けた?



血。











交差点。



俺。



血。
























「き・・・よす・・・み・・・・」






















「君!この子の知り合いかい?!」






この子って誰のこと?



手。



俺を探してた。



車。



血。



























!!」












の手は血だらけで俺を探していて。



駆け寄って手を取って。









!!」








ピーポーピーポー・・・








なんで?なんで、なんで?



どうして、助けてあげられなかった?






!」


「き・・よすみ・・・」






なんで?なんで、なんで?



弱虫。



弱虫。







































「あたしのこと・・・・・・好き?」































































































「好きだよ。」





好きだよ。



ずっと。



ずっとずっとずっと。



ずっと。



ずーっとずっと。



好きだった。






「だから、目を覚まして?






君の眠るベッド。



手を握り締める。



温かい。



生きてる。






「早く目を覚まさないと危ないってよ?」






暖かい。



生きてる。



にうまく笑いかけること、できているのかな。






。」






つぶやいたんじゃなくて呼んだ。



俺逃げてたんだ。ごめんね。



弱虫で、ごめん。








「ラッキーだなんて思えなくなったんだ。」







君に会えたこと、必然だって。



君の名前を呼べること、運命だって。





俺らしくもないだろ?





君に会ってから自分が変わっていく気がして。



だって体温が上がるし、呼吸も鼓動も速くなるし。



何より






弱虫になった。






ずっと。



ずっとずっとずっと。



ずっと。



ずーっとずっと。



想っていたんだ、君の事。
















だから、嫌だよ。















































、いなくならないで?」









































君が好きだよ。



弱虫になるくらい。



ちゃんと言うから、だから目を開けて。



君の目が覚めたら



きっとは俺に笑いかけてくれるから、



そしたら君の真正面を向いて。









・・・目、開けてよ。」








握り締める手。



もう、笑いかけることは難しい。



だって、温かい。



生きてる。






































































、起きて。





好きだと言わせて。





弱虫な俺に。






























































































「き・・・よすみ・・」


「・・・?」






俺の手を弱弱しく握り返すの温かみ。






「あたし・・・?」


「事故にあったんだよ、子供を助けようとして。」


「清純?・・・泣いて・・・」


。」









まだ起き上がることの出来ない体を抱きしめた。








・・・。」







温かい。



生きてる。







「ごめんね。清純。」






笑いかけたい。







。」







つぶやいたんじゃなくて呼んだ。



体を離してと真正面から向き合う。



が笑いかける。





「清純。泣かないで。」





は俺の頬に手を触れて、涙をすくった。































、好きだよ。」



























ずっと。



ずっとずっとずっと。



ずっと。



ずーっとずっと。



好きだった。



ごめんね、弱虫で。











「・・・うん。ありがとう、清純。」










俺はにうまく笑いかけているかな。
































、好き。」









































君の手に一雫。



弱虫な俺の涙が落ちた。


























end.